はじめてのたたかい
日間四位……だと?
なるほど…………夢だな。
―――クエスト。
古今東西様々なRPGが存在しているが、その中でクエストという要素がないRPGというのはかなり少数なのではないだろうか?
クエストとは、「○○を持ってきてくれ」とか「○○というモンスターを討伐してくれ」といったお願いごとのことだ。NPCから出された課題を達成することで、何かしらの報酬を得ることができる。お金だったりアイテムだったり武器だったり。中にはクエストをクリアすることでストーリーが進行したり、パーティーに仲間が増えたりすることもある。
FEOでもクエストはもちろんのようにシステムに組み込まれている。基本的には『冒険者ギルド』というところに登録するとクエストを受注することができるらしい。
その冒険者ギルドとやらは『ドゥヴィル』より先の町にしかないので、始めたばかりの今は関係ないと思っていたのだが……。まさか、こんな形でクエストを初体験することになるとは。
幼馴染共に事前に教わった情報によると、シルさんのクエストのように冒険者ギルドを通さないモノもあり、それはSQと表される。SQの中にも、誰でも挑戦できるものとクエスト発見者しか挑戦できないものがある。シルさんのクエストは後者だ。
クエストについての知識を思い出しつつ、俺は道具屋に舞い戻っていた。
あ、シルさんのクエストはちゃんと受けてきたよ。当たり前じゃないか。
最初から行こうと思っていた『乾燥した荒野』でできるクエストだし。それに、報酬の[???のスキルブック]ってのがすごく気になる。
そのまま出発! としても良かったんだけど、クエストの達成条件にある[ゴブリンジェネラルの血液]。これをドロップするであろうゴブリンジェネラルは、『乾燥した荒野』のフィールドボスだ。
さすがにボス相手になんの準備もせずに特攻をかますようなことはしたくない。ボスというものはしっかりとレベルを上げて、アイテムをそろえて、万全の状態で挑むものだ。ボス前セーブは必須。って、FEOはMMORPGだからセーブできないじゃん。
ま、まぁ。ボス前セーブができなくても、準備がしっかりできていればそう簡単に負けたりはしない……はず! 何せ、死なないようにってことで職業を神官にしたんだからな。
……え、HP回復ポーションも、一応買っておこうかな?
とまぁ、そんな感じで、道具屋でできる限りの準備をした。初期所持金である1000フラン(FEOでのお金の単位)を全部使い切ったけど、後悔とかは特になかった。
買ったアイテムはこちら。
・下級HP回復ポーション(HPを50回復する)×4 一つ100フラン 計400フラン
・下級MP回復ポーション(MPを50回復する)×4 一つ150フラン 計600フラン
・合計 1000フラン
・残高 0フラン
さてと、これで準備は終わった。そんじゃあ、ここからは……。
狩りの、時間だ!
「おお、これは…………。うん、まんま荒野だな」
『乾燥した荒野』は、そんな当たり前の感想しか出ないほどに荒野だった。
一面、地面の色が広がる、砂と岩で構成された世界。乾いた風が吹くたびに砂が宙を舞っている。
もう何度目か知らないけど……。めっちゃリアルだなぁ。頬をなでる風の感触や、肌を焼く日光の熱すら感じられる。
っと、いけないいけない。景色に見とれるのもいいが、ここはすでにモンスターの出現する場所なのだ。いつ襲われても大丈夫なようにしておかないと。
神官服の腰にぶら下げていた[初心者メイス]を右手に持つ。柄頭には厚い金属板が『米』の形に取り付けられている。それと柄と合わせて長さは90センチくらい。片手で振り回しても問題ないが、結構ずっしりとしているな。この重量で敵を叩き潰す、と。
ぶんぶんとメイスを素振りしながら、荒野を進んでいくと、さっそくモンスターとエンカウントした。
岩陰から現れたのは、「グルル……」と牙をむき出しにしてこちらを威嚇してくる黒い毛皮の狼。頭上を注視すると、ブラックウルフというそのまんまな名前と、HPゲージが表示された。
あ、こいつってシルさんの依頼にあった[黒狼の牙]をドロップするモンスターじゃない? 幸先がいいじゃないか。
ブラックウルフと俺の間にある距離は目算で7~8メートル。近距離攻撃しかできなさそうな相手だが、油断せずにメイスを構える。
さて、初戦闘だ。万全を期して全力でいかせてもらおう!
