回復すればダメージを受けたことにはならないよね?
作者がポイントの不正をしている。という疑いの声が上がってまいりました。そんなことは断じてやっていないとここに明言します。
………ちなみに、ポイントの不正ってどんなことをすることを言うのですか?
太陽と蒼が帰っていったあと、残っていた家事をあらかた終わらせてから、FEOに再ログイン。
舞い戻って来た『乾燥した荒野』の安全地帯で、俺はさっそくスキルポイントを消費して《格闘》スキルを習得した。
そこで、レベルアップで手に入れたSPを全く割り振ってなかったことを思い出し、慌ててステータス画面を開く。現在のプレイヤーレベルは6。SPは25ポイントある。
これをどう割り振るか……。まぁ、STRとMINDに振るのは決定だよな。この二つ以外に伸ばすとしたら、DEFかな? LUKを上げるのも面白そうなんだけど……。あ、INTとAGIはいらない。攻撃魔法は覚えてないし、高機動力にも興味はない。生産系も今はやるつもりないから、DEXもいらないな。
さて、どうしよっかなぁ……。
そんな感じでうんうん唸りながら悩むこと十五分。とりあえず、俺のステータスはこんな感じになった。
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PN:リュー
RACE:人族
JOB:神官
SJOB:闘士
Lv6(5UP)
HP 200(100UP)/200(100UP)
MP 550(150UP)/550(150UP)
STR 50(10UP)
DEF 15(5UP)
INT 15
MIND 50(10UP)
AGI 10
DEX 10
LUK 20
SP 0
SKILL:《治癒魔法Lv2(1UP)》《付与魔法Lv5(4UP)》《メイス使いLv7(6UP)》《格闘Lv1(new)》《強力Lv1(new)》《強心Lv1(new)》《強身Lv1(new)》
TITLE:
装備
武器右:初心者メイス
武器左:なし
頭:なし
上半身:新米神官服(上)
下半身:新米神官服(下)
腕:なし
足:ただの革靴
アクセサリー:なし
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まぁ、無難なところだな。より死ににくく、より火力を上げる。そんな感じのステータスだ。スキルも《格闘》以外に、STRを上げる《強力》、MINDを上げる《強心》、DEFを上げる《強身》を選んでみた。おかげでスキルポイントはすっからかんだけどな。
ステータスの割り振りが終わり、メニューを閉じる。ずっと画面と睨めっこだったので、ちょっと肩が痛い。準備運動ついでに、メイスの素振りでもしますかね?
安全地帯の中なので、モンスターに襲われる心配もない。俺は腰から《初心者メイス》を外し、適当にそれっぽく構えてみる。
メイスでの攻撃方法は単純。重量のある柄頭でぶん殴る、以上だ。一撃の威力は大きいが、連続して攻撃するには不向き。攻撃後の隙が大きいのも特徴か。
AGIが低い俺に回避行動は無理だから、やっぱりDEFは必要だろう。多少のダメージは覚悟の上ってことで。あ、俺神官だったな。ダメージ受けたら回復すればいいか。
そんなことを考えながら、メイスを振り回す俺。時折考えてることが口から洩れたりしたので、はたから見たらただの怪しいヤツでしかない。
さて、体もほぐれた(まぁ、VRMMOだから気分的なものだが)ことだし、次の標的を狙いに行きますか。
シルさんのクエストのクリアに必要なアイテム、[ホブゴブリンの血液]。これをドロップするモンスターは、もちろんのようにホブゴブリンだ。太陽から聞いた話によると、こいつは通常のゴブリンを一定数倒すと出現するらしい。『乾燥した荒野』では中ボスのような扱いを受けている。
ホブゴブリンとエンカウントするには、まずゴブリンを大量に倒さなくてはいけない。人型のモンスターなので、ブラックウルフとは戦いの勝手が違うだろう。けどまぁ、やることは変わらない。メイスでその脳天をカチ割ってやるだけだ。
安全地帯を出て、ゴブリンを探しながらてっくてっくとフィールドを闊歩する。それにしても、他のプレイヤーに全然遭遇しないな。始めた時期が微妙だから、初心者プレイヤーが少ないのかな?
