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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
二章 ランクアップ編

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レベル上げ三日目、レアモンスターとエンカウント

めっちゃ間空いた……。

 リューがレベル上げという名のトカゲ漁をする時に使った広場。そこには無数のリザードマンが群がり……そして、それらは片っ端から白い粒子となり空に溶けていった。


 群れの中心では、深紅に染まる巨大な戦棍が霞むような速さで振られていた。高速の紅が通ったところにいたリザードマンは吹き飛ばされるか白い粒子になるかの二択。それ以外は許さないとばかりに吹き荒れる深紅の嵐はリザードマンにとっての絶望以外の何物でもないだろう。

 縦横無尽に振るわれる紅戦棍がリザードマンを血祭に上げているとくれば、それを成している人物が誰かなど考えるまでもない。リザードマンの群れの中心で血も涙もない仕打ちを彼らにしているのは、凶戦士……にしか見えない神官、リュー。すでに傷などかすりもしないので、得意のヒット&ヒールすら使っていないリューに残された神官要素は、身に纏う神官服だけであった。


 ついさっきまでどこまでも落ち込んでいた(半分は自業自得)リューは、その鬱憤をすべて吐き出さんと、アヤメが引っ張ってくるリザードマンを恐ろしい速度で殲滅していた。広場の隅っこの方でそれを見つめるマオの視線には、たっぷりと呆れが含まれている。



「うらぁああああああああああああッ!」


「キャシャアアアアアア!?」


「とっととくたばれ! 経験値共がッ!!」


「ギャースッ!!?」


「フゥーハハハッ! 弱い、弱いぞ! その武器は玩具か? 屈強な身体はお飾りか? なんだその腑抜けた攻撃は! 甘い! 甘すぎる! チョコレートの砂糖煮蜂蜜和えよりも甘いぞ!」


「シャァアアン! キャウンッ!?」


「貴様らとの戦いはこれっぽっちも楽しくない! 楽しくない戦いなど早々に終わらしてくれるわ! 【エコーブロウ】! 【インパクトシュート】ッ!!」


「ギャウゥウウウゥゥゥゥン……」



 血の気たっぷりな叫びをあげながらリザードマンを倒していく様子は、「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」という表現がぴったり当てはまる。

 リューがどんどんヒートアップしていくのに反比例するように、マオの視線はどんどん冷たくなっていく。



「……うっわー、先輩荒れてるっすねー。ストレス発散に付き合わされてるリザードマンの哀れなこと哀れなこと……。あっ、先輩! 追加が来たっすよ!」


「クハハハハハハハッ!! 塵と化せぇーーーーッ!!!」


「あ、聞いてねぇっす。アヤメちゃん、できればもっと引っ張ってきてもらえるっすか? 一度に五十匹くらいがいいんすけど……」


「………………(こくこく)」


「あ、いけるんすね。じゃあ、よろしくっす」


「………………(ちらっ)」


「先輩っすか? ……まぁ、その内落ち着くと思うっすよ。早く落ち着かせる方法は、リザードマンをいっぱい連れてくることっす」


「………………(ぐっ)」


「任しとけっすか。アヤメちゃんは可愛いだけじゃなくて、頼もしいっすね。先輩は私がしっかり見てるっすから、もう行ってきていいっすよ」


「………………(びしっ! ビュー―)」


「おお、中々のAGIっすね。この調子で、そうっすねぇ…………二百体くらい倒せば、先輩も落ち着くっすかね?」


「【召喚『サラマンダーの息吹』】!! はーはっはっはっは!! トカゲの丸焼きの完成だぜーーーーッ!!」


「……ダメかもしれないっす。……はぁ」



 ついにキャラ崩壊まで始めたリューに、あきらめ半分にため息を盛大に吐く。

 マオの零したため息は、どこまでも虚しく仮想世界の空に解けていくのだった。


 その後も、撲殺殴殺斬殺刺殺轢死圧死焼死ミンチと様々な殺り方でリザードマンを血祭に上げていたリューも、二時間ほどで冷静さを取り戻した。その間に一体何匹……いや何百匹のリザードマンが倒されたのか。それはリューのレベルが49とゲージ七割分まで上がっているのを見れば、大体察することができるだろう。

 冷静さを取り戻したリューは……沈んでいた。自分の行動があまりにもあんまりだったことを全力で後悔し、そんな姿を後輩であるマオに見られていたことにより一層落ち込んだ。落ち込んで、猛って、また落ち込んで……。感情の浮き沈みが激しい日である。

 落ち込み三角座りをするリューに、アヤメはよしよしと頭を撫で、マオはなんの遠慮もなく抱腹絶倒していた。息も絶え絶えになりながら笑うマオに、「何もそこまで……」とリューが恨みがましい視線を向けるが、完全にスルーされていた。


 その後、リューが落ち込みから、アヤメの癒しパワーによってある程度復活し、マオが笑い死にしそうな状態から回復するまで十五分ほどかかった。



「はー、それにしても。あんなに荒れた先輩を見るのは初めてっすね。まぁ、【神官(爆笑)】なんて……ブフッ、な、なんて称号をもらったら、ああなるのもわかるっすけど」


「言うな……。我ながら酷かったと思ってるんだから」


「まぁ、酷かったっすけど。なんでしたっけ? 『塵と化せ』とかなんとか言ってたっすか?」


「やめて?」



 復活したリューは、広場の隅にある大きめの岩に腰掛け、膝にのっけたアヤメの頭を撫でていた。マオのからかいに本気で嫌そうな顔を見せているあたり、先程までの態度をよほど後悔してると思われる。



