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第九十六話 ドワーフ洞窟

「俺たちドワーフは、種族が興ったときから鍛冶屋を生業にしていてな。砂漠の鉱脈から掘ってきた石を精錬して、武具や工芸品なんかを作ってる。昔は砂漠の端に港があって、そこに色んな大陸の商人が買い付けにやってきたもんだ。別の大陸に招かれたドワーフもいるんだぜ」


 坑道を元にしたという、蟻の巣のようなドワーフの洞窟を案内しながら、ドルドは自分たちをそう説明した。


 彼の肩には、ワラ袋でも乗せるみたいに、気絶したアルルカがぞんざいに担がれている。

 オヤジさん、スカートの裾がちょっと際どいんですが。


「前は地上で暮らしてたんだが、砂から出てきたバケモノどもに町を追われて、ご先祖様が散々掘りまくった坑道に落ち延びたってわけだ。とは言え、俺らも作業場にいないときは大抵坑道にいたからな。ちょっと住む場所が変わった程度の認識でしかねえ。それでも、やっぱり太陽の下で暮らしたいってヤツがほとんどだ。地上も、俺たちのご先祖様が守ってきた大事な土地だしな」


 僕は話を聞きながら、洞窟の壁面を見回した。もう何度目だろう。


 そこには驚きの光景が広がっている。


 地中の様々な混合物が、壁面に奇妙なまだら模様を描いているのだ。

 蛇の鱗のようでもあれば、顕微鏡でのぞいた微生物の群れのようでもあり、その種類は多種多様。すごいのになると、木星やら土星の模様を平らにして張りつけたようなものまである。


 まるで巨大壁画の美術展だ。

 陳腐な言い回しだけど、自然が生み出した芸術とは、こういうのを指すんだろう。


 ていうか、『Ⅱ』のスタッフって、なにげに美術すごい頑張ってなくない……?

 いや、方向性がおかしいだけで、どの分野でもみんな頑張ってはいるのか……?


 しかし……だったらなおさら、アルルカという名前への仕打ちは容認できんぞ。

 またアンチの影響か、と勘繰りたいところだけど、それには若干腑に落ちない点があった。


 確かに、人気キャラであるアルルカは、アンチからバッシングされていた。

 ただしその批判のほとんどは、“死神”としてなのだ。


 情報が前後してしまうため、いきなり“死神”とか言われても何のことだかわからないだろうけど、今はとりあえず、アルルカのドジっ子化とアンチの批判がイコールで結ばれない謎だけ理解してもらいたい。


 だとしたら、これは純粋なスタッフの意向ということになるが……。

 どういうことなんだよ……。


「地下は案外涼しいんですね」


 不意に、隣を歩くリーンフィリア様が言った。僕の意識は現実世界に引き戻される。


「砂漠がクソ暑いのは直射日光のせいだからな。洞窟も場所によっちゃあかなり暑くなるが、ここいらは朝も夜も同じ気温だ」

「ボクにはまだちょっと暑いけどね。でもそれなら、ドワーフも快適な地下に潜ってる方がいいんじゃないの? あんな暑い場所じゃとても暮らせないよ。砂嵐もひどいし」


 帽子のつばで自分を扇ぐマルネリアが言うと、ドルドは大笑いし、


「エルフのヤワな肌じゃそうだろうよ。だが、俺たちにとっちゃ、地上の暑さこそが何より懐かしいのさ。ここはちいと肌寒くすらあるぜ」


 言って、ごつごつした腕をさすってみせる。


 どうやら、ドワーフは砂漠に適応した……というか、超克してしまった種族のようだ。デザートクラブのハサミを防ぐ筋肉なら、あの刃のようなシムーンもやり過ごせるのだろう。


「親方、ご苦労様。おや、そっちは女神様たちかい!?」


 ちょうど、横穴から出てきた一人のドワーフとはちあった。


 女性だ。


「…………!」


 この洞窟に入る前、僕には一つ、イヤな予感があった。


 若いうちは美少年で、成人すると筋肉達磨になるというドワーフの男性。

 では女性はどうなのか?

 女性もなのか? マッスルしてしまうのか?


 見た目だけはまともな思い出ブレイカー兼ポンコツ軍用ドジっ子メガネも(属性過多)、やがてそのように?


