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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

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リバイヴ・オブ・ディスピア 会議②

 イーリスの言葉に、ガンダールヴは納得したようにふむふむと頷く。



「なるほどな。それならこの城を絶対に守れってのに納得だ。となると、城の外に防壁を作って……バリスタとかそういうのも用意が……必要な素材は……作業時間は…………」


「あの……?」


「……ブツブツ」


「あ、あうぅ……」




 いきなり考え事に没頭し始めてしまったガンダールヴにガン無視を喰らったイーリスが、困ったような表情を浮かべ、声を詰まらせた。

 そんな彼女を見かねたように、ガンダールヴの背後に立っていた女性が、イーリスに向かって頭を下げた。能面のような無表情の、灰色のポニーテールの女性だ。シルバーフレームの眼鏡の奥の瞳には、一切感情の色が見えない、機械のような無機質さがあった。

 その視線に晒されたイーリスが、ちょっと怯えたように後ずさった。



「申し訳ございません、聖女イーリス様。ウチのギルドマスターは一度生産のことを考え始めると、中々帰ってきませんので……。会議の内容は後で私から伝えさせていただきますので、ご安心を」


「あ、ありがとうございます……。えっと、貴女は?」


「申し遅れました。私は【クラフト】の副ギルドマスター、ファイストと申します。主な役割はこの生産バカのフォローです」


「そ、そうですか。えっと……た、大変そうです……ね?」



 ピクリとも表情を動かさないファイストの本気か冗談か判断の付きづらい言葉に、イーリスはさっきとは違う意味で言葉を詰まらせた。


 そんなイーリスの様子を気に留めることもなく、ファイストは「どうぞ、会議を続けて下さい」と淡々と促した。



「で、では、続いての話なのですが……」



 聖女様モードが若干解けかけているのか、細く形の良い眉がへにょんと下がっている。それでも気丈にふるまい、会議の進行をしっかりと務めようとするイーリス。



「あら、ちょっと待ってくれるかしら?」



 そこに追い打ちを掛けるように、すくっと手が伸びた。一瞬だけイーリスの顔が泣きそうにくしゃりと歪むが、ぐっと机の下で拳を握りしめてそれを引っ込めた。イーリスは強い子だから負けないもん! と気合を入れ直す。


 そして、聖女様モードを再度発動! キリッとした表情で口を開き。



「質問ですか。良いでしゅよ」



 刹那、会議室に痛いほどの沈黙が訪れる。



 噛んだ。思いっきり、噛んだ。誤魔化し様の無い見事な噛みっぷりだった。


 自分の失態に気が付いたイーリスのすまし顔が、真っ赤に染まっていく。今にも顔を覆ってうずくまってしまいそうだが、目元に涙を浮かべながら必死に耐えている。


 会議室にいる面々は、アイコンタクトで意思疎通を図った。


 チラッ(「とりあえず、スルーの方向で」)。


 コクリ(「「「了解」」」)。


 なんとかイーリスの体面を取り繕おうと、「今、何かありましたかしら?」みたいな表情を浮かべる一同。しかし、


 

「良いでしゅよ……ふふっ!」


「あ、おいコラアテネてめぇ!」



 全ての努力をあざ笑い、思わずといったように噴き出したのは、ガンダールヴの次に質問しようとしていた、豪奢かつ見事なウェーブのかかった薄桃色の髪を持つ少女。ギルド【ヴァルハラ】のギルドマスターであるアテネだった。


 他の面々の努力を一瞬で無意味にしたアテネに、アポロがツッコミを入れる。だが、アテネはまるで堪えた様子もなく、クスクスと笑い続けている。


 



「笑うのをやめろよ!? 聖女様泣きそうになっちゃってるだろ!?」


「だってしょうがないじゃない? あんなに綺麗で真剣な顔をしながら噛むんだもの。笑うなっていう方が無理な話だと思わないかしら?」


「だとしても、そこはスルーするだろ普通!」


「あら、じゃあアポロはまったく、これっぽっちも笑いそうにならなかったって、胸を張って言える?」


「え゛……、そ、それは……その……」



 アテネの艶やかな笑みと鋭い質問に視線を彷徨わせるアポロ。だが、その態度が何よりも雄弁に語っている。



 ――――正直、めっちゃ笑えた、と。



 噛んじゃった聖女様が押し寄せる羞恥心の波にプルプルと震える。彼女のライフはとっくの昔にゼロである。これ以上の死体蹴りは勘弁してあげて欲しい。アテネの口車に簡単に乗せられたアポロに、会議室中から非難の視線が突き刺さる。特に、背後のサファイアからの視線の冷たさは、絶対零度のソレである。


