レベル上げ二日目、これもう狩りじゃなくて漁だよね?
「はぁッ!!」
殴る、砕く、潰す。
頭蓋、腕、脚、胴体、武器、防具、鱗、爪、牙。何もかもを破壊する。
群がるエモノは全部でニ十体。その内の十五体はすでに白い粒子となって虚空に消えた。
さて、そろそろ頼んでおいたことを終えたアヤメが戻ってくるだろう。それまでに、後二体は倒しておかなければ。
ちょうどよく、左右から一体ずつトカゲが向かってくる。武器は左のヤツがシミターで、右のやつがバトルアックスか。
まず、斬りかかって来たのは左のトカゲ。シミターを振り上げている。刀剣系統の武器を持つトカゲがよくしてくる袈裟斬りの一撃。
何度も見たそれを、紅戦棍の柄の中心部分に手を添え、ぐるりと回転させるようにして弾く。シミターを持つトカゲの腕が跳ね上がり、それにつられて身体ものけぞった。
バランスを崩した左のトカゲに下段蹴りを叩き込み、転ばせる。一端そいつは放置して、右からくるバトルアックス持ちのトカゲを相手にする。
バトルアックス持ちのトカゲが繰り出してきたのは、横薙ぎ。大型の武器で広範囲を薙ぎ払う一撃は確かに効果的である。だが、遅い。身体をひねり、目いっぱい力を入れてバトルアックスを薙ぐつもりなのだろうが、重さを感じさせないという特性を持つ紅戦棍の前でその行動は下策中の下策だ。
素早くトカゲとの距離を詰めると、その顔面に紅戦棍を全力で叩き込む。クリティカルヒットした紅戦棍の一撃は、俺の称号の効果も相まってトカゲのHPを一瞬で消し去った。
バトルアックス持ちのトカゲを倒した後は、地面に転がしておいたシミター持ちのトカゲに紅戦棍のを振り下ろしておくだけ。あっという間に俺に襲い掛かった二体のトカゲは白い粒子となった。
「先輩! 次が来たっすよ!」
「あいよ!」
後輩の言葉に返事を返し、俺は残っていたトカゲ三体に背を向け、逃げるようにして駆け出す。
駆け出した先には、《闘気》を滾らせながら走るアヤメの姿。その後ろには、若干HPを減らしたトカゲの群れがアヤメを追っている。うわぁ、めっちゃ怒ってるんだけど。怒気と殺気の混じった空気がこちらまで届いてきそうだ。
「よくやったアヤメ。あっちに三匹残してあるから、好きなように料理してやれ。この群れを倒したら一回休憩しような」
「………………(ぐっ)」
「後輩! アヤメが危なくなったら助けてやってくれよ!」
「了解っす!」
二人に指示を出した俺は、「まっかせて!」とでもいうようにサムズアップするアヤメと交差するようにして、アヤメが引き連れてきた群れの前に立つ。
「今度は二十五匹ね。ま、なんにも問題ないな! 行くぞトカゲ共! 【グランドシェイク】!」
群れを相手にする時には定番となったアーツを発動し、密集するトカゲ共の足元を爆ぜさせる。爆発の衝撃と地面の破片がトカゲ共のHPを削る。
突然爆ぜた地面に慌てふためくトカゲ共に、紅戦棍を振り上げながら襲い掛かる。フハハ! 冷静さを失ったトカゲなんぞ、的にしかならんわ!