途中現れるブラックウルフを処理しつつ進むこと五分。噂をすればなんとやらではないが、戦闘中のプレイヤーを発見した。四人組のパーティーで、見る限り前衛二人の後衛二人という構成だ。
相手のモンスターは、緑色の身体に鉤鼻、尖った耳という「ああ、これはゴブリンだな」と誰もが思う姿をしていた。あれがゴブリンで間違いないだろう。数は、四体。
盾を持った前衛がゴブリンの攻撃を受け止め、その隙に後衛から魔法が放たれる。剣士プレイヤーは一体のゴブリンを相手に立ち回っている。最後の一人は回復魔法や補助魔法を使って仲間をサポート。たまに攻撃魔法を放って援護に徹している。
なるほど、これがパーティープレイってやつかー、とその光景を感心しながら観察する。個々の力では生み出せない、集団としての力。それは瞬く間にゴブリンを一体、二体とポリゴンに変換していく。そして、三体目のゴブリンを剣士プレイヤーが、その剣で斬り裂き倒そうとして、
その背中に、魔法使いが放った火球がぶち当たった。
後ろからの思わぬ衝撃に前のめりに倒れる剣士プレイヤー。その隙をつかれ、ゴブリンからの攻撃をもらってしまう。慌ててフォローに入った盾持ちプレイヤーがそのゴブリンにとどめを刺す。最後の一体は、補助職プレイヤーの放った攻撃魔法で地に沈んだ。
なるほど、これが本当のFFか……。と思っていると、がばっと起き上がった剣士プレイヤーと魔法を放ったプレイヤーが口論を始めた。距離的に内容は聞こえないが、かなりの勢いでののしりあっているようだ。盾持ちプレイヤーと補助職プレイヤーは、二人の言い争いを何とか止めようとしていたが、どちらも譲らずにらみ合い続けている。
ついさっきまでいい感じに協力しあっていたのに、一度のミスでここまで崩れるなんて……普通に怖い。
これがパーティープレイか……。うん、やっぱり俺には無理だということを痛感しました。
さてと、気を取り直して、俺もゴブリンを探そう。先程の戦いを見る限り、単独でエンカウントするブラックウルフと違って、ゴブリンは複数で襲ってくるようだ。
どんな感じで戦うのが正解なんだろうか。ヒット&アウェイで『いのちだいじに』で行くか? それとも、ダメージ覚悟で特攻? ……ふむ、《治療魔法》のレベル上げもしたいし、それもいいかもしれない。
ゴブリンの群れにメイスを振りかぶりながら突進する自分の姿を想像して、思わず吹き出してしまった。絶対にそれ、神官の戦い方じゃない。
ま、そんなの今更今更。気にするようなことじゃない。
おっと、さっそくお出ましのようだ。前方二十メートル先にゴブリンの姿を確認した。数は、五。さっきのパーティーが戦ってた集団より数が多い。
よし、とりあえず【ストレングスエンハンス】と【ディフェンスエンハンス】をかけてっと。
手に持ったメイスをくるり、と一回転させ、強く握りしめる。さぁ、準備は整った。
行くぞ、ゴブリン共!
