『対面』
「さっむ」
階段の中腹辺りにまで下がりしばらく座っていたが真夏にしては肌寒いこの場所に動かずに居座っていれば寒いと感じるのは無理なかった。
「咲夜のヤツ、変なことしてないだろうな。」
不機嫌そうに頬を膨らませていた彼女のことを思い浮かべる。
あの後、
「初めまして私、菜月咲夜っていいます。コータとは幼なじみです。」
と簡単に真白に自己紹介した咲夜だったが不機嫌そうな顔のままだった。それに比べ真白はそんな咲夜にも
「幸多郎くんの幼なじみ…。そうですか、私は黒崎真白っていいます。」
と笑顔で言った。
咲夜も真白のことを見習えばいいのにっと思っているとそれに気づいたのかこちらを振り向いた咲夜が頬を膨らませて怒っていた。
「今、真白さんと私を比べたでしょ?」
す、鋭い。俺はそんな事ないと冷や汗をかきながら否定した。
「どうだか」
完全に機嫌の悪くなった咲夜はぷいっとそっぽを向いてしまった。
その様子を傍目から見ていた真白がクスッと笑うった。なんだか暖かい気持ちになった。
「コータ」
ドスの効いたその声には思わず身震いしてしまった。
その声の主へと目を向ける。咲夜が蔑むような目をしてこちらを見ていた。
「は、はい。何でしょう…」
思わず敬語になる。
怖いです、咲夜さん。
「真白さんにちょっとだけ話があるから聞こえない所までいって欲しいんだけど。」
「え、何で?別に居てもいいじゃ…」
「はやくいけ」
黙らされた俺は咲夜の言われるがままに話が聞こえなくなるまで階段を降りた。
「へくしゅん!?」
汗が冷え始めて本格的に寒くなり始めた。
「てか何で俺ここにいんだ。」
かれこれ1時間ほどここにいることに気づき途端にこんな場所にいることが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「帰ろ」
ズボンについた埃を落とし立ち上がる。
「おやおや、どこに行くつもりかな?」
背後から聞き慣れた声がしたので振り向くついでに右手でアイアンクローをかました。
「いたたたたた!」
頭をがっしりと掴まれ悶える咲夜が抜け出すために右手を引き剥がそうと抵抗していた。しかしそれも虚しく、
「ギブギブギブギブギブギブギブ!お願いします、離してください!」
右手を離し彼女を解放する。
咲夜は頭を抱えてその場にしゃがんでこちらを睨んだ。だがその瞳には涙が溜まっていてそれにも関わらず強がる咲夜を見て思わず吹き出した。
「コータ!」
それを分かっているからこそ笑われたことはやはり恥ずかしいらしい。
「分かった分かった悪かったよ。」
適当な返事をし手を貸そうと咲夜へ伸ばす。
「もう」
唇を尖らせながら咲夜は手を借り立ち上がる。
「それで話はいいのか。」
「ん、」
右手の親指を上に向けグーサインを作りこちらに是非を示した。
「そうか」
足を進め階段を下へと降る。後ろにいた咲夜も隣りに移動し横並びに一歩一歩降りていく。
「何の話をしてたんだ。」
すると咲夜は一瞬考えた仕草になり、
「ナイショ!」
と笑顔で言って階段を早足に降りた。
しかし俺は知っていた。
咲夜がした笑顔が少しニヤついていたことに。
そしてこの笑顔を咲夜がしたということは
「…何か企んでんな、アイツ。」
嫌な予感をしつつも俺はどうすることも出来ず咲夜の後を追いかけた。