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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

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イベントまでの道のり6

 ―――そもそも、だ。


 俺がこの「リュー」というアバターを製作しているときに、考えていたことは何か。そう、「ソロプレイをするのに最適なアバターを作ろう」。そういうスタンスで出来上がったのがこのリューである。

 攻撃も回復も自分でこなせるワンマンプレイヤー。そういうのを目指していたはず。


 ならば、そんな俺がソロで戦うのは定められた必然というやつなのではないだろうか? 水が高いところから低いところに流れ落ちるが如く自然なことなのでは? というか、人という生き物は物事に取り組む際に参加人数が多ければ多いほど力を出さなくなるモノだと言うじゃないか。俺の場合、それが少しばかり強いだけなのでは? 


 ……なーんて考えてみたところで、俺がパーティープレイが出来ないことへの言い訳にはならないわけでして。完全に俺の不徳の致すところだから、そもそも言い訳のしようがない。


 そんな風にぼんやりとしている頭に、氷を直接放り込まれたかのような感覚が走る。それが何かを確認するよりも早く地面を蹴り、後方に一足飛びで移動。直前まで俺がいたところに鋭い爪が、ズガンと稲妻のように叩きつけられ、土くれが宙に舞った。

 


「「「グガァッ!!」」」


「おっと。危ない危ない。考え事をしてる場合じゃなかったな」



 どうしようもない思考を一旦中断し、目の前の敵に意識を向ける。


 そいつの姿を一言で表すなら、骨でできた、出来損ないの獣。


 太い骨で組まれた大型の四足獣の胴体から伸びる首は三本。その先には種類の違う頭蓋骨。肉食獣、山羊、竜の頭蓋骨は六個の眼孔に赤色の鬼火を揺らめかせている。背中には皮膜の無い蝙蝠の羽根のようなものが一対蠢いていた。


 まさしく異形。正しい意味での怪物モンスター


 

「「「ガァアアアッ!!」」」


 

 ゆっくりと観察する暇も与えてくれない奇怪な骨の獣が、三重の咆哮を上げる。全身が骨なのにどうやって鳴いているのだろうか? なんていう素朴な疑問が脳裏をよぎった。


 骨の獣―――『幽玄の枯森』のボスモンスター、ボーンデッドキマイラは、カタカタと全身から骨のこすれる音を出しながら、こちらに飛びかかってくる。背中の羽根が魔力を帯びており、ブースターのようになっているらしく、突進の勢いはかなりのものだ。

 大質量の物体が猛スピードで迫ってくる。なるほど、シンプルながらとてつもない脅威だろう。


 だからこそ、俺はそのシンプルな脅威に、シンプルな対応をすることに決めた。



「どっ……せいッ!!」



 骨キマイラの突進が俺に直撃する瞬間を狙い、両手の剣を叩きつける。右の長剣で肉食獣と山羊の頭蓋骨を押さえ、左の短剣で竜の頭蓋骨を食い止める。


 要するに、相手の突進を馬鹿正直に真正面から受け止めたのだ。ズドンという衝突音が大気を震わせ、衝撃が体を駆け巡り、背中から抜けていった。地面を踏みしめる足は後退し、踵が土を削っていく。

 


「はぁああああああッ!」



 突進の勢いが完全に削げたのを感じ取った瞬間に、全身に力を籠め、骨キマイラの巨体を押し返していく。まさに力押し。戦術もへったくれもない。


 鍔迫り合いのような体勢で互いに押し合うこの状況は、骨キマイラが長い尾を伸ばしてきたことで崩れる。


 俺の頭頂部を狙う槍のごとく鋭い一撃。俺はそれをサイドステップで回避する。

 骨キマイラは、逃げる俺を許しはしない。即座に爪を光らせて飛びかかってくる。両手の剣を振るいそれを弾いてそらし、お返しの斬撃を見舞う。


 骨キマイラの攻撃は、前脚での爪攻撃。三頭の頭蓋骨が連続で噛み付いてくる攻撃。尾を使った縦横無尽な打撃と刺突。あとは突進攻撃か。物理攻撃はそんな感じ。

 動きはそれほど速くないが、力が強く、また骨で出来た体は見た目に反して硬く出来ている。両手の斬撃は骨キマイラにとって弱点攻撃のはずなのにあまり効いている気がしない。HPの減りも鈍い感じだ。


 さらに、骨キマイラは厄介な攻撃をいくつか持っている。



「ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



 鳴き声を上げたのは、山羊の頭部。その叫びに呼応するように骨キマイラの背中に生えた一対の羽根が魔力の光を帯びる。


 バサリ、と魔力を纏った羽根が動くと、そこから三日月状の斬撃が放たれ、俺に向かってくる。


 飛ぶ斬撃。なかなかやってくれる。


 軌道を見切って一発目を切り払うが、飛翔する三日月は連続で打ち出され、俺を斬り刻まん迫る。



「甘いッ」



 叫ぶと同時に、意識を集中し、両手の剣を煌めかせる。


 右、左、左、右、右、右、左、右、左、右ッ! ちょうど十発放たれた斬撃をすべて叩き落してやれば、骨キマイラも流石に驚いたようで、「グガァ……」と鳴いた。


 