「……【ストレングスエンハンス】。ンでもって、……【ディフェンスエンハンス】」
《付与魔法》のスキルで、初期から使用することのできるSTR強化の魔法とDEF強化の魔法を自分に使用する。これで、攻撃力と防御力が一割ほど上昇した。……DEFは1しか上がらんのか。役に立たんな。
このゲームの魔法には、詠唱時間と再詠唱時間が存在する。
詠唱時間というのは、魔法を発動させるのに必要な時間のこと。「○○の魔法を発動させよう」と強く意識すると、視界の端にゲージが表れる。このゲージがいっぱいになると、あとは合図だけで魔法が発動できる待機状態になる。発動の合図は魔法名を口に出すこと。そうするとMPが消費され魔法が発動する。また、待機状態には制限時間があり、待機状態のまま三十秒が経過すると発動失敗となりMPだけが消費される。
再詠唱時間は一度発動した魔法が再度発動可能になるまでの時間だ。これも詠唱時間のゲージと同じように、視界の端にゲージが表示される。
詠唱時間と再詠唱時間は、魔法の熟練度が上がるにつれて短くなっていく。熟練度を上げまくると、絶えまなく魔法を撃ちまくる、みたいなこともできそうだ。
「グルルルルッ! ガァアアアッ!!」
ブラックウルフが牙をむき出しにして飛びかかってくる。突進からの噛み付き攻撃、は俺の肩あたりを狙っているようだ。
四足歩行の獣なだけあって、その動きは結構素早い。横に飛んでかわそうかと思ったけど、俺のAGIじゃ間に合いそうにないな。なら……!
「せいっ!」
「ギャンッ!」
こちらに牙を向ける、大きく開かれた口。そこ目がけて、カウンター気味の横薙ぎを叩き込む。見事にジャストミートしたメイスを振りぬくと、ブラックウルフは吹っ飛んでいき、地面に横倒しに倒れた。クリティカルヒットしたのか、HPは三分の二くらい削れていた。
倒れたブラックウルフに素早く接近し、起き上がれないように無防備な横っ腹を強く踏みつける。「グギャァ……」と苦し気な鳴き声が黒狼の口から洩れた。
くっくっく……。これでもう、勝負はついた。というわけでっ!
「じゃあな、狼野郎!」
ブンッ! グシャッ。
思いっきり振り下ろしたメイスが、ブラックウルフの頭部を叩き割った。まき散らされる血色のポリゴンが白い神官服に付着する。
頭部を潰されたブラックウルフは、しばらくぴくっ、ぴくっと体を痙攣させていたが、すぐに動かなくなる。HPゲージは確認するまでもなく真っ黒に染まっていた。
やがて、その死体は無数のポリゴンに変換され、空気に解けるようにして消えていった。
ふぅ、終わった。戦闘終了。
初戦闘ということで結構緊張したのだが、ふたを開けてみれば完勝であった。まぁ、『乾燥した荒野』は所詮初心者フィールド。出てくるモンスターもこんなもんなのだろう。もしかしたら《付与魔法》はいらなかったかもしれない。いやまぁ、熟練度上げのためにかけるんだけどね? MPは自然回復するし。
ステータスを確認してみると、《メイス使い》がレベル2になっていた。それ以外に変化はなし。次のレベルアップまでに必要な経験値とブラックウルフを倒したことで手に入った経験値から計算するに、レベルアップまでに、ブラックウルフを後三体は倒す必要がありそうだ。
ステータスウィンドウを閉じ、お次はドロップアイテムの確認。[黒狼の牙]はあるだろうか?
えっと、[黒狼の毛皮]、[ウルフミート]、[黒狼の爪]……。あれ、牙がない。
まぁ、そう簡単に手に入ったら、クエストクリアも簡単になっちゃうしな。もしかしたら牙はレアドロップなのかも。
とりあえず、[黒狼の牙]が5個集まるまでは、ブラックウルフを乱獲だ!
感想、ブックマ、評価を付けてくださった方々、本当にありがとうございます!