「それで先輩? レベルはどんなもんなんすか? あれだけいっぱいたおしたんっすから、結構上がったんじゃないっすか?」


「ああ、えっと……今、49だな。次のレベルまでのゲージを見る限り、残りゲージ三割分くらいだ。もう少しトカゲ漁を続ければあっという間に…………ッ!? 後輩、伏せろ!」



 上がる、そうメニューから顔を上げて言おうとしたリューは、驚いたように目を見開き、直後マオに鋭い声を浴びせた。



「ふえっ?」


「チッ、先に謝っとくぞ、すまん!」


「きゃっ!? せ、先輩!?」



 リューはアヤメを小脇に抱えると、座っていた岩から飛び降り、とっさのことに反応できていないマオを押し倒した。いきなり覆いかぶさって来たリューに、マオの頬が朱に染まる。


 ドォオオンっ!!


 直後、リューが座っていた岩が粉々に砕け散った。

 乙女な反応を見せていたマオも、表情をこわばらせる。



「い、一体何なんすか!?」


「『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を盾に変え、神敵を拒む』、【シールドオブフェイス】。……モンスターの空襲だ。おい後輩、この『竜の溪谷』にはリザードマン系のモンスターしか出ないんじゃなかったのか?」


「空襲…………っ! まさか、スカイサーペントっすか!?」


「スカイサーペント……ああうん、そんな感じするな」



 リューはとっさに不可視の壁を展開し、視線を空に向けていた。その瞳に映し出されているのは、まさしく『空飛ぶ蛇』。その頭上を注視してみれば、マオの言った通りの名前と43というワイバーンにも迫るレベルが表示される。

 スカイサーペントは、その名の通り空を行く蛇であった。胴の太さは人間の胴体よりも太く、全長は目算で七メートルはあった。そんな巨大な蛇の接近にぎりぎりまで気が付けなったのは、全身を覆う鱗が空色をしていたからだろう。背景の青空に紛れて視認しにくくなっていたのだ。リューが発見できたのは、スカイサーペントが攻撃のためにその口を大きく裂けさせたのをたまたま目撃したからである。それがなかったら今頃、リューは岩を粉々にする攻撃をまともに受けていただろう。


 

「立てるか?」


「は、はいっす……」



 押し倒したマオを起き上がらせたリューは、彼女とアヤメを背にかばうように立ち、紅戦棍を片手で構え、素早く強化魔法を自分に掛ける。スカイサーペントは結界に閉じこもるリューたちを見て、馬鹿にするように長い舌を出し入れする。



「まったく、ここがフィールドってことを失念してたな」


「まったく気付かなかったっすよ……。さすがレアモンスターっす」


「レアモンスターね。説明は後ほどってことで。まずはあれをどうにかする。後輩、アヤメを頼むぞ」


「分かったっす。……けど先輩、相手は飛んでるんすよ? 後衛職の私抜きで大丈夫っすか?」


「大丈夫だ、問題ない」


「滅茶苦茶不安になる答えっすね!? フラグ乙!」


「安心しろ。飛ぶ相手への対処法はすでにある。まぁ、これのせいであの称号が付いたんだが……」


「? どういうことっすか?」


「……見てればわかる。『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を剣に変え、神敵を滅す』、【ソードオブフェイス】」



 リューは魔力で作られた剣を一本だけ作り出す。それを見たマオは怪訝そうな顔をした。



「い、一本で何をどうする……」


「【シールドオブフェイス】一時解除。いっくぞぉおおおおおおおッ!!」


「んす………はぁああああああああ!?」



 ガシッ! と魔力剣の柄を掴んだリューが、地面を強く蹴りそのまま上空へ飛び出していったのを見て、マオが素っ頓狂な叫びを上げた。



「クワッ!?」


「驚いてるところ悪いが、さっさと決めさせてもらうぞ? 【エンチャントブースター】、【パワークラッシュ】!」

 


 空中で止まったリューは、手にしていた魔力剣を素早く足元に移動させ即席の足場とすると、渾身の一撃をスカイサーペントの頭部に叩き込んだ。

 


「キュルワンッ!? キュワアアアアアアアアアアッ!!?」



 見下していた相手が物理的に自分と同じ高さにやって来た驚きも冷めぬ間に叩き込まれた重撃に、なすすべもなく地面にたたきつけられるスカイサーペント。



「【インパクト……シュゥウウウウウウウウウウト】!!!」


「ギュワンッ!?」



 さらに、上空から隕石のごとく降って来たリューの蹴りがスカイサーペントの頭部に突き刺さり、衝撃をまき散らした。たったの二撃でスカイサーペントのHPは危険域に達した。

 だが、リューの攻撃は止まらない。



「止めだ。【プロミネイション】」



 叩き込まれる防御無視の掌打。浸透する衝撃がスカイサーペントの頭部を蹂躙し、口の端から赤いエフェクトを漏らさせた。

 そして、空を行く蛇は最初の不意打ち以外何もできずに頭部を砕かれてそのHPをゼロにするのだった。


 

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