 けれども、聖女様はめげずに立ち上がる。目元に浮かんだ光るものをぬぐい、きちんと姿勢を整え、少し赤くなった目でまっすぐ前を見据え、



「ぐすっ……。し、失礼しました。噛んでしまいまひ…………」



 渾身の力で地雷を踏み抜いた。



「………………ブフッ」


「くっ………」


「……………(ぷるぷる)」



 噴き出す者、唇をかんでうつむく者、とっさにそっぽを向いて肩を震わせる者。各自、思い思いの方法でなんとか笑いをこらえようとするが、あまり上手くいっていない。

 ただでさえ笑いそうになっていたところへのこの不意打ち。如何にトップギルドの面々でも、耐えがたい破壊力があった。



「ふふっ、ふふふふふ、あははははははっ! こ、ここで噛むとか……可愛すぎるでしょ、聖女ちゃん!」



 もっとも、一人は隠そうともせずに思いっきり笑っていたが。


 

「~~~~~~っ!」



 今度こそ両手で顔を覆い、ガタン! ドタドタドタッ! と円卓の下に隠れてしまったイーリス。その顔が羞恥で真っ赤に染まっているのは見ていなくても分かってしまう。


 

「あうあう……。イーリスのばかぁ……なんでここで噛んじゃうのぉ……。こんなの、恥ずかしすぎるよぅ……」



 聖女様モードは解除され、クールタイムに突入した模様。可愛らしい唸り声が円卓の下から聞こえてくる。


 今までとは違う、歳相応の様子を見せるイーリスに、ほっこりとした空気が流れそうになるが、寸前で「そうじゃないだろ」と我に返る会議室の面々。

 このままでは会議が進まなくなってしまう。早々に決めてしまわないといけないことは多岐にわたるのだ。この会議の結果がでなければ、プレイヤーたちはクエストクリアに向けて動き出すことができない。


 「ううぅううう~~~」とうなっているイーリスに、代表してレイが声をかけようと口を開きかけた時、それまでずっと黙って立っていただけだったリューが、そっとイーリスの側に膝をついた。



「イーリス様、大丈夫ですか?」


「ぅう……。りゅーさま……?」


「はい、そうですよ」


「リューさま、イーリスは、イーリスはぁ……うわぁあああああああああああん!!」



 円卓の下から飛び出したイーリスは、リューの胸に抱き着き、そこで泣きじゃくる。ぼろぼろと両目から大粒の涙を流し、えぐえぐと嗚咽を漏らす。

 

 一気に行動が幼くなったイーリスに周りが唖然とし、リューとイーリスへと一斉に視線が集中する。


 それをさらっとスルーし、リューはイーリスの頭にぽんと手を置き、優しい手つきで撫で、同じくらい優しい声音で慰める。



「ひぐっ、うぐっ。い、イーリスはダメな子です。主様に任された使命を果たさないといけないのに……。ちゃんと、しないと、ひっく、いけないのに……! うぅうううううっ」


「大丈夫、大丈夫です。イーリス様はしっかりとしていましたよ。少し失敗しましたけど、そんなの誰も気にしませんから」


「……ほんとう、ですか?」


「はい、勿論です。……けれど、このまま会議を続けると、また失敗してしまうかもしれませんね。イーリス様、少しだけ休憩をしましょうか」


「で、でも。はやく会議を進めないと……」


「イーリス様。焦っても最良の結果を得ることはできません。今、やらなくてはいけないことを一つ一つやっていきましょう」


「………はい、分かりました」



 妙に手慣れた感じで、見事にイーリスを泣き止ませることに成功したリューは、抱き着いているイーリスの体を優しく離すと、その手を取って立ち上がらせる。


 そして、手を引いて聖女様を丁寧にエスコート。向かう先はイーリスの座っていた椅子の後ろにある扉。そこを開き、先にイーリスを入れると、くるりと会議室の方を振り返った。



「申し訳ありませんが、会議は十分後に再開ということにしてくれますか? イーリス様を落ち着かせてきますので」



 そう言葉を残し、イーリスと同じ扉の先に消えていくリュー。


 会議室の面々は、その背中を呆然と見つめていた。

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