ハロウィン番外編 中学三年生
一時間以上遅れてハロウィン話を投稿するやつなんておるん? 信じられんわー。
あ、このお話は一話の前に置かれますので悪しからず。
これは、流がまだFEOに出会っていないころのお話。時間軸的な話をすれば、流たちが中学三年生の時の十月三十一日。
そう、調子に乗った若者がアホみたいな恰好をして街を練り歩くイベント。ハロウィンの日であった。
「じゃ、これでHRは終わりにするけど……。あんまし羽目外し過ぎんなよ、お前ら」
そう、言葉に呆れとあきらめを込めて担任が宣言した瞬間、おとなしく席に付いていた生徒たちは「うおぉおおおおおッ!」と歓声を上げた。先生の言葉、完全に無視である。「やっぱりなー」みたいな表情を浮かべた先生は、音もなく教室から出ていった。これから起こるであろう狂乱に巻き込まれないように……。
先生がいなくなった教卓に立ったのは、前を全開にした学ランを着用した太陽。爽やかなイケメンフェイスに無邪気な笑みを浮かべ、天井に拳を突き上げる。
「よっしゃぁ! さぁて、お前ら。ハロウィンパーティー……始めるぞぉおおおおおおおッ!!」
「「「「いっっえええええええええええいッ!! トリック、オア! トリィイイイイイイイイツ!!!」」」」
太陽の言葉に、クラス中が湧き上がる。そう、流と千代原兄妹が所属するこの三年三組は、放課後に教室を貸し切ってハロウィンパーティーを企画していたのだ。これぞ、若さと勢いに任せきった行動である。
テンションアゲアゲなクラスメイトを見て、窓際の席に座る流は、苦笑を浮かべながら嘆息する。「楽しそうだな、こいつら」と完全に観戦モードに入っている流だが、そうは問屋が卸さない。
「じゃあとりあえず……。このパーティーをするにあたって、先生への根回しとか教室の使用許可とかその辺を全部やってくれた流に、盛大な拍手を!」
「「「「わーーーッ!」」」」
「よっ! 優等生! 先生の評価がいいヤツ!」
「いやぁ、お前がいなかったらこのパーティーは存在しなかったぜ! ありがとうな!」
「流石は生徒会からの幾たびにも及ぶ勧誘を断り続けている男だぜ!」
「本当にありがとね、新城君!」
「え、あ? お、おう」
クラスメイトからかけられる感謝の嵐に、自分に矛先が向くとは思っていなかった流は面食らったように生返事を返した。
この頃の流は、太陽と蒼の付属品のような扱いで、クラスでもあまり目立つ生徒ではない……と、流本人だけが認識していた。だが、他の生徒からしたら、何かと目立つ太陽と蒼がものすごく頼りにしていて、実際に優等生であった流は、十分目立つ生徒だったのだ。
今回も、太陽に頼まれた流は、教室を使うための許可や、担任以外の教師への説明などの裏方仕事をひっそりとこなしていた。なんだかんだで弟には甘いお兄ちゃんである。
ただ、本人がこっそりひっそりとやったと思っていたそれは、ほかならぬ太陽によってクラスメイトに伝えられていた。ハロウィンパーティーをするにあたって、流は重要な役割を果たしてくれた、と。もちろん、流に気づかれないように、である。太陽が流にこのことを隠していたのは、単純にいきなりクラス中から感謝されてうろたえる流の姿が見たかったからだろう。その証拠に、教卓から流を見る太陽の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「ふふっ、流にぃ大人気。おめでと」
「……仕込んでただろ、お前ら」
「何のこと? わたしには分からない」
流の隣に座る蒼が、ここぞとばかりにからかいにかかる。流は半眼になって蒼を睨みつけるが、頬がうっすらと赤くなっているので、照れていることはバレバレだった。
「流! そんなに照れることないだろ? 皆、お前に感謝してるんだぜ? なぁ!」
「そうだな、今回のMVPだな」
「すごいよね新城君。あの堅物の斎藤の許可も貰ってるんでしょ? どんな手段を使ったのか聞いてみたいよ」
「いくらウチの校則が緩いからって、こういうのはなかなかなぁ……。いや、新城はほんとにすげーよ」