「どらっしゃあああああああああああッ!!」
「グギャァアアアアアアッ!?」
惜しみなくアーツを連発し、【ソードオブフェイス】の剣を乱舞させ、トカゲ共を殲滅殲滅。ダメージ? もうずいぶん前から一度も喰らってませんね。
アヤメが引っ張って来た二十五匹のトカゲ共は、俺の手によって五分もかからずに全員が白い粒子となるのだった。
トカゲの殲滅を終えた俺たちは、一時休憩ということで、大きめの岩に腰掛けた。こうやって座ると、戦っていた時には感じなかった疲労がどっと押し寄せてくる。
まぁ、今までにない試みだったもんなぁ……。うまくいってよかった。
「ふぅ……、流石に疲れたな。ぶっ通しで三時間は流石にきついか」
「当たり前っすよ。まったく、てっきり三十分くらいで休憩を挟むのかと思ったら、ノンストップ三時間っすからね。ビックリっす」
「いやさ、VRなんだし肉体的な疲労は無いんだろ? なら50レベルまで一気にいけるんじゃないかと思ったんだがなぁ……」
「ありえないっすね。アホじゃないんすか、先輩?」
「おっと、なんか真正面から罵倒されたぞ?」
「そんくらいありないことをしてるんすよ先輩は。それを分かってもらうために、私は心を鬼にしたっす……ッ!」
「おい、なんか俺が悪者みたいになってないか? というか、なんだその苦渋の決断をしきったみたいな顔は。お前絶対にそんなこと思ってないだろ」
「あ、バレたっすか?」
「バレバレだ、アホ」
詫びれもせずに『てへっ』と握った手を額頭に当てて、妙に上手いウインクをする後輩。……あざとい。ピンク色のツーサイドアップが相乗効果を生んで恐ろしいまでにあざとい。無駄に似合っているので何も言えないが。
「それにしても、あんな思い付きがうまくいくもんすね。効率化という面ではこれ以上のやり方はないと思うっす」
「だろう?」
「その得意げな顔、腹立つんでやめてもらっていいっすか?」
「……なんか、辛辣だな。何か怒ってるのか?」
「…………ぶっ通しで三時間。一度の休憩もなしに三時間。リザードマンを撲殺する先輩を見続けて三時間。退屈で死にそうだった三時間……………………」
突然、トーンを下げた後輩の口から聞かされる、さっきまでの後輩の状況。ハイライトの消えた瞳と、時折『ふっ……』と漏らす笑みが怖すぎる。
すぐに降伏宣言をした俺は、素直に後輩へ頭を下げた。
「ああ、うん。俺が悪かった。ごめんなさい」
「分かればいいんすよ。分かれば。あ、でもタダで許すのもアレ何で、何かお詫びを要求するっす」
「お詫び……。そうだな、じゃあ定番の俺に出来ることならなんでも一つする……ってのはどうだ?」
「ん? 今、何でもするって言ったっすよね?」
「お約束の反応をありがとう。言っとくが、俺に出来ること、だからな?」
「ふっふー、十分っすよ。じゃあ、何をお願いするかはまた後日ってことにしてもいいっすか? じっくり考えとから決めるっすから」
「あ、ああ、いいぞ」
なんか、一瞬で機嫌が直ったな。俺ができることなんて、大したものじゃないのに……。まぁ、本人が嬉しそうならいいか。
「それで先輩? 三時間の成果はどうだったんすか?」
「ちょっと待て、今確認するから。えーっと……。お、46まで上がってる。あと4だな」
「今日のペースでいけば、明日で余裕っすね。……まぁ、あんな方法で戦ってたら当たり前だと思うっすけど……」
呆れるように言う後輩。何を言うか、俺の考えた素晴らしい作戦じゃないか。
アヤメがうっかりトカゲの群れを引き連れてきた(トレインというらしい)あの時に思いついた作戦はこうである。
① 『竜の溪谷』の少し開けて広場のようになっているところに陣取る。この時、広場の入口が二つあるところにする。
② アヤメにお願いしてリザードマンの群れをトレインしてもらう。この時、周りに他のプレイヤーがいないことを注意するようにアヤメにしっかりと言っておく。
③ アヤメが連れてきたリザードマンの群れを俺が殲滅する。
④ 俺がリザードマンの群れの相手をしている間に、アヤメはもう一つの入り口からまた群れをトレインしてもらう。
⑤ ②~④を延々と繰り返す。
どうよ、この無駄を省いて戦闘だけをするようにした作戦は。
「名付けて『引っ張ってきては殴る作戦』」
「まんまっすねぇ……。ところで、先輩。得意げになるのは良いんすけど……」
「ん? 後輩が退屈する以外に、何か問題でもあったか?」
「それが一番の問題なのは間違いないんすけど、そうじゃないっす。……この作戦、狩りって言うより、もはや『漁』じゃないっすか?」
「……作戦名、トカゲ漁に変えるか」
「それがいいんじゃないっすかね?」
漁、漁かぁ……。まぁ、魚じゃないけど鱗持ちと考えれば同じようなものかぁ?
そう考えると、盛り上がっていた気持ちも少し萎えた。
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