草原の巨人③
決着。
紅戦棍を振りぬけば、競り負けたハンマーは大きく弾き飛ばされ、巨人もそれに従って体勢を崩した。
これは追撃のチャンス! と、俺は【ソードオブフェイス】を操作して巨人の方へと高速で飛翔する。その途中で体勢を整え、片足を突き出す。
「喰らいやがれッ! 【インパクトシュートォオオオオオオオオ】ッ!!」
気分は、ベルトで変身する日曜朝のヒーローだ。巨人の丁度水月のあたりに突き刺さるようにしてキマッた蹴りは、体勢を崩していた巨人を完全に地面に沈めた。本日二度目の地面ダイブを決めた巨人野郎。
はっはっは、このくらいじゃ終わらんよォ! 仰向けに倒れた巨人の顔面に着地した俺は、紅戦棍を二回、目を狙って打ち込む。む、一回殴ったくらいじゃ潰れんか。じゃあ、後二三発ぶん殴ってっと。
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
「くはははははッ! うるせぇぞデカ物! オラ、その口閉じやがれ!!」
さすがに目は痛かったのか、巨人が悲痛な叫びをあげる。うーん、その声が耳に心地いい。けど、音量が少し大きいかな? うるさいから口を閉じましょうねー。
「『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を剣に変え、神敵を滅す』、【ソードオブフェイス】」
詠唱を唱え上げ、作り上げるのは刃渡りが巨人の顔と同じくらいのサイズの巨剣。かなりのMPをつぎ込んで造り上げたこの剣は、強靭にて強固。
宙に浮かせた巨剣を、少し高度を上げてから、勢いよく発射する。狙うのは勿論……。
「グぁ……」
大きく開けられた、巨人の口の中だ。そのまま巨人の顔を地面に縫い付けんばかりの勢いで突き刺さった巨剣は、巨人から声を奪った。さらに、口の中は防御力がそんなに高くないのか、HPが目に見えて減った。眼球を殴り潰した時のダメージと合わせて、残りHPは三割ほど。
さらにさらに、盲目の状態異常に詠唱や咆哮系のスキル使用不可の状態異常がHPゲージの下に表示されている。
……あはは、さぁて、ここからどう料理してくれようか?
とりあえず、起き上がりつつある巨人から飛び降りて、一端距離をとる。後頭部への一撃を置き土産にして。
目が見えない状態でどうしてくるのかな? と観察していると、巨人は身に纏うオーラをどす黒いモノに変えた。うん? HPが減ってる? あの黒いオーラは巨人自身にもダメージを与えるのか……ッて、危ない!?
HPゲージを眺めている俺のいる場所まで、巨人が飛び込んできた。跳躍からのヘッドスライディングという雑な攻撃だが、あの巨体でやられると洒落にならない。
とっさの【ハイジャンプ】で回避したのは良いが……。スピードの上り幅が予想外だ。デカくて速いとか普通に脅威である。
あの黒オーラのダメージでいつかは自滅するだろうけど、それまで逃げ回るというのもな、と考えながら、起き上がり俺に向かってハンマーをぶん回してくる巨人の攻撃を空中で回避する。
攻撃自体は単純なんだが、ハンマーがでかいのとスイングスピードが異常なのが恐ろしい。振り上げた段階で軌道を読んで、大きめに動いて回避。
回避しながらも、隙を見つけて【アーマーブレイク】を叩き込んでおく。一度目にオーラを纏ったときにそれまでに与えたデバフは全部解除されてしまったので、また防御力を下げなければ。
回避、攻撃、回避、攻撃と繰り返して巨人のHPをちまちまと削っていく。
頭上から降って来たハンマーを横に平行飛行することで回避。俺をすり抜けたハンマーが地面を砕き、衝撃波をまき散らす。巨人の攻撃をよけた俺は、一気に巨人との距離を詰めて四度目の【アーマーブレイク】を発動。紅戦棍が巨人の腹部を叩き、HPゲージの下にデバフアイコンが追加される。
すぐに距離をとった俺に、ハンマーを握っていない巨人の手が迫る。虫を捕まえる感じで近づいてくる巨大な手のひらを蹴りつけて迎撃。蹴りの反動でさらに距離をとる。
目を潰されてるにも関わらず、無駄に正確な攻撃をしてくる巨人。第六感か心の目でもつかっているのだろうか?
そんなどうでもいいことを頭の片隅で考えながら、ハンマーでの横薙ぎ攻撃を回避した俺の目の前に、偶然にも巨人の右肩があった。すなわち、巨人の弱点である傷跡がある場所に。
どうやら避けた先がここだったみたいなのだが……。
「チャァアアアアアアアンスッ!! 【パワークラッシュ】!!」
これ幸いと紅戦棍を叩き込み、弱点を激しく打ちのめす。アーツを込めた一発だけでは生ぬるいと、紅戦棍の軽さを生かした連続打撃をお見舞いする。え? 反撃を警戒しなくてもいいのかって? はっはっは、ここで殴り勝ってしまえばよかろうなのだ。
ガリガリとHPを削っていくが、流石の巨人もやられっぱなしというわけにはいかないようで。空中に浮かぶ俺に向かって剛拳が放たれた。とっさに離れることでそれを避ける。ふははは、デカいだけの攻撃など、掠りもしないわッ!!
「さぁ、もう一息……………………って、あれー?」
殺ってやるぜ、と気合を入れた俺の視線の先で、巨人が苦しみながらその巨体を純白の粒子に変えていった。
まだHPは残っていたはずなのに、どうして…………あ、あの黒オーラのせいか! じゃあ、自滅したってことか、あの巨人!?
ええー……。勝ったの良いんだが……。なんか、納得がいかないというか……。
「あーもう! 締まんねぇなァ!!」
紅戦棍をしまった俺は、胸中のもやもやを吐き出すように、そう叫ぶのだった。
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