『ハッピーもーにんぐ』
日をまたいで翌日の朝、ジリリリリという目覚まし時計のやかましい音で目を覚ました。
「やかましい」
目覚まし時計のアラームのボタンを叩き黙らせた。見れば針は八時半を過ぎていた。
だが今日は土曜日、部活にも特に所属していない俺は起きる必要性がない。そういう訳で俺は二度寝することにし…
「コータ!いるー?」
朝からやかましい声が窓から聞こえた気がした。
「コータ!」
「…。」
俺はムクっと起き上がると勉強机に置いてあった携帯端末とヘッドホンを手に取り、端末の音楽プレーヤーを起動しヘッドホンを耳に当て外の声を遮断した直後、
「いるなら出てきてよ、コータ!」
と部屋の扉が勢いよく開けられた。休みの今日も学校に何か用でもあったのか上がり込んできた咲夜は制服姿だった。
俺はヘッドホンを首に掛け、少し涙目になっている咲夜を見た。
「何か用?てかどうやって入ってきた?」
すると咲夜は胸を張りスカートのポケットから熊のストラップのついた鍵を取り出した。
その鍵はなんだか見覚えがあった。
というか俺の家の鍵だった。
俺は咲夜に近づくと鍵を無言で掴み、取り上げようとする。だが俺の動向を予期していたのか昨夜は抵抗を見せた。
「てめぇ!何で家の鍵持ってんだ!てか抵抗すんな!手を離せ!」
「やだ!これはおばさんが私にってくれたんだもん!きっとおばさんが信用して渡してくれたんだから盗られたなんて知ったら失望しちゃう!」
「またあのババアかぁああああ!」
「誰がババアですって?」
「あぁ!誰ってかあさ…」
不毛な喧嘩を続ける俺と咲夜は突然割って入ってきた人物へと目を向け、同時に手を離した。金属の鍵がフローリングの床に落ちる音が部屋に響いた。俺は血の気が引くのを感じ、咲夜も青い顔をしてその場から動けなくなる。
笑っているように見えるその人物―神代明日香は表情を崩さず鍵を拾うと咲夜に手渡した。
「はい、咲夜ちゃん。ちゃんと落とさないようにしてね。」
「は、はひぃ…。」
咲夜さん、はひぃになってますよ。
「幸多郎?」
「はい!な、何でしょうお母様!」
思わず敬礼してしまった。すると母はニッコリと笑うと
「何かいい残すことは無い?」
その後、俺は母に全身全霊で土下座をし何とか許しを貰えたのだった。
「久々に見たね…おばさんのマジ怒り…」
咲夜はブルブルと震えていた。
「そうだな…ババア呼ばわりしただけであんなに怒られるとは思わなかったよ。」
「まあまだ若いしね。」
母は18歳の時に父に出会い20歳の時に結婚し、22歳の時に俺を身ごもったという。ちなみに俺は今年で17歳になるため母は39歳ということになる。のだが未だに20代でも通じるほど若く、そして美人で近所でも憧れの的になっていた。どうでもいいが俺は母似らしい。どうでもいいが。
「おい、コータ。今何か自慢気に言っていたような気がするんだけど気の所為かい?」
咲夜がジト目で見てきていた。
俺は適当にあしらって忘れそうになりそうだったことを聞くことにした。
「んで、制服で家に来てまで何の用だよ?」
咲夜は一瞬キョトンとした表情になり自分が制服を着ていることに気づくとハッとした表情になった。表情豊かで飽きさせないのも咲夜のいい所の一つかと思っていたら、突然右手を掴まれた。
驚く俺など構わず咲夜は続けて、
「はやく制服に着替えて!一緒に行かなきゃ行けないところがあるの!」
真剣な眼差しでそう促す咲夜に俺はただ頷くことしか出来なかった。