『決意と資格』
遅くなりました。申し訳ありません。
彼女の真意はわからなったがひとつだけはっきりしたことがある。
「俺のこと疑ってんだな」
「だれが?」
「・・・さあ」
「ええ~?」
おしえておしえてと俺の周りをウロウロする咲夜の頭に軽めのチョップを当てる。
「痛!?」
咲夜は大げさに痛がるとふらふらと地面に座り込んだ。
「なにやってんの?」
すると咲夜は若干の色っぽさを醸し出しながら誘うような声音で俺にいう。
「今ので歩けなくなったからおぶって」
「子供じゃねえんだぞ」
「大丈夫、わたし軽いほうだから」
「大層なもんぶらさげてよく言うわ」
「・・・クソムッツリ」
「変な単語作ってんじゃねえよ・・・ほら」
両の腕で胸を隠そうとしている咲夜の手をつかんで立ち上がらせようと引き上げる。
「おわっと・・・」
足元がふらつき倒れてきた咲夜を抱きとめる。
ボスッという布に埋もれる音とともに咲夜の体重を夏服の薄い布越しに感じる。
少しだけ気はずかしくなって顔を背けてしまう。
「ほ、ほらえーっとだ、大丈夫か?」
咲夜は何も答えない。
「咲夜・・・?」
かわりに腕を背中にまわし、まるで存在を確かめるかのように強く抱きしめた。
女の子から大人の女性に移りかわっている柔らかい身体の感触が心臓を激しく打つ。
「咲夜・・・」
彼女の身体は震えていた。
どんな思いで、覚悟で、彼女がこのような行動をとったのか俺には想像もつかない。
「ねえ・・・コータ、幸多朗」
ふるえた唇から洩れた声、涙目で見上げた顔には先ほどのようなあざとさなく彼女の意志は揺るぎないものであることを示していた。
「わたし・・・コータのこと」
「まて」
「コー・・・タ?」
思わず止めてしまった。
しまった。と思ったがもう遅い。
力を緩めた咲夜の身体をゆっくりと引きはがすと、彼女の眼を潤ませていた涙を指で拭う。
「・・・すまない。今は答えられない。」
咲夜はまた涙を眼に溜めると今度は引きつった笑みを浮かべた。
「う、うん・・・ごめんね。それじゃあまた月曜日。」
「ああ」
咲夜は俺の横を走りぬけていった。
そのとき
「また答えてくれないんだ。」
恨み事のようにいったその言葉を俺の耳は聴きのがさなった。
「・・・すまない。」
遠ざかっていく咲夜の背中を追いかけることができず、ただ謝ることしかできなかった。