第八話 僕に響く謎の声
『リジェネシス』は荒廃した世界を舞台とした物語だ。
主人公が降り立つ地には、かつて住んでいた人々の名残、命の残滓が、そこここに散らばっている。
探索は、それらを看取り、そして、これから共に歩む命との邂逅の場だった。
と同時に、ステータスを強化するための大切な儀式でもある。
主人公にはレベルという概念がない。
攻撃力は武器依存。HPやMPなどのステータスは、イベントを見ることによって女神への信仰が上がり、それに伴いアップしていく仕様だ。
イベントの中身もよかった。
生き残った人々の今は、決して楽じゃないし、楽しいことばかりでもない。
つらいイベント、悲しいイベントもあった。
けれど、再起を誓う人々はみな強く、格好良かった。代償を支払いながらも困難を乗り越えていく姿に、子供ながら感動し、胸を熱くさせてもらった。
楽しいし、強くもなれる。この仕様を作った人は、間違いなく僕にとっての神だった。
だが……ッ!
この独特の仕様、他と違っているということがいわゆるイジメの原因にもなるように、アンチによる叩きの標的となった……!
ヤツらは言う。
――いちいちイベント見るのがだるい。
――楽に稼ぎができないからクソ。
――マップスカスカじゃん。これならいっそ探索とかできなくていいわ。
生きないでくれ(変化球)。
しかしヤツらの願いは叶ってしまった!
探索はなくなって、決められたルートを進む、完全な別ゲーになってしまった!
しかも探索がないということは、僕はアクションパートでは一切パワーアップできないことになる!
そんなもの……認めるかああああああああ!
「何やってんのよ騎士!? 早く立ち上がってルートに戻って!」
地面にかじりつき、〈ヘルメスの翼〉に抵抗し続ける僕に、アンシェルの怒号が飛ぶ。
「君は僕に、敷かれたレールの上を走れというのか!?」
「え、ええっ!? 何よいきなり! 思春期!?」
「真っ最中だよ! アンシェル、僕はその計画には従わない!」
「バカっ! そんな自分勝手なこと言っていい話じゃないわ。もしバレたら天界からどんなペナルティがあるか……! 早く立ち上がって!〈ヘルメスの翼〉の魔力が切れる!」
「それが狙いだああああ! もし何か言ってくる神がいたら僕に回せ! 噛みつく! こんなふざけたことを考えたヤツにぶっくらわしてやる!」
「やめてよアホーッ!」
大草原の片隅で、僕とアンシェルが叫び合う、その混迷の最中――。
《石の風、鉛の大地……》
「フォアッ!?」
突然、その声は割って入ってきた。
驚きのあまり指の固定が緩くなりかけ、慌てて地面を掴み直す。
《世界は灰色で、祝福を忘れて久しかった……》
「なっ、なっ……何かしゃべってる!? だ、誰だ!?」
「こ、今度は何よお!」
《迫り来る異形を退け、私は戦場を駆ける。それが、女神の騎士であるこの身にできる唯一の救世……》
「すごい男くさい美声で何かしゃべってる! アンシェル、これは何だ!? 君のそばに誰かいるのか!?」
「えっえっ……し、知らないわよ。いきなり変なこと言わないでよ。美声って何のこと? わたしには何も聞こえないわよ!?」
アンシェルには聞こえていない……?
じゃあ僕だけに聞こえているのか?
それにちょっと待て。
今この美声、女神の騎士であるこの身、って言わなかったか……!?
「も、もしもし!? あなたは誰ですか!?」
地面に食らいつきながら、僕は誰何する。
しかし返ってきたのは、
《優しい草原の揺らめき、柔らかな太陽の日差し、賑やかな人々の声、すべてを取り戻すため、私は戦う》
こちらの言葉など聞こえていないような独白だった。
ちょっと……待て……!
僕だけに聞こえる声、女神の騎士を名乗る、異形と戦う……これらのことを総合して考えると……!
これ……もしかして、主人公の台詞か……!?
『Ⅱ』の主人公は台詞がある上に、声までついてるのか……!?
コツ――。
ぐっ……! 価値観ボタン……!
僕は目の前に置かれた二種のボタンをにらみつけ、払いのける。
【プレイヤーの分身からの卒業:ノージャッジ】(累計ポイント-42000)
それは……噛みつくべき変更じゃない。
たしかに、『リジェネシス』はプレイヤーを主人公とし、性格付けらしいものもなければ、質問の返事も〝はい〟か〝いいえ〟しかなかった。細部をプレイヤーに想像させるための意図的な措置――。そこに製作側の意図を感じ、僕もロールプレイを享受した。
次回作でそれが覆る――。これは賛否両論ものだ。
原理主義者なら断じて許せないだろう!
でも大事なのは、どちらにも楽しみ方はあるということ!
プレイヤーの分身なら一体感を、キャラクターを持つのなら追体験を、味わうだけだ!
この新要素は『リジェネシス』の根幹を傷つけてはいない!
《〈ヘルメスの翼〉が私を戦場の最奥へと運んでくれた。……見つけた。ヤツを倒せば、この石のように冷え切った風にも、少しはぬくもりが戻るだろう》
でもこの台詞、あんまり僕の現状を反映してねえな!?
別撮りした音声が、映像とずれてるみたいになってる。
それに今の台詞、なんかもうボスまで到達したみたいな言い回しだぞ!?
どうなってるんだ!
《ダメだ。勝てない。私の戦いもこれまでか……》
ちょ、おおおい!?
もう負けたの!? 主人公っていうか僕負けたの!?
《女神よ、もう一度、私に戦う力を!》
コ、コンテニューした……? よかっ……たのか……?
主人公の声にいちいち反応して、やがて、気づく。
「あ、〈ヘルメスの翼〉の魔力、切れてる……」
いつの間にか、僕は自由になっていた。
主人公の声(CV: )