太陽の問いかけに、帰ってくるのは流への賞賛の言葉。本格的に照れくささが隠せなくなってきた流は、そっぽを向きながら、机の横にかけていた手提げ袋をひっつかむと、ビシッと教室中に向けて突き出した。
「べ、別に太陽に頼まれたからやっただけだ。褒めても出るのはパーティー用に作って来たパンプキンクッキーくらいだからな!」
「「「「手作りなの? すげぇ!」」」」
わっ、と流の机の周りに集まるクラスメイトたち。流は、一人一人に小分けされたクッキーの袋を渡してく。クラスメイト達は手渡された袋をさっそく開け、黄色がかったクッキーを食べ始める。
「もぐもぐ……。うわっ! すげぇ美味い! 店で買うのに全然負けてないぞ!?」
「ホントだ、サクサクしてて美味しい」
「かぼちゃの優しい甘み……。お、美味しすぎるよぉ」
「ま、負けてる! 太刀打ちすらできないわ! 新城君、女子力高すぎよ!」
「クッキーを手作りできるのは乙女のステータス……。ふふふ……わたし、かんたんな料理すらできないんだけど……」
「お、大げさだなお前ら……。けどまぁ、喜んでもらえてるみたいで何よりだよ。あ、お代わりここに置いとくから、適当に食べていいぞ?」
「「「「ッ!!!?」」」」
「ただし、喧嘩はしないこと。分かったか?」
「「「「分かったよ、母さん!」」」」
「誰が母さんだ、誰が!」
クラスメイト達にもみくちゃにされる流を見て、太陽と蒼は顔を見合わせて、「作戦成功」と笑みを浮かべた。
このハロウィンパーティーは、実は太陽と蒼がいつも自分たちの一歩後ろに下がって目立たないようにしている流を思いっきり目立たせるために計画されたものだった。
男女ともに人気のある太陽と、全校の男子から圧倒的な人気を集める蒼。あまり目立とうとしない流は、二人の腰巾着扱いされることがしばしばあったのだ。
大好きなお兄ちゃんがそんな扱いを受けることになっとくのいかない二人は、このイベントを通じて流のすごいところをしっかりと分からせることにしたのだ。
結果は見ての通り、大成功といえるだろう。流のすごいところは、見事に全クラスメイトが知ることになったし、これからは流を千代原兄妹の付属品扱いするものはいなくなるだろう。太陽は小さくガッツポーズをし、蒼は満足げにサイドテールを揺らした。
「おーい、太陽、蒼! お前らはパンプキンクッキー、食べないのか?」
「「食べる! 超食べる!」」
おまけ《蒼のとりっく・おあ・とりーと》
「ふぅ、なんか今日は疲れたな……。早めに寝るか……」
「ん、流にぃ」
「あれ? どうかしたのか蒼。もう十一時だぞー。明日も学校だし、早く寝たほうがいいぞ?」
「大丈夫。すぐに寝るから。それで……流にぃ、トリック・オア・トリート。お菓子をくれなきゃ、悪戯する」
「なんでこのタイミングで? というか、寝る前にお菓子を食べるなんて許さんからな?」
「ん、じゃあ、悪戯する」
「は? お前なんで枕をもって……。というか、パジャマ姿で来たのは……」
「一緒に、寝よ? お菓子くれなかったから、悪戯」
「ここぞとばかりにハロウィンを強調しやがって……。……で、真理恵さんの許可は?」
「貰ってる」
「はぁ、分かったよ。今日はもう眠いし、ここでぐだぐだしてる方が疲れる」
「賢明な判断。それじゃあ、添い寝、よろしく」
「はいはい、仰せのままにっと」
「…………(ぼすん、ごろん)」
「…………(ポスッ、ころり)」
「……じゃ、おやすみ」
「……ん、お休み。流にぃ。今日はお疲れ様」
「……ふわぁ……。ありがと……よ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………くぅ」
「……ん、流にぃ、寝た?」
「……………」
「ん、ぐっすり。……流にぃ、本当に、お疲れ様。…………ん。(ちゅっ)」
「……………」
「こっちが、ホントの悪戯。それじゃあ、今度こそおやすみ……ふわぁ………………くぅ」
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