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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
二章 ランクアップ編

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例えるなら、夕日をバックに河原で殴り合った後に友情が芽生える的なアレ

《プレイヤー:ライゴのHPがゼロになりました》

《勝者プレイヤー:リュー! おめでとうございます!》

《バトルフィールドを解除します》



 機会音声が勝者を祝福し、闘技場が数字の群れに分解され空気に解けていく。

 その残滓さえなくなれば、後に残るのは元の岩石地帯に、立っているリューと倒れているライゴ。


 仰向けに倒れたままのライゴに、リューが近づこうとする。が、それよりも早く、彼に突進するかのような勢いで、二つの影が接近した。



「リューにぃ!」


「先輩!」


「おわっ!? い、いきなりなんだよ、お前ら」


「何だよ、じゃねぇっすよ! だ、大丈夫なんすか?」


「ん、心配した」


「……何のことだ?」



 何のことかわからず首を傾げるリュー。心配そうに眉をひそめていたサファイアとマオも、その様子にはため息を吐くことしかできない。

 いつも以上にジト目になったサファイアの視線が、リューを貫く。そこには強い呆れの感情がこもっていた。その視線の迫力に思わず後ずさるリュー。



「な、何だよ……」


「お腹」


「…………俺の腹がどうかしたのか?」



 視線を下に向け、確認。普通に神官服が見えるだけだった。こてん、と首を傾げるリュー。二人のため息がさらに深くなる。

 見かねたマオが、ずいっ、とリューに顔を近づけ、ピンと人差し指を立てて説明する。



「あのっすねぇ……。いくら痛みがほとんど軽減されているとはいえ、その他の感覚はそのまんまなんすからね? お腹に槍がぶっ刺さって風穴空いたら、誰だって怯むしちょっとは怖がるものなんすよ? なのに先輩は……なんで平然としてられるんすか?」


「なんでと言われても……。戦ってる最中に、そんなこと気にならないからなぁ」


「どんだけ戦闘狂なんすか……」



 リューの発言に、頭痛が痛い、とばかりに頭を押さえるマオ。彼女の理解の範疇を完全に超越した答えに、言葉も出ない。

 サファイアにジト目を向けられ、マオからは呆れた視線を向けられたリューは、ばつが悪そうな顔で視線を逸らした。



「ま、まぁ……。心配させて悪かったよ」


「ん。心配かけた罰として、わたしのいうことをなんでも聞いてもらう」


「ここぞとばかりに調子に乗るんじゃないっ」



 こつん、とリューの手刀がサファイアの頭に置かれる。心配をかけた手前、いつもよりツッコミが優しかった。



「ダメっすよ副マス。先輩だって夏休みは何かと忙しいんすから。……主に、私との喫茶店デートとかで(ボソッ)」


「……マオ、いい度胸。わたしたちもPvP、する?」


「あはは、嫌っすよ~。それに、PvPの結果がどうであれ、私と先輩が一緒に喫茶店に行くことは確定っすからね?」


「むぅ、ずるい。わたしもリューにぃとデートしたい……」



 こそこそとリューに聞こえないように言い争う少女たち。いきなり蚊帳の外に置かれたリューは、訳も分からず不思議そうな表情を浮かべるのだった。


 その光景を、上半身を起こしたライゴが見つめていた。姦しい三人のやり取りを見る瞳にはどこか光が薄く、焦点があっていない。

 彼の頭の中を占めていたのは、先程の戦いだった。どう考えても自分に有利なルールだった。レベルはこちらが10も高く、相手はPvPはほとんど素人のようなもの。

 それでも、負けたのは自分だった。負けたくない戦いに負けたショックで、ライゴの心は沈んでいた……というわけではないらしい。



「……強い」



 思わずといった様子でつぶやかれた言葉。それは、まぎれもないリューへの賛辞。自分を打ち負かした勝者への素直な気持ちだった。



「あいつは……リューは……強い!」


「だろ?」


「おわっ!? ぎ、ギルマス?」


「おう、お疲れ。ライゴ」



 いつの間にかライゴのそばに来ていたアポロが、座り込む彼に手を差し伸べる。それを掴んで、ライゴは立ち上がる。

 アポロは、いつものような無邪気な笑みを浮かべて、ライゴの肩をバシバシと叩いた。



「すごかったぜ。リューのやつを追いつめるなんて流石ライゴ」


「……ワイ、負けとるんやが」


「まぁ、そこはしょうがないな。なんたって、俺らの兄ちゃんだぜ?」


「なんやそれ、意味わからんわ」



 あっさりと吐かれた、異常なまでの信頼。そこまでされれば、もう嫉妬なんて浮かんでこなかった。

 積み上げてきているものの厚さが違う。何があっても壊れないであろうという関係の深さを、ライゴはすぐに理解した。

 そして、そこに踏み入ることの愚かさも。


 

「はぁ……。ギルマス、負けたギルメンに対して、それは無いんちゃう? 結構傷ついたで、ワイ」


「あ、いや、そんなつもりじゃ……。わ、悪い」


「冗談や」


「な……。ひでぇ! 本気で心配したぞ、今!」



 うがー! と怒りをあらわにするアポロの様子に、ひとしきり笑った後、ライゴの足は自然とリューの元へ向かっていた。

 それに気づいたリューが、少し不思議そうな顔を浮かべる。その普通な雰囲気に、こうしてみると戦闘中の彼との違いに笑ってしまうそうになる。あの恐怖の笑みを浮かべた化物の正体が、これかと。



「おい、神官」


「どうかしたか、俺に負けた人」


「………ワイが悪かった。いろいろ突っかかったことは謝るわ」


「そうか、俺に負けた人」


「……………………だぁああああッ!!? なんや自分! そんなにワイのこと嫌いなん!? ワイだって普通に傷つくんやで!?」


「冗談だ。それに、突っかかられることには慣れてるからな。そこまで気にしてない」


「慣れてる? どういうことや?」


「アポロとサファイアが幼馴染。以上」


「……自分、結構苦労してんやな」



 同情的になって言うライゴ。乾いた笑みを浮かべるリューに向けるまなざしには、憐みがこもっていた。

 どこへ行っても大体は人気者になってしまう二人。ライゴも、二人と同じギルドに入っているというだけで、妬みの感情を向けられたことがあった。それがさらに近しい関係のリューなら、輪をかけて酷いだろうということは、容易に想像できる。


 なんとなく通じ合ったリューとライゴは、どちらからともなく苦笑を漏らした。



「まぁ、何にせよ。今日は面白かったし楽しかったよ。今度はレベル下げずに戦ってみようか?」


「アホ、そしたら自分なんか瞬殺やで」


「ほほう。今日のアレが俺の全力だとでも? 本気ではあったけど、全力を出したなんて言ってないぞ」


「な、なんやて? なんでそんな……。って、それもどーせツマランからとかゆうんやろ?」


「その通り。というわけで、全力の戦闘もしてみたいから、もう一戦」


「ま、ワイも今日の屈辱を晴らす必要があるしなぁ。いいで、やったるわ」



 軽い言い合い。そこに剣呑な雰囲気は存在せず、どこか仲良さげな雰囲気が漂っていた。



「次は、ワイが勝つ」


「やれるもんならやってみろ」



 そう言い放った二人は、握った拳をこつん、とぶつけ合うのだった。



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