『君の知らない想い』
「今日のは自信作なんだ。何せね、昨日…」
黒崎真白か…。
あの後、行くところがあると去った彼女を見送ってからというもの彼女のことばかり考えていた。食事も満足に喉を通らず、夢に現れることはなかったがあの純白の長い髪と紅色の瞳が頭から離れずその美しさは…
「コータ!」
突然、いつの間にか目の前にいた咲夜が大声を出した。
「うわっ!なんだ咲夜。いつからそこにいたんだ?」
すると呆れた様子で咲夜は壁に取り付けられた丸時計を指で差した。
見ると時計の針は『12時30分』を差していた。
「もうお昼だよ…」
小さく咲夜は溜息をついて前の席に座った。
そして真剣な顔と眼差しで
「今日のコータおかしいよ?なんかあったの?私で良ければ相談に乗るよ。」
普段は明るく元気に振る舞い、周囲を笑顔する咲夜が偶にするこの表情。思わず噴き出してしまった。
「お前はいつも鋭いな。」
そういうと咲夜は笑顔になり、
「だって小さい頃から一緒にいたから」
昔からそうだった。咲夜は俺が傷ついたり、落ち込んでいたりすると真っ先に気がついてどうしたの?何があったの?私で良ければ力になるよ、といつもそう言ってくれた。咲夜のその言葉が存在が、何度折れそうな心を支えてくれたかわからない。
「それじゃあ、いつものように」
「話してくれる?」
「ああ。」
そう言って俺は話し出した。
「どうしたんだ…?アイツ?」
日が沈みはじめオレンジ色に染まった帰り道、俺は咲夜のことを考えていた。
昨日起こったこと、咲夜と別れた後あまりの暑さに耐えきれず凌げる場所を探していると木々に覆われた石作りの階段が見え近づくと心地良い冷たさで近くから水の流れる音がし、登っていくと光が見えて走り抜けると見たこともない風景が広がっていたこと、そこで純白の長髪な紅い瞳を持つ白い肌の美しい女性―黒崎真白にあったこと、それからというもの真白のことを忘れられないことを咲夜に話した。
それからだった。咲夜は
「そう…なんだ」
と力のない声でいうとふらふらと席を立ち教室を出ていった。
そのさい隣の席の男子が、破局だ!破局!ざまぁみやがれ腐れリア充が!などとほざいていたがそんなことはどうでもいい。
あの時の咲夜の顔は今まで見たことなかった。ひどく泣きそうな顔、ひどく虚しさの溢れた表情、どう表せばいいかわからないが複雑な表情をしていたのは分かった。
何か傷つけるようなことを言ってしまっただろうか?もしそうならば謝らなければならないな、と思っていると後ろから地面を靴が勢いよく蹴る音と呼び止める声が聞こえてきた。
振り向くと制服を少し着崩した咲夜は走って来ていた。
「こ、コータ…ま、待ってぇ…」
ぜーぜーと荒い息遣いで目の前に膝に手を当てうなだれるた咲夜に手に持っていたペットボトルの飲料水を差し出す。
「ほら水だ。飲め。」
咲夜はありがとうと言って受け取るとフタを開け勢いよく流し込みあっという間に飲み干した。
「ありがとう、コータ」
そう言って咲夜は空になったペットボトルを鞄にしまおうとしてハッと気が付いた表情になってバッとこちらを見た。その頬はほのかに赤くなっていて突然こんなことをいいだした。
「こ、コータ。この水ってもしかしてさっきまでコータが口つけて飲んでたやつ?」
俺は小さく頷いた。
すると咲夜は両手で真っ赤な顔を隠すようにしながら悶えブツブツと独り言をいい出した。
大体どういう訳で咲夜がこのようになっているかは分かってはいるがとりあえず
「それで何でどうして俺を追いかけて来たんだ?」
すると咲夜はポカーンとした表情になったと思ったら何かを思い出すと突然真剣な眼差しで迫ってきた。
かなり近い距離まで詰め寄られ彼女の息遣いが肌に触れる度にくすぐったい感覚になる。同時に、二の腕に押し付けれられた柔らかな感触が俺の思考を妨げた。速くなっていく心臓の鼓動が咲夜に聞こえていないか心配になったがいまの状況を切り抜けることを優先した。
「と、とりあえず咲夜。暑苦しいから離れてくれると助かる。」
そういうと咲夜は気づいていなかったと言わんばかりにあっ、と間の抜ける声をだして俺を解放した。
「ごめん…」
小さな声で謝る咲夜を見てやはり彼女らしくないなと思った。
話を戻そうと思い先程の質問をもう一度言った。
「もう一度聞くけど咲夜、何で俺を追いかけてきたんだ?」
しゅんと項垂れていた咲夜は背筋を伸ばして1度深呼吸をした。そうやって気持ちを落ちつかせると真剣な表情でこちらをみて
「昨日あったってひと、黒崎…真白さんだっけ?白い髪に紅い目のした?」
「ああ、そうだけど…」
その返事を聞くと今度は俺の肩を掴み顔近づけると
「私を、その人に会わせて!」
と決意に満ちた表情でそう言った。