体勢を低くして、疾走を開始。地面を蹴る音が向こうにも届いたのか、ゴブリン共がこちらを向いて何やら叫んでいる。けど、止まらない。
あっという間に彼我の距離を喰らいつくし、一番手前にいたゴブAに向かって蹴りを放つ。ダッシュの勢いをつけた蹴りは、ゴブAのほそっこい体を簡単に吹き飛ばした。
仲間がぶっ飛ばされたというのに、気にした様子もなく襲い掛かってくるゴブリン共。装備しているのは表面に錆が浮いているボロボロの剣。こんなもので斬られたら傷口が大変なことになりそうだが、ここはゲーム。そういうのは気にしなくていい。
まず、俺が蹴とばしたヤツの一番近くにいたゴブBが剣を振り下ろしてくる。そいつの攻撃にかぶせるようにして俺もメイスを振るう。剣の腹とメイスがうまいことカチ合い、剣がそれた。
斬撃を空ぶったゴブBに反撃の蹴りをプレゼントしようとした時、左右から剣が襲い掛かって来た。ゴブCとゴブDの攻撃だ。
意表を突かれたが、何とかゴブCの剣をメイスではじくことに成功。だが、ゴブDの剣を肩に受けてしまう。HPゲージが一割削れた。結構ダメージ喰らうのな。
「…………【ヒール】」
メイスを大きく横薙ぎに振り回して、ゴブCとゴブDを吹き飛ばしながら、【ヒール】を発動。全回復するHP。ダメージを受けてもこれで安心、と思ったが、【ヒール】の詠唱時間と再詠唱時間は補助魔法よりも若干長い。使いどころを注意せねば、すぐに回復が追い付かなくなるだろう。
また斬りかかってきたゴブBに、空いている手で拳を叩き込んで怯ませる。だが、ここで背中に攻撃を喰らってしまった。いつの間にか俺の背後に回り込んでいたゴブEの仕業だ。背後に振り返りつつメイスを振るうと、ゴブEに見事ヒット。いったんその場から離れて【ヒール】を発動。
うーん、やっぱり一対一とは勝手が違い過ぎる。目の前の相手だけじゃなくて、他の相手の動きにも気を使わないといけないのが難しい。一人用VRゲームでの経験を思い出しながら、またゴブリン共に向かっていく。
ゴブAの攻撃! メイスではじく。反撃の蹴り。
ゴブBとゴブCのユニゾンアタック! 間合いを詰めてダメージを最小限に抑える。横薙ぎのメイスで反撃。
ゴブDは剣を投げてきた! 普通に回避。全力でメイスを叩き付けようとするが、ゴブAに邪魔されてしまう。
ゴブEは俺の背後に回り込んできた! それはさっき見た。さっきと同じように振り向きざまのメイス。
俺の攻撃! ゴブAを吹き飛ばす。追撃はゴブBとゴブCに阻まれる。こいつら仲いいな。
ゴブDは剣を拾おうとしている! させん。剣を蹴っ飛ばして遠くに転がしておく。ゴブDの絶望したかのような顔がおもしろい。
ゴブEの攻撃! くっ、ゴブDの顔に気を取られてまともに喰らってしまった。反撃の拳を打ち込みながら【ヒール】を発動。
俺の攻撃! 俺の攻撃! 俺の攻撃! ゴブA、B、Cにメイス乱打。相手の攻撃は、それ以上の攻撃でつぶす!
ゴブDとゴブEが慌てて俺を攻撃し始める。剣を失ったゴブDの投石攻撃! しかし外れてしまった!
………とまぁ、そんな感じで、ゴブリン五体相手に何とか立ち回ることができた。HPも結構削られてしまったが、【ヒール】を使っておけば問題ない。
攻撃、回復を繰り返して、ゴブリンを一体一体撲殺していく。数が減るごとにどんどん動きやすくなっていき、どうやって動けばいい結果が出るか、愉しくなってきたくらいだ。
俺の振りかぶったメイスが、空気を斬り裂きながら最後に残ったゴブAに叩き付けられる。脳天に直撃した打撃で、ゴブAのHPは完全に消え去った。
ポリゴンとなって消えていくゴブAから視線を外し、メイスを腰に納める。戦闘終了だ。
ふぅ……。それにしても、疲れた。でも、複数相手にどう立ち回ればいいのかの練習にはなりそうだ。
メニューを開き、ドロップアイテムを確認。[錆びた剣]と[ゴブリンの爪]だけか。NPCショップに売ればフランになるかな? 経験値の方はっと……うん、ブラックウルフより多く貰えてる。レベル上げもはかどりそうだな。
アポロの話だと、ここのボス、ゴブリンジェネラルの適正レベルは10らしいので、そこまでは上げておきたい。
くっくっく。さぁて、ゴブリン共。[ホブゴブリンの血液]のため。経験値のため。そして、俺の練習のため。
悪いけど、餌食になってもらうぞ?
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