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第七十七話 まな板と果実の威力

「右の方で数字の70と合流、左で40と合流、中央で50と……あっ、左で、こ、今度は右で、ああ、もう、とにかくすごい勢いでエルフたちが合流中よ!」


 羽根飾りから、嘆いてるんだか喜んでいるんだかよくわからないアンシェルの叫びが聞こえてきていた。

 この火の粉が舞い散る鉄火場で、救助は順調に進んでいるようだ。


 僕とパスティスは竜に乗り、空から、助け損ねたエルフがいないかどうかを確認していた。

 ここまでのところ、発見者はゼロ。貧乳エルフたちはものすごく頑張ってくれているようだ。


 しかし……。


 あのメルヘンのように愛らしかった里は、無惨な廃墟へ変わろうとしていた。

 リートレスたちは、もののついでのように、巨乳エルフたちが使っていた大樹のアパートを破壊していた。


 火の手が上がっているところもある。

 黒煙と火の粉が霧を追いやり、朧だった里の風景に極彩色を運び込んでくる。


 これが、町を襲撃されるということ。

 俯瞰画面で表示される、ゲームのワンシーンなんかじゃない。

 現実だ。

 もし、何の希望もなくこの光景を突きつけられていたら、正気じゃいられなかっただろう。


 キュー、キリキリ……。


「騎士様。このへんに、エルフたちは、もういないって……」


 ディバの声を、パスティスが尻尾を介して翻訳してくれた。


「よし、奥へ行こう。もうじきメディーナたちの家があるはずだ」


 急行すると、以前招待されたメディーナたちのお屋敷は、無数の蟻に取りつかれたお菓子の家になっていた。


 リートレスたちは窓も壁も見境なく攻撃しており、その大部分に破損の兆しが見えていた。

 入り口のところに、リートレスと戦うマギアたちの姿があった。敵の数が多すぎてなかなか屋敷に近づけないでいる。


「加勢する。パスティス、行ける?」

「うん……。ちゃんと、休んだから」


 ガアアアアアアアアアオ!


 リートレスの群れのど真ん中にアディンたち三竜が飛び込み、その重量に巻き込んで十数体を圧殺した。衝撃と風圧でよろめいた残りを、尻尾と爪を振りかざして丁寧に掃き掃除する。


 あっという間に周囲に空間が生じた。


 僕に先んじて竜の背中から飛び出したパスティスを目で追えた者はわずかだった。

 黒い残像の中に引かれた爪と尻尾の軌跡が、リートレスたちの体を情け容赦なく通過していく。彼女が群れの端まで吹っ飛ぶように到達した後、自分が死んだことを思い出したかのように、リートレスの破裂が連鎖した。


「よし! 僕も……って、何ィ!?」


 最後に斬り込んだ僕には、盛大なお出迎えが待っていた。


 竜とそのカーチャンの奇襲による一瞬の混迷から立ち直ったリートレスが、濁流のごとく押し寄せたのだ。一太刀でキルカウントが五は増えるような大混戦に飲み込まれ、逆転サヨナラホームランを打ったバッター並に周囲からバシバシぶっ叩かれるけど、ルーン文字のおかげでダメージは皆無だった。この防御力を盾にごり押ししない手はない。とにかくぶった斬ればいずれ敵はいなくなる!


「騎士様が囮になってくれたぞ、今だ!」


 僕に殺到したリートレスの背後から、荒ぶる貧乳エルフたちが飛びかかった。

 背後は軍勢にとってもっとも弱い部分。メディーナの屋敷の前からリートレスが姿を消したのは、それからすぐのことだった。


「メディーナ、無事か!?」


 マギアがひしゃげて固定された扉を蹴破って中に飛び込む。


「きゃあっ。来ないで!」


 が、中から可愛い悲鳴が聞こえたと思ったら、どういうわけかマギアが外に転がり出てくる。


 首を傾げる間もなく、鳥のような形をした無数の火が、ヒッチコック映画ばりの勢いで飛び出してきた。飛来した鳥たちは、近くの木々に衝突し、ぞっとするほどの炎を吹き上げて破裂していく。


「な、何だ!?」


 屋敷の正面を全焼させる惨事に僕があげた悲鳴は、間一髪で火の鳥の襲来をよけたマギアの怒声によってかき消された。


「バカメディーナ! いきなり攻撃魔法をぶっ放すヤツがあるか! そもそも、ヤツらに魔法は効かないのになぜ撃った!」

「マギア……?」


 ふらふらと屋敷の戸口に現れるメディーナ。手には火の粉が残る杖を持ち、いささか憔悴した様子ではあったけど、ケガはしていないようだ。


「マギア……。怖かった。怖かったよ~」

『!?』


 メディーナは涙目になると、いきなりマギアに飛びついて頬ずりを始めた。

 えっ……。これは……?


