新城家のおひるごはん
日間一位だと!?
盛大なドッキリ出ないことを祈ります。
「流ーーーッ! メーーーシーーーーーーッ!」
「ん! 冷製、パスタ!」
お、来たか。
「ほい、いらっしゃい。もう少しで出来上がるからおとなしく座って待ってろ。それと、近所迷惑だからあんまり大声で叫ぶんじゃありません」
「「はーーい」」
あらいい返事。メシが絡むと途端に素直になるんだよなぁ、こいつら。いつもこうだといいのに。
四人掛けのダイニングテーブルにいそいそと座る太陽と蒼をキッチンから眺めつつ、ため息を一つ。ウチのキッチンは、調理をしながらダイニングリビングを見渡せる間取りになっている。
ウチ、新城家は4LDK+Sの一軒家。一階に水回りとキッチン。ダイニングリビング、そして六畳間の和室がある。二階は俺と両親の部屋に、客間と物置部屋だ。まぁ、父さんも母さんも仕事で滅多に帰ってこないので、この家は実質俺の一人暮らしのようになっている。何の仕事をしているのかは具体的に聞いたことはないのだが、二人とも研究職のようなことをしていると言っていた。
お向かいさんの千代原家とは、俺が生まれる前からの付き合い……というか、ぶっちゃけ俺の両親と太陽、蒼の両親が学生時代からの親友同士らしいのだ。俺とこいつらの腐れ縁は生まれる前からのものということだ。
こうして、太陽と蒼に食事を作ってやるのも珍しくない……というか、こいつらを放っておいたらあっという間に不健康ライフを始めること間違いなしなのだから、俺が千代原夫妻が忙しい時には面倒を見てやっている。
片やゲーマーで片や生活能力ゼロ人間。放置=餓死と言っても過言ではない。
少しくらい自炊や家事を覚えてくれると、俺の負担も減るんだが……。この世には、期待するだけ無駄なことが結構あるのだ。
「よし、パスタはこのくらいの硬さでいいか。おい、太陽、蒼。ぼーっと座ってないでフォークとコップの準備をしやがれ」
「えー、めんどくさーい」
「さーい」
「よし分かった。お前らのぶんは隣のトメさんにお裾分けしてくるとしよう」
「今すぐやるぜ! 俺、フォーク!」
「じゃあわたしはコップと飲み物。流にぃ、麦茶は冷蔵庫?」
「最初から素直に手伝ってくれお願いだから……。あ、蒼。紅茶が冷えてるからそれにしてくれ」
「ん」
食事を盾にすれば、こ奴らを操るなど造作もないのだよ。くっくっく……。と、なぜか悪役口調でどうでもいいことを考えてるうちに、二人がフォークとコップ、飲み物を用意してしまった。椅子に座り、お行儀よく「両手はお膝」のポーズで待っている二人から向けられる視線は、「早く、早く」と何よりも雄弁に語っていた。
これ以上待たせるのもかわいそうなので、さっさと盛り付けてしまおう。
茹で上がったパスタをザルに移し、冷水で冷ましたら、底が深めの皿に三等分していれる。そこに、先に作っておいた野菜やベーコンを混ぜたドレッシングをかけ、その上から櫛切りトマトとちぎったバジルをどかどか盛れば完成。
「ほれ、トマトとバジルの冷製パスタ、茹で加減はオーソドックスにアルデンテだ」
「おおっ! 流石流の料理、今日もめちゃくちゃウマそうだぜ!」
「ん。期待値、大」
二人の目の前に皿を置いてやると、目を輝かせてうれしそうな声を上げた。自分が作った料理にこういう反応をもらえるのは、やっぱりうれしいものだ。
自分の分を机に置き、着ていたエプロンを外して椅子の背にかけてから着席。向かいにいる二人と一緒に、両手を胸の前で合わせる。
「じゃ、いただきます」
「「いただきますっ」」
言うが早いか、さっそくパスタをフォークに巻き付けていく太陽と蒼。そんなに慌てなくてもメシは逃げんぞー。
さて、俺も食べますかね。上手くいってるだろうか……?
「はぐっ……」
「あむっ……」
「(ぱくっ)」
もぐもぐ……。ふむ、悪くないな。百点満点中七十点くらいを上げてもいいんじゃないだろうか?
トマトの甘味と酸味がドレッシングとうまく絡み合い、さっぱりとした味となっている。バジルの仄かな苦みがいいアクセントになっているな。さすが、トマトのベストカップル。
暑いこの時期にちょうどいい料理ができた、と少し自画自賛をしてみたり。
それで、二人の反応はというと……。
「ん~~~! ウマい! 流、最高だぜ!」
「ん、うまうま。流にぃは立派なお嫁さんになれる」
「ありがとよ……って、蒼。その評価は全くうれしくないぞ?」
「……わたしのお嫁さんになってください」
「ふむ、流が嫁に、か……。流だったら全然ありだな」
「真顔で言うんじゃねぇよ。怖いわ」
「…………むぅ」
……まぁ、好評だと思っていいのかな?
