転がり込んできたのはアホ二人
感想欄で何度も突っ込まれている冷製パスタの茹で加減のことですが、すみません、完全に作者の好みです。
ちょっと待ってほしい。なんだこの状況は。
俺は、FEOでアッシュさんと別れた後、デスペナが解けるのを待つのも面倒になりログアウトした。んでもって、夕食までの空いた時間に、夏休みの宿題やら家の掃除やらをやっていたんだが……。
「お願い、流ちゃん! あなたにしか頼めないの!」
そういって、両手を胸の前で合わせ、可愛らしく小首をかしげているのは、二十代前半に見える女性。そして、その後ろには困ったような表情で頭を掻く太陽と、なぜか上機嫌な蒼が立っている。
「えーっと、あの、真理恵さん。どういう事か、まずは説明してくれますかね?」
何せ、玄関のベルが鳴ったので見に行き玄関の戸を開けたら、いきなりさっきのセリフが飛び出してきたのだ。何が何やらさっぱりわからない。
目の前の女性―――まぁ、皆さまもお気づきではあろうが、紹介しよう。千代原真理恵。太陽と蒼の実の母親である。俺も幼いころからよく面倒を見てもらったりしている。まぁ、頭の上がらない人だ。
見た目は完全に二十代だが、実年齢はそろそろアラフォーに……。
「流く~ん? 一体何を考えてるのかな?」
「何でもありませんよ、真理恵さん。それより、本当にどうしたんですか? 何か頼み事があるってことはわかるんですが……」
「ごまかした……。まぁいいわ。それでなんだけど……」
※真理恵さん説明中。しばしお待ちください。
~~~~~~~
十五分後。
「ということなの」
「なるほど……。太陽と蒼の世話を俺に任せたいってことですね?」
「そうそう。その通りよ~♪」
「「オレ(わたし)はペットか!」」
「かかる手間は似たようなもんだ」
「「うぐっ……、ひ、否定できない自分が悔しい……」」
太陽と蒼が何か言ってるが、無視。
さて、真理恵さんの説明をまとめると、こうだ。
真理恵さんの夫、つまり、太陽と蒼の父親である浩介さんが、なんと懸賞で豪華客船での海外旅行のチケットをゲットした。それも、夏休みの期間を丸々全部使うようなすごいやつを。
当選したチケットはペアチケットで、真理恵さんと浩介さんとで行くことになったらしい。この夫婦は見てるこっちが胸焼けしそうになるくらい甘ったるくてラヴラヴだからな。
そんなラヴラヴの二人も、最近仕事が忙しくてなかなか夫婦の時間が取れなかったらしい(正直、この辺の愚痴が一番長かった)。なので、この機会に『浩介さん分』というよくわからないものを補給したいらしい。
まぁ、夫婦仲がいいことは喜ばしいことだし、いつも忙しそうにしている真理恵さんたちが旅行に行って息抜きすることに関しては、大いに賛成できる。
だがしかし、ここで問題が一つ。そう、太陽と蒼のことだ。
前にも言ったけど、この二人は『生活能力』というものがほぼ皆無だ。
料理は太陽がかろうじてレトルト食品を作れる程度。蒼? やらせてみるといい。電子レンジが火を噴くという稀有な体験ができるから。
掃除は、太陽の場合はなぜか掃除をする前より汚れる。蒼? やらせてみるといい。ただし、掃除させた部屋が亡くなる覚悟があるのなら。
その他諸々に関しても、こいつはホントにひどい。
そんな二人を残して、長期間家を空けるなんてことをしたら、いったいどうなるか。
新学期の新聞に、『ゴミ屋敷の中から高校生二人が餓死した状態で発見』なんていう見出しが躍るだろう。
で、白羽の矢が立ったのが俺ということだ。
幼馴染で、真理恵さんたちの代わりに二人の面倒を何度も見ている。まぁ、こいつらの面倒を見るなら、適任は俺だろう。
食費とかは先に出してくれるみたいだし、引き受けてもいいかな? 後になって泣きつかれる方が面倒だし……。
そうだ、この機会に、こいつらの生活能力を少しでも向上させよう。その方が、あとあと楽に…………なるといいなぁ。
名付けて、『千代原兄妹生活スキル向上プロジェクト』だ。
というわけで。
「分かりました。太陽と蒼の面倒は、俺がしっかり見ておきます」
「ホントに!? ありがとう、流くん! おばさん嬉しいわぁ」
「いえ、流石に俺も、幼馴染が餓死するのをそのままにしておくほど鬼畜じゃありませんよ。真理恵さんは浩介さんと一緒に旅行、楽しんできてくださいね」
「もうっ、流くんはいい子ね~。うちのバカ二人も見習ってほしいわぁ~」
言われてるぞ、バカ二人。
視線を向けると、さっとそっぽを向いた太陽と蒼の姿に、ため息を漏らす。
やれやれ。今年の夏休みは、騒がしくなりそうだ。
「で? どうするんだ、お前ら」
「どうするって、何を? あ、夕飯ならカレーを所望するぜ!」
「わたしも、流のカレー、食べたい」
「誰が夕食の話をした。俺が聞いてるのは、真理恵さんが言ってた話のことだよ」
あの後、「じゃあ私、今からダーリンを迎えに行って、そのまま出港するから♪ あと、よろしくね?」と、太陽と蒼の生活費が入った封筒と、千代原家のカギを俺に渡して、真理恵さんは颯爽と去っていった。旅行の出発日、今日だったのね……。
なので、当然こいつらの面倒を見るという仕事も、今日から始まるのだが……。
うちのリビングに置かれたソファーにだらしなく座っている太陽と、俺のそばに立っている蒼に、話しかける。
「俺が聞きたいのは、お前らが寝泊まりする場所のことだ。俺んちに泊まるのか、いつも通りか……。俺としては、この家に泊まってくれるとありがたい」
「ん? どうしてだ?」
「…………はっ!流にぃ、まさか」
唐突に顔を赤くしながら体をくねらせる蒼。いや、何やってんの?
なぜか恥じらいを強めた蒼は、俺のことを上目遣いで見た。
「そんな、いきなりお泊りなんて……大胆」
「さて、蒼の戯言はほっといてだなー」
「戯言!?」
驚きに目を見開いた後、しょんぼりと肩を落とす蒼。一体何がしたかったんだか……。
「話を戻すぞ。この家に泊まってほしい理由は二つ。一つは、俺が楽だからだ。食事のたびに呼び出すのは面倒だし、洗濯物とかも一緒くたにした方が楽だ。朝、お前らを起こしに行くのもな。もう一つは、監視のためだ。夏休みだからと言って、ぐーたらで自堕落な生活を送るなんて、俺が許さん。分かったか?」
「お、おう。了解したぜ」
「ん、承知」
ギロリ、と厳しめの視線を向けると、素直にうなずく二人。自分たちでもわかっているのだろう。二人だけだと、確実にだらけた生活を送る、と。
「OK。取り敢えず、着替えとか必要なものをまとめてこい。俺は夕食の準備をしとくから」
「「いえっさー」」
さてと、これで『千代原兄妹生活スキル向上プロジェクト』の下地は完成した。ここからどうやって二人を調きょ………教育していくかが腕の見せ所だな。何とか二人を、一人暮らしをしても困らないくらいにしてやりたいが……。
ふむ、何か良い手はないだろうか? と考えながら、エプロンを付けてキッチンに立つ。
ま、とりあえずは夕飯を作りましょう。考え事は料理をしながらでも可能だ。
メニューは…………カレーにしてやるか。
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