第七話 はじまる戦場のコレジャナイ
【アクションパート】
天界から地上に降りて戦うパートです。
マップ画面の「!」マークがついた敵を倒すとクリアとなります。
バトルフィールドには武器や、主人公の能力をアップさせるアイテム、イベントなどが隠されています。
隅々まで探索してみましょう!
(『リジェネシス』取扱説明書より)
※
「じゃあ、行ってきます」
「が、頑張ってください……!」
「サポートは任せて」
僕はリーンフィリア様の神殿から躊躇なく飛び降りた。
目の前に迫った雲海へ沈むと、暗くなった視界を意識する間もなく底を突き抜け、次の雲海、さらにその次の雲層へと潜り込んでいく。
パラシュートも装備していない鉄の塊では、この先に待つのは墜落死だけだ。
一瞬よぎった原始的な恐怖を、頭のすぐよこから聞こえてきた声がかき消した。
「到着後はすぐに戦闘になるわ。アンサラーの準備を忘れないで」
「了解」
アンシェルの声だ。
兜の横に取り付けた羽根飾りが、彼女の指示を伝えてくれる。
最後の雲を突き抜けると、下方に大陸が見えた。
落下地点は、〈ヴァン平原〉と呼ばれる場所だ。
前回の戦闘(多分あれはチュートリアルだった)のバトルフィールドもここ。
いわゆる、エリア一、ということでいいだろう。
「アンサラー!」
「ちょ、ちょっとまだ早いわよ!」
地上までまだ距離がある段階で、僕はアンサラーを実体化させる。
「せっかく銃があるんだ。やらない手はないだろ!?」
僕はまともに狙いもつけないまま、降下ポイントに魔法弾をばらまく。
付近にたむろっていたガーゴイルたちは、突然降り注いだ狂気の牙になすすべもなく砕け散っていった。
高々度からの奇襲! 成功!
「着地する!」
僕はアンシェルに伝えると、落下の勢いそのままに両足を地面へと叩きつけた。
女神の騎士である僕は、常に彼女から守りの祝福を受け続けている。
着地のダメージはない。
けれどもそのエネルギーは消滅したわけじゃなく、ドーム状に広がった衝撃波が、混乱の極地にあったガーゴイルたちを吹き散らした。
その機を逃さず即座に追撃のアンサラー!
弾道は正確無比。目の内側にスコープがあるみたいに、過たずヒットしていく。
衝撃で飛び上がることさえままならなかったガーゴイルの群れは、アクションパート開始三秒で壊滅した。
「よーし、スタート地点確保!」
「えぇ……!? あんた、何でそんなに手慣れてるわけ……?」
アンシェルが半ば呆れたように言った。
「やりたかったんだよ。これ」
「どういう理由よ……」
さて……と。
僕は平原を見渡す。
小高い丘や森、川なんかがあるけど、地形の大部分は平らで、非常に暮らしやすそうな土地だ。
見晴らしがいいせいで、気になる岩場や大樹なんかも一目瞭然。あっちに見えるのは、かつての町の廃墟だろうか。石壁の残骸らしきものがある。
この胸のワクワク感。かつて『Ⅰ』をプレイしたときの鼓動とそっくりだ。
これは探索しがいがあるぞ……!
「騎士! 目標は十一時の方角よ。でも、まずは二時――右斜め前方へ進むわ!」
「……へ?」
「へ? じゃないわよ! 進攻ルートは決められてるんだから、急ぐわよ!」
「えっ、えっ。ちょっと待っ――」
キュウウウウウウウウァァァァァ――
――!? 足下から謎の高音――
ボッッ!
「おおおあああああああっ!?」
突然、僕の体が前にぶっ飛んだ。
「何だっ!? 何が何だああああああああ!?」
凄まじいスピードで体が前に押し出されていく。仰け反りそうになる上体を、腕をばたばたさせて何とか固定すると、あれだけ鮮明だった周囲の景色が、速度のあまり混色している世界に変わった。
「こ、これはっ……!?」
僕は視界の端で溢れる光に目を見張る。
鉄の靴――サバトンの踵の部分から、青白い輝きが小さな翼のように広がって、光の粒子をまき散らしている。こいつが凄まじい推力を生み出しているのだ。
ま、まるでロボットのバーニアだ!?
「アンシェル! 何か変な魔法みたいなのが発動した! 地面を勝手にホバー移動してる!」
僕はナビゲーターの天使に向かって叫んだ。
「それでいいのよ。その〈ヘルメスの翼〉は、天界が指示した出征計画どおりのルートを辿ってくれるわ」
「なっ――」
出征計画? ルート!?
それってどういう――。
聞こうとした僕の視界に、無数の飛行物体が割り込んでくる。
ガーゴイルだ!
「こぉの……ややこしいときにッ……アンサラー!」
僕はアンサラーで迎撃する。
高速戦闘だ。こんなの体験したこともない。
狙いは定まるのか。一発もらったらバランスを崩して大惨事じゃないのか。
様々な懸念が、引っ張られるように後方へ流れていく。
しかし。
気づけば、僕は周囲に群がった五体のガーゴイルを、平時とまったく同じ要領で、難なく撃破していた。
この速さの中だというのに、照準がブレることもない。
弾道が予測と異なることもない。
まるで、これがあらかじめ想定されていた、ごく普通の戦いであるみたいに――。
僕はイヤな予感がして叫んだ。
「アンシェル! アンシェル!!」
「聞こえてるわよ! アンサラーみたいにいちいち呼ばなくていいから!」
「出征計画って何だ!? ルートって!?」
吹きつける突風の中で叫ぶ。鎧に保温機能がなかったらとっくに凍えてた。
「? そのままよ。地上を解放する手順は、あらかじめ天界から指示されてるの。余計なことなんて何もしなくていい。〈ヘルメスの翼〉が進む先にいる敵を、全部やっつければいいってわけ」
「探索は!? 武器探しとか、強化アイテム探しは!?」
「そんなことしてる暇はないわよ。地上での活動時間だって、天界に決められてるんだから――」
なっ……。
なああにいいいいいいいイイイイイイイイイイイイッ!!?
これってつまり、アクションパートの仕様がめちゃくちゃ変わったってこと!?
この高速自動進行での銃撃戦――まるでシューティングゲームじゃないか!
そ、それじゃあ、探索は……!?
アイテム探しや、イベント探しは……!?
は、は、廃止ィィィィ!?
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!
合計二十コレジャナアアアアアアイ!
【アクションパート仕様激変!:20コレジャナァイ(上限)】(累計ポイント-42000)
「ウオ――……アアアアアアアアアアアア!」
僕は全力で体をひねり、地面に、うつ伏せに倒れ込んだ。
「なっ、何してるのよお!」
「うがあああああああ!」
アンシェルの叫びが両耳を貫通する中、地面に指を食い込ませ、〈ヘルメスの翼〉の推進力に抵抗する。
指先が滑って、地面に長い十本の溝を刻んでいった。
ふざっ……けるなああああ!
武器がッ……銃に変わったからか?
それを機に、ゲームのデザインを大幅変更したのか……!?
何を考えているスタッフウウウウウウウウウウウ!?
このゲームの探索は、単なる宝探しじゃない。
コンセプトに、テーマに、ストーリーに、プレイヤー強化に、すべてに通じる行為なんだぞ!?
「それを何してくれてんだああああああああああ!」
「あんたこそ何してくれんのよおおおおおおおおおお!」
二人分の絶叫を引きずりながら、僕の体は草原をがりがりと削っていく。
2Dでも3Dでも、探索はアクションRPGの華。
もうマップを隅々まで歩く根性がないのが困り所ですが・・・