「さて、やられっぱなしは気に食わないし、今度はこっちから行くぞッ!」



 驚きに体を止めた骨キマイラに躍りかかる。左右の剣を連続で振るい、骨の体にたたきつける。狙いは骨と骨の継ぎ目。


 右の長剣が竜の頭部を捉え、左の短剣を胴体に打ち込む。振るわれた爪を蹴りで弾き、その付け根に斬撃を二発。

 剣を打ち込むたびに堅い感触が手のひらに返ってくる。ううむ、こいつ斬撃がすげぇ効きにくいわ。多分紅戦棍ならもっと楽に戦えてたんだろうけど……。まっ、自分で決めたんだ。最後までやり遂げてやるさ。


 骨キマイラと至近距離での戦闘を繰り広げながら、詠唱を口ずさむ。使う魔法は俺唯一の攻撃魔法【ソードオブフェイス】。慣れきった詠唱を早口で唱え終え、新たに剣を二本創り出す。


 長さ的には、今手に持っている長剣と短剣の丁度真ん中くらい……言うならば、中剣とでも呼ぶべきそれを、縦横無尽に走らせる。


 これにて実質四刀流。戦闘に集中しながら精密に操作しようと思ったら、今のところ二本が限界だったりする。


 両手に持った二本と宙に浮かせた二本で攻める、攻める、攻める。放つ斬撃は十を超え、百に届き、すぐに千に迫る。

 

 だが、相手もやられっぱなしというわけではない。反撃の爪撃が俺の脇腹をえぐり、鞭のように振るわれる尾は何度も体を掠っている。


 受けたダメ―ジをヒールで無理やり回復させ、それで良しとする。防御も回避も一切考えず、ただ攻撃だけに集中し、相手のHPを削ることだけを考える。これぞまさに、ヒット&ヒールの真骨頂!


 骨キマイラのHPを順調に削っていき、気が付けば残り二割ほど。こちらのMPは残り三割くらい。アーツやスキルに頼らず、通常攻撃を多用した戦闘だったので、消費はそこまで激しくない。


 このまま召喚魔法あたりで沈めてもいいのだが……くくっ、ここまで来たら、このまま剣だけで仕留めたくなってくるよなあ?


 噛み付いてきた竜の首を中剣で防ぎ、その首に長剣での横薙ぎを打ち込む。


 さらに、おなじ位置を狙って短剣を打ち込む。ピキリ、と音が響く。


 さらにさらに! まったく同じ位置に遠隔操作の二連撃を叩き込む! パキッとさっきよりも大きな音が響く。


 山羊、肉食獣それぞれの頭部が俺に向かってくるのをかがんで回避。振るわれる前脚はそのまま受けて、ダメージをヒールで回復しながら、跳ね上がるようにして蹴りを放つ。


 長剣、短剣、中剣、おまけの蹴撃。計五発の攻撃を同じ場所に喰らった竜頭の首は、ピキピキ……と嫌な音を鳴らし、ついに。


 ガキャンッ!!


 

「「グルゥウウウアアアアアアアッ!!??」」



 砕け散る竜頭の首。絶叫する残った二頭。その悲痛な叫びに頬を緩めつつ、攻撃の手は緩めない。相手の残りHPは一割強! このまま押し切ってやる!



「はぁあああああああああああッ!!」



 ラッシュラッシュラッシュ! 残像が生まれるほどのスピードで両手の剣を走らせ、宙に剣閃を刻み、骨キマイラの身体に斬痕を量産する。


 どんどんゼロに近づいていく己のHPに本能的な恐怖を感じとったのか、とっさに今までしてこなかった攻撃を放ってきた。


 

「「ギシャァアアアアアアアアアアッ!!!」」



 それは、どう見ても状態異常を持ってますよと自己主張の激しいブレスだった。山羊からは蛍光色に近い緑色のブレスが、肉食獣からは毒々しい紫色のブレスが放たれ、途中で混ざり合って大変気持ち悪い色のブレスへと昇華されている。


 HP的に喰らっても問題ないのだが、状態異常がどう発生するかどうか分からないからなぁ……。確実に毒は入ってそうだしね。

 


「というわけだ。悪あがきだろうと、喰らってやるわけにゃいかんからな。【インパクトシュート】!」



 ブレスに対応するために選んだ手段は、衝撃波を発生させる蹴り。このアーツは何かに命中するとともに、命中した場所を中心に衝撃波をまき散らすという性質上、一度どこかに当てる必要がある。

 

 なので、浮かせている中剣を空中で固定し、そこ目がけて蹴りを入れる。発生した衝撃波は、骨キマイラの最後っ屁であろうブレス攻撃を見事に押し返した。


 これでもう、骨キマイラに出来ることは、何も無い。



「つーわけで、止めだ! 【クロスアサルト】!!」



 長剣を縦に一閃。次いで、短剣を横薙ぎに振るう。


 魔力を帯びた十字の剣閃が骨キマイラを襲い、HPゲージを黒く染め上げた。



「「グラァアアアアアアァァァァァ………………」」



 枯れ木の森に、骨キマイラの断末魔の叫びが響き渡るのだった。


 

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