歩いていて誰かに肩をぶつけてしまったらキチンと謝りましょう。そして謝られたら許してあげましょう。
タイトルが思い付かない事件が起こるとこうなる↑
なんとも心にくる冒険者登録だった……。ま、まあ、これで俺も晴れて冒険者になったということで、気持ちを切り替えよう。とりあえず、クエストでも受けてみようかな? あっちの掲示板にランク別に貼られてるみたいだし。
さてさて、どんなクエストがあるのかなー? ……って、あれ? なんかいっぱいあるな。Dランクのクエスト。一つ上のCランククエストは少ししか残ってないのに。
少し気になるけど、まあいいか。とりあえずどんなクエストがあるのかなっと。
掲示板に貼られたクエスト用紙に一通り目を通していく。初めて受ける依頼だし、討伐系にしようかなー。某狩りゲーでもそうだけど、採集系ってめんどくさいんだよな。規定数まであと一個みたいな状況になると途端に見つからなくなったりするし。物欲センサーってホント怖いよなー。
護衛系は……長時間拘束されそうなのでパス。昼飯も作らないといけないからな。
というわけで討伐系クエストの……これかな? この『大樹の草原』でオーク系モンスターを三十体討伐しろってやつ。……一瞬、三十体ばかしでいいのかと思ってしまったことは忘れよう。
クエストを決め、用紙を持って受付に舞い戻る。そこで受付をしてもらった。あ、受付NPCはさっきの人と別にしたよ。また絡まれるとめんどくさいからな。ただでさえ最近面倒なことが増えてる気がするし、蒼のこともあるし、面倒事は極力回避するんだ!
というわけで、何事もなく受付が終了。クエストを受注したら、視界に『現在討伐数0/30』と表示された。なるほど、分かりやすい。
その表示に気を取られたのが失敗だった。ドスッ、と誰かに肩をぶつけてしまったようだ。いきなりもめ事の予感がするが、こういう時はどれだけ早く謝るかが大事だ。誠心誠意謝罪の気持ちを込めて真摯に謝れば、少し肩をぶつけたことくらい水に流してくれるだろう(願望)。
「すみません。大じょ『ああんッ!? なァにぶつかってくれちゃってのぉ!?』……うぶですか?」
ああ、ついさっきの決意がすでに無駄になりそうな予感……。俺が肩をぶつけてしまったのは、世紀末な世の中で汚物を消毒してそうな見た目のモヒカンの男だった。肩パットにトゲトゲ付けてたら完璧だったのに。というか、まったくもって話しとか通じなさそうな見た目してるよなぁ……。
い、いや。まだあきらめるような段階じゃない。人を見た目で判断しちゃいかんだろ。まずは、ちゃんとした謝罪をするのが先だ。モヒカンの男が大声を出したことで周りの注目を集めてしまっている。大事になる前に事態を収めないと……。
「ヒソヒソ……。(お、おい! あいつあの神官(?)に喧嘩売ってるぞ!?)」
「ヒソヒソ……。(マジでか!? とんだ命知らずもいたもんだ……)」
「ヒソヒソ……。(というか、大丈夫なのかあのモヒカン。神官(?)って確か絡んできた相手は女子供だろうと容赦せずに血祭に上げるんだろ?)」
「ヒソヒソ……。(そうか……このギルドに、消えないシミが付けられるんだな……)」
ヒソヒソ言ってる周りの野次馬共! 聞こえてるから! 全部丸聞こえだからね!? 陰口って本人に聞こえないように言うから陰口って言うんだよ知ってるか!? というかなんで誰彼構わず血祭に上げるなんて言う噂が立ってるの!?
……チクショウ、野次馬へのツッコミは後だ後。
「前方不注意でした、ごめんなさい」
「ハァ!? それで謝ってるつもりとか冗談だろォ!? オレ様にぶつかっといてそれだけって馬鹿じゃねぇのお前!?」
「…………………すみません」
うん、我慢だ我慢。このモヒカン野郎の態度があまりにあれだとしても、俺の不注意でぶつかったことに違いはない。とりあえずは、コイツの言いたいようにさせておこう。こういうタイプの人間は、自分の言いたいことを言い終わると満足することが多い。
モヒカン野郎の文句やいちゃもんは、十分くらい続いた。うん、大体「ふざけんな」と「バカじゃねぇの」で構成されたセリフをそれだけ聞き続けた俺の精神力をほめてほしい。流石MINDが高いだけあるぜ。はははは……。
さて、そろそろこの苦痛空間からも抜け出せるかしらー? と内心で苦笑しながら思っていると、事態は思わぬ変化を見せた。……………どう考えても、めんどくさい方向に。
「そ、その人を悪く言うのをやめてください!」
「ああん!? なんだよオメェはよぉ!?」
どこからともなく現れて、俺とモヒカン男の間に現れたのは、随分と可愛らしい男の子だった。中学生くらいに見える。装備を見る限り、軽戦士かな? 光の加減によって青みがかって見える銀髪はポニーテールにされている。大きくくりっとした薄い青色の瞳。……見覚えが無い子だな。誰かの知り合いか?
見覚えのない男の子は、モヒカン男を睨みつけると、毅然とした態度で声を張り上げた。
「さっきから見てましたけど、リューさんはちゃんと謝ってたじゃないですか! 肩を少しぶつけただけなのに、すっごく丁寧に謝ってたのをボクは見てました。それなのに、そんな風にただ文句をまき散らすだけ見たいな態度をとるなんて、あなた、ちょっと心が狭すぎるんじゃないですか?」
「ああん!? んだよこのクソアマァ!! オレ様にいちゃもんつけようってのか!?」
「いちゃもんではありません。リューさんが謝った時点で終わっているはずの話を長引かせている貴方の態度は間違っているという事実を述べてるだけです」
「ハァ!? 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ! オレ様が間違ってるわけ無いだろォ!?」
当事者のはずの俺、完全に蚊帳の外な件。ほら、野次馬もポカーンとしてるよ?
このモヒカン野郎の自分に対する絶対の自信はどこから来るんでしょうね? ついでに、この子はどうして俺の擁護をしてくれるんだろうか。いいぞもっとやってくれ(本音)。
うーん、会ったことないし。名前はっと…………ナナホシ? うん、知らない子ですね。それと、モヒカン男なんか変なこと言ってなかったか?
「つーか、いきなりしゃしゃり出てきやがって! テメェは一体何なんだよ!?」
あ、モヒカン野郎いい質問する。俺もそれ気になってたところだ。……こんな奴と思考回路が同調したって普通に嫌だな、うん。
「ボクが何か、ですか? そんなこの状況に置いてどうでもいいことを聞いてくるなんて……。話を逸らそうたってそうはいきませんよ?」
「「「「「「「(いや、どうでもよくはないと思う)」」」」」」」
なんか、ギルド内ですごいシンクロ現象が起きたような気がする……!
そんな俺と野次馬たちの内心など知らずに、ナナホシ少年はふん、と腕を組んでモヒカン男にジト目を向け、ため息を吐いた。
「はぁ……。まぁ、あなたみたいな人に合理性を説いても馬の耳に念仏猫に小判。特別に教えてあげましょう」
ナナホシ少年はそう言うと、くるりとターンして、事の成り行きに身を任せていた俺の隣にやってくると、なぜか俺の腕に抱き着いてきた。………………………え?
俺が驚愕に固まっていることなど気にも留めず、ナナホシ少年は輝かんばかりの笑顔を浮かべ――――
「ボクは、ここにいるリューさんの……………大ファンです!!」
――――とんでもないことを言い放った。
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