 その答えは、出会った女ドワーフが持っていた。


 一目でわかるのは、彼女が長身のすらっとした美女だということ。

 人間で言えば三十は超えてそうだったけど、若者にはない落ち着きと、さばさばした気っぷの良さが感じ取れた。

 剥き出しの肩、膝から下には確かに筋肉がついているものの、あくまでシャープなシルエットは崩さない。


 オスとはまるで別の美しい生き物。

 まさか、しかし、よかった!


「女神様とその御一行、あたしたちの土地を解放してくれてどうもありがとう。狭苦しいとこだけど、ゆっくりしてってくれね」


 ドワーフの女性が、少し荒いけど、はきはきとした気持ちのいい声で言った。僕らも笑顔でうなずく。


「ダンダーナ・ドワフスか。ちょうどいいぜ。このドジを預かってくれるか。目を覚ますまででいい」

「ありゃ、アルルカ・アマンカ。またこの子爆発したのかい。可哀想に。もちろんいいけど、イグナイトは持ってないだろうね。せっかく作ったティーカップを吹っ飛ばされたらたまんないよ」

「ああ、取り上げてあるよ」


 ドルドが懐におさめた光り輝くイグナイトを提示すると、ダンダーナという女性は笑顔でアルルカを受け取った。

 その表情も、しばらく目に残りそうなほど綺麗だった。


 よ、よし、変なオチはつかなかった! 完璧だ!


「綺麗な、人、だった、ね。騎士様、見とれて……た?」


 アルルカを預け、再び洞窟を歩き出すと、パスティスが、僕の手首にしゅるしゅると尻尾を巻きつけながら言った。


 えっ。そのセリフはわかるけど、この尻尾は何……?

 的確に手首の血管を押さえてるような気がするのですが?


 僕の焦りなど知らない様子で、ドルドが横から言葉を拾い、


「だろう? ドワーフの女はみな器量よしなんだ。服装もセンスいいしな。昔は、エルフと並んで美男美女揃いで知られてたんだぜ。まあ、エルフに男はいねえがな」


 エリックのようなイケメンを見ればうなずける内容だ。それがどうして、男だけ筋肉達磨になってしまったのか?


「ドワーフの歴史のどこかで強大な敵が現れ、男達はそれに対抗する戦士になるために戦の神にお願いし、自らの体を作り替えたのだと言われています」


 神であるリーンフィリア様がそう解説してくれた。

 なるほど。いわば生存戦略の中で手に入れたものなのか。

 男だけが変態(生物学的意味で!)し、女性があのままなのも腑に落ちた。

 興味が湧いて少し質問を加える。


「何て言う神様なの?」

「ボルフォーレだ。この土地の守り神でもあるんだぜ」


 ああ、つまりあのドワーフたちの「ボッホーレ」っていうウォークライは、神様への感謝の呼び声なわけか。


「会ったことのある神様ですか?」


 リーンフィリア様に聞いてみると、


「えっ。て、天界は広いので、直接会ったことは……」


 ごにょごにょ言いながら下を向いてしまった。

 し、しまった……。リーンフィリア様は天界でハブられてるんだった……。

 ごめんなさい……。


「ついたぜ。ここが俺んちだ」


 洞窟内の各部屋に扉はなく、粗末な衝立が置かれているだけで、表札らしきものもない。人を捜すときは大声で呼べば、だいたい洞窟の奥まで届くという。


 間取りはリビングと台所、それと個室が二つ。

 壁から削りだした階段が上へと伸びているのが見えた。


 リビングにあるテーブルも、床を削って作られ、オシャレな掘りゴタツのようになっていた。

 なるほど、これなら椅子を作る手間が省けるわけか。


 あと、ところどころに、人が入れるくらいの溝が掘ってあるけど、あれは何だろう? もの入れか何かか?


