特訓!特訓!特訓!②
ボク――――ナナホシは、『強さ』というものに、憧れている。
ボクは昔から弱虫で、ボクの……大変不本意だけど、どこからどう見ても女の子にしか見えない容姿も相まって、虐められてきた。
よくある話だ。ちょっといじっただけで、こずいただけで涙を流し、身をすくませて反撃すらできないボクは、そういうことをする人には格好のエモノだった。
いじめられていじめられて。ぐずぐず泣くことしかできないボクを助けてくれたのは、今のパーティーメンバー……現実の、幼馴染たち。
弱虫なボクと違って、明るくて、前向きで、かっこよくて。いつもボクのことを守ってくれた。ボクの、自慢の幼馴染たち。
このゲームを始めたのだって、幼馴染たちが誘ってくれたからだ。この世界なら、弱虫なボクでも、自慢の幼馴染たちの役に立てるかもしれない。そう思って……。
けど、ゲームの中でもボクは弱虫なままだった。
モンスターを怖がって戦闘が苦手なボクは、幼馴染たちの足を引っ張りまくっていた。この世界なら、ボクでも……そう思っていた気持ちだけが残ったまま、現実は何も変わらなかった。
ボクが剣を使いたがるのは、ボクにとって、剣が強さの象徴だから。弱者を救い、巨悪と戦う物語の勇者たち。彼らの手には、必ずと言っていいほど剣がある。だから、モンスターが怖くてもかたくなに剣を使い続けているのだ。剣で戦っている自分は、強い存在だと錯覚できるから……。
弱いままの自分を変えたかった。幼馴染たちの役に立てる自分になりたかった。だから、強くなりたいと願った。
現実のボクを変えることは難しい。だから、ゲームの中の「ナナホシ」をまずは強くしようと思った。幼馴染たちを頼らなかったのは……彼らの知らないところで強くなって、驚かせてみたいっていうちょっとした悪戯心。
強くなるにはどうしたらいい? その問いにボクは、すでに強い人の教えを乞う。という答えを出した。
その答えにたどり着いたボクは、掲示板をめぐり、強いと言われているプレイヤーたちの情報を集めていった。『陽光の騎士王』、『戦神王』、『魔導蒼姫』、『変態紳士』、『勇者』、『龍剣』、『鎖の王』、『灼熱』……。二つ名を持つプレイヤーを筆頭に、様々な強者の情報を集めて……そんなとき、ボクは一人のプレイヤーに出会った。
神官、リュー。二つ名が付けられているわけじゃないけど、彼の戦いの動画は二つ名持ちのプレイヤーのものと遜色なく……いや、ボクの目には、それ以上のものに見えた。
メイスを使った近接戦に、蹴り主体の肉弾戦。さらには空中戦までこなす異色の神官。神官が後衛職であることを鼻で笑うような存在に、ボクは目を奪われた。
それは、戦闘力の高さだけじゃない。どんな敵にも、笑みを絶やさず、臆することなく向かっていく。傷つくことさえいとわずに。……そんな、心の強さに惹かれたんだと思う。
真紅の巨狼を、大空を舞う飛竜を、草原の巨人を。ボクなら前に立つことすらできないようなモンスター相手に、たった一人で挑みかかるリューさんの姿は、とってもかっこよくて……。
だから、ボクはリューさんに教えを乞うことにした。彼みたいに、強い人になりたいから……。
その選択を、今現在、絶賛後悔中だった。
「うわぁあああああああああああああああああ!?」
絶叫を上げてその場から転がるボク。さっきまでボクが立っていた場所に、ズドンッ! という轟音と共に、真紅のメイスが突き刺さる。
「…………こら、逃げるな」
「む、無茶言わないでくださいよぉおおおお!? そんなのくらったら、ボク地面のシミになっちゃいますからね!?」
「安心しろ、すぐに治る」
「そう言う問題じゃ……ひゃぁ!?」
ブンッ!! という風切り音は、メイスが下から上に振りぬかれた音。とっさに身を引かなければ、ボクの顎はクッキーのように砕けていたはずだ。
さっきから一撃一撃が即死必須な攻撃を仕掛けてくるのは、冷たく張り詰めた表情を浮かべるリューさん。先ほどまでのどこか柔らかな雰囲気は微塵も感じることができず、目に見えない威圧感さえ放っているように思える。
「さぁ、逃げるだけじゃなく、お前からもかかってこい。そのことごとくを蹂躙してやろう」
なんか、ラスボスみたいなことを言い出したリューさんに、ボクは震えながらも剣を構えて立ち上がる。
生まれたての小鹿みたいな感じになっているボクを見て、リューさんは満足げにうなずくと、ボクにメイスを突き付けながら
「いいぞ。それでいい。逃げるな、目を逸らすな、何が何でも食らいつけ。そのことを忘れるな。……さて、訓練を続行する」
……うん、実はこれ、訓練なんだ。攻撃に殺意がこもっていたり、リューさんがラスボス化したりしているけど、これは訓練。
攻撃されるのが、悪意を向けられるのが怖いと言ったボクに、リューさんが言った言葉。
――――なら、覚えればいい。攻撃されることも、悪意を向けられることも、恐怖足りえないことだと。自分に、教え込んでやればいい。
なんという脳筋理論。見た目からはそんな印象はうけないけど、リューさんって結構……。そんなことを考えていたら、ボクの顔の横を光る剣が通り過ぎていた。……心を読まれたわけじゃ、ないよね?
「ふむ……。なんか馬鹿にされた気がしたけど……。気のせいか」
やっぱりおかしいってこの人!? 読心術まで使えるってドンダケですか!?
内心の驚愕を必死に顔に出さないようにしているボクに、リューさんは二ィ、とくちびるの片端だけを釣り上げて笑みを作った。わぁ、とっても悪役フェイスだぁ。
「まぁいい。とりあえず……行くぞッ!」
「ひゃ、ひゃぁいッ!?」
宣言するとともに、メイスで殴りかかってくるリューさん。ボクは竦みそうになる体を叱責し、震えを無理やり押し込めて足を、手を動かす。
ボクの訓練は、まだまだ始まったばかりだ。…………ボク、大丈夫なのかなぁ……。
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