草原の巨人②
「グォオオオオオオオオッ!!」
「どあっはいッ!?」
横っ飛びに転がって、巨人が振り下ろしてきた拳をよける。地面を転がって移動し、起き上がるととも反転。今地面へと叩きつけられた拳に向かって【アーマーブレイク】を叩き込む。ガラスが砕けるようなエフェクトと共にめり込んだ紅戦棍。だが、巨人が怯んだ様子はない。HPゲージを確認すれば、その下に防御力低下のアイコンが四つ並んでいる。
さっきから隙を見ては【アーマーブレイク】で防御力を下げているんだが……。ホント、呆れるくらい固いな、コイツ。紅戦棍でポコポコ殴ってたらどれだけ時間がかかるんだろうな?
ま、それでも殴るんですけどね? 俺にはそれしか出来ないからな。
【ソードオブフェイス】で攻撃すればいいんじゃ? と思われそうではあるが、一度弱点に攻撃を当てた後から、剣を飛ばすたびに必ず防御されるようになった。見た目に反して学習能力の高いヤツだ。
まぁ、当たったとしても大したダメージを与えられるわけでもないので、おとなしく殴り続けましょう。
「【パワークラッシュ】、【インパクトシュート】、【アームブレイク】、【アーマーブレイク】、【エコーブロウ】!」
普段はあまりやらないアーツの連続使用。これだけやってもHPはまだ三割程度しか削れてない。うーむ、リスクを承知で、弱点を狙いに行ってみるか? 【ソードオブフェイス】で飛んで、紅戦棍を叩きつける……。うん、最悪蠅みたいに叩き落されることになるけど、やってる見る価値はあるだろ。たぶん。
巨人のハンマー横薙ぎ攻撃を【バックステップ】で回避し、【ソードオブフェイス】を詠唱。自分が掴まる分のほかにもう三本くらい作っておく。
頑丈さに全振りした短剣サイズの【ソードオブフェイス】を掴み、それを操作して空に飛び出す。《飛行》スキルの効果が表れているのか、ワイバーン戦の時よりも動きやすい。
飛び上がった俺は、とりあえず巨人の後ろに回り込む。視界から外れるように動くことで、迎撃されないようにする。
余分に作っておいた【ソードオブフェイス】を先に弱点目がけて飛ばす。俺を探そうと首を動かしていた巨人は、飛来する剣に気が付くと、左腕を使ってそれらを払った。……くそ、蠅感覚で叩き落しやがって。
だが、隙は十分にできた。こちらを完全に見失った巨人に、俺は速度を付けて襲い掛かる。
紅戦棍を振りあげ、【エンチャントブースター】を発動。そのまままっすぐ目標を見据え、飛行の速度を乗せた一撃を、
「【エコーブロウ】ッ!!」
――――思いっきり、巨人の後頭部へと叩きつけた。
……あ、しまった。いつもの癖で、つい……。
完全に狙うところを間違えた渾身の一撃。弱点を狙ういいチャンスだったのに……。なーにやってんだか、俺。
さて、もう一度やり直しか、と俺が巨人から離れようとしたその時、俺の一撃を受けた巨人が前のめりに倒れた。ズドンッ! と轟音が鳴り響き、
あれ? と思い、倒れた巨人のHPゲージを見てみると……。わーお、スタン状態になってるじゃないか。もしかしてこいつ、こういう状態異常に弱いのか? よく考えてみれば、防御力低下も簡単に入ったし……。
魔法防御が低いってことは、MINDが低いってことだし、状態異常が入りやすいのも納得だな。
この降ってわいた幸運を使わない手はない。とりあえず、魔法防御が低いなら、【バインド】で雁字搦めにしてっと。
MPポーション片手に【バインド】をかけ、適当に紅戦棍でぼっこぼっこ殴って巨人にダメージを与えていく。オラオラ、手間かけさせやがってこのデカ物が、という感じで、念入りに【バインド】する。
くっくっく、さぁて、これで巨人がスタン状態から復活しても、何も出来ないだろ。さってと、デカい敵との戦いも、スリルがあって楽しめたことだし、このあたりでお開きと行きますか。
【バインド】の鎖でガッチガチになっている巨人を見て、俺はそんなことを考えていた。思えば、後輩の言っていたストレスの影響は、見えないところで出ていたのだろう。倒せてもいないのに勝ちを確信するなど、俺らしくないことをしている時点でそれは分かり切っていたのだ。
俺が次の手に選んだのは、【召喚『サラマンダーの息吹』】。詠唱が長く、消費MPも多いが威力だけを見ればピカ一なこの魔法。【バインド】に縛られ、低MINDの巨人にはこれで十分だろとか思いながら詠唱していると、巨人のスタン状態が解除された。
次の瞬間には、【バインド】がすべて消し飛んでいた。
驚く間もなく、起き上がった巨人がハンマーを振り上げる。その巨体はいつの間にか青いオーラに包まれていた。なんだアレ、アヤメの《闘気》に似てる気もするけど……?
「って、そんなこと考えてる場合じゃッ!?」
詠唱を打ち切り、急いで残しておいた短剣型の【ソードオブフェイス】で空中に逃げる。巨人の放つ『ため』からの消えたと錯覚するほどの高速振り下ろしをぎりぎりで回避……って、さっきと違って攻撃の後の隙が無い!? もう空中の俺に狙いを定めている。
「『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を盾に変え、神敵を拒む』ッ、【シールドオブフェイス】ッ!」
とっさに、前方に不可視の盾を何重にも重ねて展開する。こんなものであの威力の攻撃を防げるかどうか……。というか、巨人が纏ってるあのオーラがハンマーにまで及んでいるんだが? 確実にパワーアップしてますよねー。
そこまで考えたところで、巨人が空中の俺に向かってハンマーを叩きつけてきた。前面に展開した不可視の盾がハンマーが触れた端から壊れていく。
それを見た俺の体は、考えるよりも早く動いていた。
まず、【バックステップ】で盾を展開したあたりから離れ、一番手前にあった盾を操作し俺の背後に持ってくる。
空中で体勢を変え、その盾に足を付ける。その状態で紅戦棍を構え、【エンチャントブースター】を発動。
ハンマーが盾を砕きながら迫る。残り八枚、七六五四三二一―――――――!
「【ハイジャンプ】ッ!!」
最後の一枚が破壊された瞬間、俺はハンマーの方へ向かって、跳躍。
矢の如きスピードで放たれた俺は、構えた紅戦棍をハンマーにぶち当てるようにして振るう。
「グッ!!? ァアアアアアアアアアアア【エコォオオオオオオオオブロォオオオオオオオオオ】!!!!」
衝撃を放つアーツで、ハンマーの勢いを少しでも緩めようとする。
ハンマーと紅戦棍がぶち当たったことによって発生した轟音が耳に痛い。普通に考えても、このサイズのエモノから放たれる攻撃を相殺しようとか無理に決まってるだろう。
けどまぁ、この状況になって、押し負けるのは癪だからな。絶対に押し勝ってやんよ!
押して押して押しまくる。少しでも力を抜いた瞬間に、俺はホームランボールのごとく宙を舞うことになるだろう。気を抜く隙など、一分もありはしない。
紅戦棍とハンマーの押し合いは、無限とも思われるほどの刹那に勝負がついた。
勝ったのは……。
「だらっしゃいッ!!」
「グラァアアア!?」
ぎりっぎりで、本当にぎりぎりのところで…………俺、だった。
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