「敵に魔法が通じなくなるわ、障壁はすごい勢いで削られるわ……。マギアがくれた樹鉱石がなかったら危なかったんだから~」

「なっ、何いきなり抱きついてるんだ! は、離せ、みんな見てるだろ!」

「ハッ!」


 みながぽかんとするのを見てメディーナは我に返り、キリッと姿勢を正した。


「わたしが里長です」


 ウソだろ、ここから立て直すつもりなのか!?


「お願い、みんなには内緒にしてください……」


 泣き崩れた! やはり無理だった!


「な、泣くなこら! 誰にも言わないから! みんなも今のは忘れろ! ちょっとした幻を見たんだ! いいな!?」


 マギアが必死にかばうので、僕らは生暖かい笑顔でうなずいた。


「と、とにかく助けに来たぞ! 今、みなで手分けしておまえの里を回っているところだ。もう大部分のエルフたちは助けたはずだ。この付近には他に誰かいるか?」

「南側の避難棟は? あそこに大勢が避難しているはずです」

「そこはまだだ。案内しろ!」

「ええ!」


 メディーナに先導されて、僕らは避難棟へと向かった。

 巨乳エルフたちは、障壁を設けた後、万一の侵入に備えて、特に頑丈な樹の建物に集まって生活していたようだ。これが、マギアたちが最大効率で彼女たちを救出できた一番の理由だった。


 避難所は、避難する側ではなく、助ける側にもメリットがあったのだ。考えてみれば当たり前だけど!


 メディーナは防御障壁の管理の都合で、一人屋敷に残っていたらしい。

 さっきのアレはちょっと驚いたけど、この切迫した事態に一人きりでいるのは確かにツラい。彼女のあの子供じみた醜態は、誰にも話さず胸にしまっておくべきだ。


「あそこですマギア――!?」


 言ったメディーナがすぐ言葉に詰まった。

 大樹のアパートに、巨影が張りついている。


 リートレスじゃない。中型のゴーレムらしきものだ。

 いまいちはっきりしないのは、その人型の全身に、リートレスたちがフジツボのようにびっしりくっついているからだった。


 ゴーレムがアパートを強打する。樹が震え、分厚い壁の奥から悲鳴らしき声が聞こえた。


「でかければいいってものじゃない! 何事もな!」


 マギアがゴーレムに向かって駆け出した。


魔士駆マジカル穿狼弾せんろうだん!」


 アパートの壁を叩く腕を狙い、引き絞った拳を一直線に突き出す。


 持ってる槍は何かって? あれは指揮棒の一種らしく、戦闘には使わないそうだ。


 ガィン!


 !!?


 硬質の音と共に、マギアの拳が弾かれた。

 貧乳の里で散々聞かされ、トラウマになりかけている音だ。でも、どうして――!?


「あのゴーレム、腕に物理防御型のリートレスを張りつけているぞ! こしゃくな真似を!」


 うわ、ここに来てそういうのが来るのか!?


「メディーナ。おまえの魔法で何とかしろ! おい何でニヤニヤしてる!?」

「マギアかっこいいなあって……」

「おまえ今すぐ里長辞めるか!?」


 いかん。マギアと会ってからメディーナがおかしすぎる。これは文通している最中に確実に何かありましたね……。手紙の中身は当然見てないからわからないけど。


「大丈夫。任せて」


 マギアに怒鳴りつけられてもちっともこたえていないメディーナが前に出る。


「シャランラー」


 踊るようにして魔法の杖を振る。杖の先端から星屑が溢れ、彼女の周囲を彩った。

 何かメルヘンチックですごく弱そうなんだけど――。


 ピッ。


 えっ。


 一瞬だった。


 メディーナのまわりに瞬いた星屑がすべて細い線となり、ぶわっと広がる。一瞬、里を巻く炎が翳るほどの光量が周囲を照らした。


 直後、拡散した光線は、あらゆる角度からゴーレムに向かって集束し、紙切れを貫くように両腕を撃ち抜いていた。


 一拍遅れ、轟音と共に弾け飛ぶ両腕。その破片の中に、リートレスたちの姿も飲まれていく。


 凶悪すぎィ!


「胴体部分は、魔法が通用しない個体のようね。マギア、お願い」

「ああ、これで終わりだ!」


 側転とバック宙によって勢いをつけたマギアが放った膝蹴り「魔士駆大牙弐威」によって胴体に巨大なクレーターを穿たれたゴーレムは、へし折られた上半身が崩落して枝の下へと落ちていき、続いて下半身もゆるやかな自壊を始めた。


 …………。


 マジに、エルフ同士で戦略SLGやらないでいてよかったねえ僕……。

 穏便にすますどころか、この土地が世界地図から消えかねないわ。


 まばらに残った敵も、ほどなくして貧乳エルフたちによって一掃される。

 ここに、二つの里を同時に襲った脅威は、完全に排除されることとなったのだ!


つるぺた「マジカルタイガーニー!」

はげ「タイガー・ニー!」

けつ「タイヤーキー!」

すこっぷ「タイラーニー!」

ぼく「!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公メイン盾来た! 黄金の鉄の塊で出来ているナイトがリートレスに遅れをとるはずは無い
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