「ごたごたしてて茶も出せねえが、勘弁してくれ」


 とドルドは一言断ってから、みなを座らせた。


「話ってのは他でもねえ。町作りのことだ」


 そう切り出され、僕らはわずかに前傾姿勢になる。


「俺たちの本来の住処は、こんな南の端じゃなく、砂漠の西の海沿いにあったんだ。どうにかして帰りたい。あのあたりには、他の坑道に隠れた同胞たちもいるはずだしな。だが、ここにいる全員でそこまで旅するっていうのは、なかなかに厄介だ。俺たちは頑丈でも、女子供はやわっこい。だから町を作って、補給線を維持しながらたどり着くっていうのが妥当なとこだ。しかし見たろ。あのバケモノどもを」


 ドルドは、テーブルに置いた石くれのような拳を固めた。


「ヤツらは時を選ばねえ。どこからともなく突然現れる。俺たちが戦いでやられるってことはまずねえが、女子供や脆いテントを完全に守り切るのは至難の業だ。だから、知恵を貸してほしいんだ。力仕事は俺たちが何でもするからよ」

「わかりました。考えてみましょう」

「本当かよありがてえ!!」

「ぴいっ」


 ドワーフの大声が衝撃波となって襲い、リーンフィリア様を飛び跳ねさせる。


「俺たちは武具の作成は得意なんだが、それ以外はどうも苦手でな。ま、一応、頭を使えそうなヤツが、いるにはいるんだがな……」


 神様を怯えさせていることも知らず、ドルドが、ヒゲと頬を同時にぼりぼりかいたときだった。


「父さん」


 衝立をよけ、ケープの裾で風を切るようにして一人の少女が部屋に入ってくる。

 見た目だけは凛々しい、軍人風少女のアルルカだった。


「おう、目が覚めたのかよ」


 と言うドルドに対し、彼女はケープの内側から、細い腕を突き出した。


「イグナイトを返して」


 ドルドは眉一つ動かさず、


「おいアルルカ。おまえまだ、あんなヘンテコなもん作るつもりか?」

「ヘンテコじゃない。わたしの考案した超兵器が実用化した暁には、砂漠のバケモノなんかあっという間に叩いてみせる」


 眼鏡の奥の、切れ長の目が鋭く光った。逆にドルドは鈍い顔つきで、溜息をつく。


「何が超兵器だ。まともな剣の一振りも作れねえくせに。いや、その前に剣の鍛錬すらしてねえだろ。何だそのなまっちょろい腕は。武器の扱い方も知らねえヤツに、良い武器を作ることはできねえ。わかってんのか?」

「父さんこそ、わたしの発明のロマンがわかってない。ロマンを忘れたドワーフなんて、ただのヒゲの塊だ!」

「ドワーフはみんなヒゲの塊だろうが!?」


 突然始まってしまった親子ゲンカにポカンとするしかない僕ら。

 その後もヒゲだの縮れ毛だのと、不毛(毛むくじゃらだけど)な言い争いが低レベルで続き、とうとう、アルルカがイグナイトを無理矢理ひったくるまで発展した。

 ドルドは抵抗しなかった。


「もういい、父さんのヒゲ! 話すだけ無駄だ! 女神様たち、上に来てくれ! 見てほしいものがある。この町を守るためにきっと役に立つはずだ」


 肩を怒らせたアルルカがそう呼びかけて、リビングの横に作られた石段を駆け上がっていった。その直前、僕らに向けられた目は、ちょっと不安そうだった。

 確かに、ここで無視されれば、彼女の立場は完全になくなってしまう。


 僕らが目線でドルドの反応をうかがうと、彼は小声で、


「一度聞いてやってくれねえか。片親なせいか、くそ頑固なとこが完全にうつっちまった。バカか天才かはわからねえが、あいつは俺たちじゃ考えつかないようなことを考えやがる。成果は出ねえし、いつも爆発するしで、ちいと仲間内からは浮き気味だがよ。でも、もしかしたら、作戦のヒントくらいにはなるかもしれねえ」


 声が荒っぽいせいで誤解しそうだけど、ドルドはしっかり娘を気遣っているようだった。彼にうなずき返すと、僕らは揃って、階段途中で待つアルルカを追いかけた。


ドワーフ女性が鬼マッチョ化しても誰も喜ばないと思ったし作者も喜ばない

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― 新着の感想 ―
[一言] エルフがオール♀だったんだからドワーフがオール♂でも全然かまわないんだが? スタッフがビジュアル頑張ってるのはきっと何かアンチに言われたからに違いない……
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