『優しいあなたと』
会わせてくれ、と咲夜に言われたものの正直にいってどこに真白がいるか俺は知らなかった。
「いるか分かんねぇからいなくても文句言うなよ。」
咲夜を引き連れとりあえず昨日彼女と出会ったあの場所へと向かう。
「大丈夫、絶対にいわないから。私に会わせたくないからわざと間違えたんじゃないの!とか言わないから。」
絶対言うなコイツ、と真剣な表情でいう咲夜を見て俺は溜息をついた。
「にしてもちょっと肌寒いね。」
半袖のセーラー服で露わになっている両腕を摩るようにしてそう言った。
木々に覆われた石作りの階段は快適だった昨日とは違い昨夜が言うように少し肌寒かった。
「そうだな。」
頷きながらそう言う。
日が沈みかけているからか、それとも空を覆う木々のせいか昨日よりも辺りは薄暗くなっていた。
「暗いから足踏み外すなよ。」
そう言って振り返った瞬間
「きゃっ!」
と言う小さい悲鳴と共に咲夜が倒れ込んできた。
突然のことではあったがしっかりと受け止めることが出来た。
「言わんこっちゃない、怪我はないな」
溜息混じりに胸に顔を埋めた咲夜に言った。
「咲夜…?」
数秒の沈黙のハッとしたような表情になると顔を赤らめて勢いよく離れた。
だが同時に体勢を崩しかけていたので彼女の身体を肩を掴み支える。
「あ、」
咲夜はまた顔を赤らめてモジモジしだしていた。
俺は小さく溜息をつき、手を離した。
「気をつけろよ」
そう言って肩を2回叩いた。
昨夜は驚いた顔を一瞬した後、笑顔になって
「うん、ありがと。」
と言って後を着いてきた。
少し照れくさかったから残りの段数は少し早めに登った。
「綺麗…」
咲夜はその頂上からの景色に見惚れていた。
夕焼けに染まる町を一望できるこの場所は彼女も気に入ったようだ。
「すごい綺麗な景色だね、コータ!」
まるで子供のようにはしゃぐ彼女をみているとなんだか微笑ましかった。
辺りを見回すが真白の姿はなかった。
咲夜自身、本来の目的を忘れていないか不安になるがこのはしゃぎ様ならしばらくはこの場所にいることになるだろう。
俺は適当に座れそうな場所に腰を下ろすと鞄の中に入れておいた赤いラベルの缶ジュースを取り出す。缶はまだ少し冷たかった。
栓を抜くとプシューと炭酸が抜ける音がした。と同時にさっきまで景色に夢中だった咲夜がこちらに振り返った。
そして俺の手にある赤いラベルの缶を見るなり獲物を見つけた肉食動物のような目をして飛びかかってきた。
「コータばっかずるい!私の分は!」
まるで子供のように駄々をこねる咲夜は先程とは違い確実にあざとい。
「知るか!これは俺の分だ!」
すると咲夜はプクーと頬を膨らませると
「じゃあ1口頂戴よ!」
「ふざけんな!毎回毎回1口1口言ってお前結局全部貰うじゃねえか!」
「む、今回は守るもん!だから1口!」
「信じられるか!」
とくだらない口論をしていると
「楽しそうですね」
後ろから聞いたことのある声が聞こえた。
見ると白いワンピースに黒い上着と麦わら帽子を身につけ、その純白の髪と紅い瞳は忘れるはずもない。
「真白…さん」
彼女は笑顔を見せ、
「真白でいいですよ。昨日ぶりですね、幸多郎くん。」
そんなやり取りを咲夜が敵意剥き出しの視線で見ていることに俺は気づいていなかった。