口に入れたパスタをごくり、と飲み込んだ太陽が、俺に満面の笑顔を向けながら声をかけてきた。
「いやぁ~、流が昼メシ作ってくれてホントに助かったぜ。今日は朝早くから母さんが仕事行ってて、朝ご飯食ってなかったし…………ほぐあっ」
「太陽、シャラップ」
蒼が太陽の口に台拭きを投げつけて黙らせる。だが、一瞬遅かったぞ、二人とも。
「……ほう? 二人とも、朝食も食べずにゲームをしていた、と? ふーん、そっかそっか」
「ひぃっ! お、おおお落ち着くんだぜ、流!」
慌てる太陽。それを押しのけて、蒼が俺に待ったをかけた。
「まって、流にぃ。これには深いわけが」
「……言ってみろ。釈明の仕方によっては、罪が軽くなるかもしれんぞ?」
「が、頑張れ蒼! 俺とお前の命運は託したぞ!」
「…………………朝ご飯」
「朝ご飯?」
「作るのがめんどかった」
「………そうか」
「そう、だから仕方ない」
なるほどなるほど。朝食を作るのがめんどくさかったから、食べなかったってことか。
ふーん、そっかぁ。へぇー。なるほどねぇ………。
「ギルティ」
二人の頭に、固めた手刀を叩き込んだ。
それにしても、それは言い訳にすらなっとらんぞ、蒼よ。
「ぐへっ」
「……痛い」
「まったく。朝ご飯はしっかりと食べるようにって、前々から言ってるよな? まさか、忘れたとかいうんじゃないだろうな?」
俺がそう言うと、二人はサッと視線を明後日の方向にそらした。この様子だと、どうやら忘れていたらしい。これだから生活能力のないやつらは……。
この二人、両親が仕事で忙しくて朝食の用意ができなかったりすると、すぐに朝食を抜いたりするのだ。基本的に、作るのがめんどくさいという理由で。それで、後になってから俺のところに「腹減ったー」と駆けこんでくる。
俺がめんどくさいってのもあるけど、朝食を抜くのは純粋に体に悪いからやめろって前々から言ってたんだが……。休みに入って、気を抜いていたな?
「はぁ……。明日からはちゃんと食べろよ? 分かったか、二人とも」
「「はーい」」
しばらく、フォークを動かす音とかすかな咀嚼音だけがする静かな食事風景が繰り広げられた。黙々とパスタを口に運ぶ太陽と蒼を見て、「よほどお腹が空いてたんだろう。って、朝ご飯食べてないなら当然か」と思ったりしながら、俺も自分の分を平らげていく。
十五分ほどでキレイに食べ終わった俺らは、また一斉に手を合わせて「「「ご馳走様」」」。
さてと、皿洗い皿洗い……とキッチンに向かう俺。太陽はズボンのポケットから取り出したスマホで何かを調べ、蒼は机の上にぐだーっと体を投げ出していた。
ここで、二人に「手伝って?」とか言わない。絶対にOKしないし、手伝わせたら手伝わせたで仕事が増えるだけだ。
手際よく三人分の洗い物を終えた俺に、スマホから顔を上げた太陽が声をかけてきた。
「なぁ、流。ゲームの方はどんな感じだ? もう『ドゥヴィル』に入ったか?」
「まだだよ。今は『乾燥した荒野』でレベル上げとクエストを並行してやってる。まぁ、上手くいけば今日のうちに『ドゥヴィル』に行けるかもな」
「へぇ………ん? クエスト? 『アンヴィレ』で?」
「流にぃ、始まりの町でクエストなんて受けれなかったはず。何をしたの?」
「何って……。NPCのお悩み相談?」
「何だそれ!? てことはもしかして……SQか!」
「こんなに早くSQを発見するなんて……流にぃ、恐ろしい子」
「へぇ、二人がそんな風に言うなんて、SQってそんなに珍しいものなのか?」
俺の問いかけに、こくこくとうなずきを返す二人。
詳しく聞いてみると、SQの発見報告は本当に少ないらしい。
何せ、シークレットと頭についているのだ。探そうと思っても、何を手掛かりに探せばいいのかさえ分かっていない。
仮に判明したとしても、SQは一度誰かが発生させてしまえば、もう二度と発生しなくなるモノもあり、遅々として情報が集まらないらしい。
まぁ、ただ声をかけるだけでクエスト発生になるわけじゃないし、検証とかしようとしたら、おっそろしい時間がかかるのだろう。
「ということは、俺はかなりラッキーだったということか」
「そうだな。始めたその日にSQに遭遇するなんて幸運、そうそうあることじゃないぜ」
「さすが流にぃ、わたしたちにできないことを平然とやってのける。そこに……」
「痺れなくていいし、憧れなくてもいいからな?」
その後、FEOの情報をいろいろと聞いたり、逆に俺の戦い方の話を聞いてもらったりした。ブラックウルフを素手で倒したという話をしたら、あきれ顔で「お前、神官なんだよな?」と言われてしまった。自分でもあの戦い方はちょっと……。と思っていたので、何も言わないでおいた。
でも、戦闘中に武器を失ったりした時なんかに便利そうなので、《格闘》のスキルは習得しようかと思ってる。
そう言ってみたら、「魔法は? そっちの方が神官っぽい」と返された。
魔法もいいんだけど……今の戦闘スタイルが、なぜかしっくりくるんだよなぁ。なんでだろ?
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