飛竜殺しの神官様②
百話、だァアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「【ストレングスエンハンス】、【ディフェンスエンハンス】、【アジリティエンハンス】、【マインドエンハンス】、《信仰の剣》、《信仰の盾》! そんでもって……【ハイジャンプ】ッ!! おらぁあああああああああああああッ!!!」
自身に全力の強化をかけ、増幅された脚力とアーツの力で、リューの体は勢いよく夜空に発射される。ガントレットに覆われた拳を握り、意気揚々と殴りかかる姿を見て、こいつを神官だと判断できる者がどれほどいるだろうか?
知っているものでさえ、飛行型モンスターの独壇場に単身突っ込んでいくリューの姿を見れば、思わず乾いた笑いを漏らしてしまうだろう。例外は、今この時もストーキングに余念がないどこぞのブンヤくらいである。
いきなり武器をしまったと思ったら、無謀にも自分の領域にツッコんできたおかしな敵を鼻で笑ったワイバーン。
翼を持たぬ矮小なモノは、虫のように跳ねはせども、飛ぶことはできない。
空中で無防備になったものを、自慢の炎弾か尾の先に生えた鋭利な毒針で攻撃すればいい。ただし、矮小なモノの中には空中を蹴って移動するものもいるので注意。
ワイバーンは、己に宿る戦闘経験の導きに従い、両翼を大きく羽ばたかせ、高度を上げた。
さて、唐突ではあるが、ここでFEOに置いてボスモンスターだけが持つ特殊なAIについて説明しよう。
通常、モンスターには、いくつかの行動パターンと攻撃パターンが組み込まれたAIが搭載されている。その中から周りの状況を演算処理し、それによって導き出された最適行動をとるように出来ている。
なので、モンスター戦に置いて対人戦のような『駆け引き』が生まれることはない。
FEO開発当初、ボスモンスターのAIは、通常モンスターよりも行動パターンと攻撃パターンが多いモノになる予定だった。しかし、そこで待ったをかけた職員がいたのだ。「――――ボスモンスターが、そんなんでいいのか?」と。
その職員の一言により、ボスモンスターのAIには一つの機能が追加されることになった。
それは、『戦闘経験の蓄積』。
様々なプレイヤーと戦うことになるボスモンスターは、その戦いを戦闘経験として記録する。AIがそのデータを分析し、独自の戦闘アルゴリズムを創り出すのである。相手がどんなプレイヤーであろうと勝てるように。文字通り、彼らはボスなのだから。
この機能により、ボスモンスターはただ殺意を滾らせながらツッコんでくるだけの通常モンスターとは一線を画す実力を持っているのである。
とはいえ、成長限界のようなものは設定されているし、ステータスが変わることは無いので、際限なく強くなって行ったりはしないのでご安心を。
……ちなみに、リューが降した紅月の試練のボスモンスターのAIは、通常のボスモンスターよりも遥かに性能のよいモノになっている。戦闘能力もステータスも高いボスモンスターとの死闘。それが紅月の試練。
閑話休題。
「キャシャァアアアアアアッ!!」
空中で失速するリューに向かって、ワイバーンがガパリと口膣を開いた。鋭い牙の並ぶそこに炎が生まれ、バスケットボール大の球体になると、リュー目がけて発射された。ワイバーンの十八番、ファイアーボールである。
「おお、怖い怖い。けど、俺も無策で突っ込んだわけじゃないんだよなぁ。……【バインド】!」
迫る高熱の塊を前にしたリューは、慌てることなく用意していた一つの魔法を発動させた。伸ばした手のひらに現れた魔法陣から光で構成された鎖が伸び、ワイバーンの頭部に生えた角に巻き付いた。
「おし、上手くいったな。じゃあ……そいッ!」
リューは魔法陣から伸びる鎖を、逆の手でつかむと、思いっきり引っ張った。ピンと張った鎖は、反動でリューの体を空中で振り回し、結果としてワイバーンのファイアーボールを回避することに成功した。
「キャシャッ!?」
「くくくっ、驚いてくれたようで何よりだ。ついでにこれも喰らえ、【インパクトシュート】」
「ギャンッ!?」
光の鎖を握り、ワイバーンの眼前に現れたリューは、衝撃を伴う蹴りでその鼻っ面を蹴っ飛ばした。大きくのけぞるワイバーンの頭部。その動きで角に巻き付いていた光の鎖がほどけ、リューの体が支えもなく空中に放り出される。
「うん? 耐久性に難ありか……。まぁ、あれだけできれば十分だな。『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を盾に変え、神敵を拒む』、【シールドオブフェイス】」
早口で唱えられた呪文。信仰心の盾を作る魔法によって、不可視の盾が無数の現れる。落下するリューの、その足元に。
「ほっ。よっと。そいっ! おわっと!? ……ふぅ、こっちも成功、だな。難しいことに変わりはないが」
足元に階段のように設置された不可視の盾を蹴って減速したリューが、多少ふらつきながらもダメージなく着地した。
【バインド】を使った空中制動。【シールドオブフェイス】を足場にした空中移動。
どちらも、リューが飛行型モンスターを相手にするということで考えておいた戦法である。どちらも一瞬の判断が取り返しのつかないミスにつながるようなものだが、それをこなしたリューは、口元に笑みを刻んで一連の動きを反芻した。
「うん、難しいな。気が抜けない。……けど、だからこそ面白いッ。『我、真摯に主を信う者。我が心に宿る信仰を剣に変え、神敵を滅す』、【ソードオブフェイス】!」
詠唱を終え、リューの周りに剣がつぎつぎに現れる。すべての切っ先を空中のワイバ―ンに向ける剣の群れ。リューは、その中から二本を選び、両方の手に一本ずつ握りしめた。
「さぁ、デカトカゲ? 今から行くからな……。お前のステージにッ!」
リューの言葉と同時に、【ソードオブフェイス】の剣がワイバーンに向かって飛翔していく。リューが柄を掴んでいる二本の剣も他の剣と同じように飛翔する。
リューの体ごと。
「ギャァ!?」
「くはははッ! 【インパクトシュゥウウウウウウウトォオオオオオオオオッ】!!」
飛翔する剣につかまり、哄笑を上げながら飛竜に蹴りを入れるリュー。
またもや鼻っ面を蹴り飛ばされ、衝撃を喰らいのけぞったワイバーンの戦闘経験に、一つの項目が追加された。
――――『最近の神官は、飛ぶ』、と。
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