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第六十四話〈原初大魔法〉

「あの悪魔の目的? そりゃボクをズタボロの死体にして、巨乳の里に投げ込むことだよ」


 それぞれの手当が終わってから、僕らはリーンフィリア様の小屋に集合し、状況を整理することにした。

 この会議には里長であるミリオにも加わってもらっている。


 真っ先に確認すべきことは、悪魔サブナクの目的。

 その問いに対してマルネリアが答えた内容はひどく剣呑なものだった。


「何でそんなことすんのよ……」


 アンシェルが強ばった顔でつぶやく。


「そりゃボクも一応巨乳の里出身だから。同胞が殺されたとなれば、巨乳エルフたちは犯人と思しき相手に対して怒り狂うでしょ」

「その、犯人と思しき相手ってのは、貧乳エルフってことになるの?」


 僕の言葉に対し、マルネリアはとろんとした目つきのまま、びっとこちらに両手の人差し指を向けた。やる気のないゲッツ。


「そ。ニクギリにやられたらその場で食べられちゃうし。里の抗争って、直接的な戦闘では、実は死人が出てないの。枝から滑り落ちちゃった人とか、戦闘の最中に迷子になっちゃったりした人が、ごくごく稀にいるだけ。そんな中ボクの死体が出れば、それまで小競り合いだったものが、本気の殺し合いになる」

「その悪魔は、二つの里のさらなる仲違いを狙ったのですね」

「ひどい……」


 リーンフィリア様とミリオも険しい顔になる。


 あの野郎、そんな陰湿なことを考えてやがったのか……。

 この自由すぎるエルフが惨殺される場面を想像し、僕の体温が音もなく低下する。


「聞いた話によると、今、どっちの里も争いを避けるようにしてるんだって? 珍し。前までは、里の境界線でしょっちゅうケンカしてたのに。さすがにちょっとは懲りたのかな?」


 マルネリアの少しトゲのある言い方に、僕は少し面食らった。


「何だか辛辣だね……」

「そだよ、騎士殿。ボク、あの争いがアホらしくて里を出たところあるし。そんなボクを里の戦いの再点火に使おうだなんて、まさに悪魔的な発想だよね。やー、騎士殿には本当に感謝だよ~」


 にじり寄る猫みたいな動きで、マルネリアが僕に近づこうとした、そのとき。


「おふう!?」


 座っている椅子ごとずるっと引き寄せられ、僕は危うく転げ落ちそうになる。

 思わず椅子の脚を見れば、パスティスの尻尾が巻きついていた。引き寄せられたのも、彼女の方向だ。


「…………」


 僕の隣の椅子の上で膝を抱えて座り、小さくなっているパスティスが、拗ねたような顔を向けてきた。


「パ、パスティス……?」

「…………」


 彼女は二色の瞳を自身の膝の上に落とした後、沈黙を貫くばかり。

 な、何だこの態度は……?


「…………!!」


 ミリオも何か閃いた顔するのやめろ。


「二つの里が争ってるのも、その悪魔の仕業なのでしょうか?」


 中断しかかった会議を、リーンフィリア様が再開させた。マルネリアも、パスティスの奇行については特に気にせず、すぐに切り替える。


「いや? 里が争ってるのは、お互いが原因。あの悪魔が現れたのはつい最近。霧が晴れてからだよ」

「なに? じゃあ、サブナクは、二つの里が壊滅したことに関わってないのか?」

「うん。ないよ」


 マルネリアはあっさり答える。

 ヤツは里を滅ぼしていない……。マギアが言っていた“何か”とは別の脅威なのか?

 面倒なヤツめ。


「そういえば、里が壊滅してから、マルネリアは大丈夫だったの?」

「うん。森は広いから。注意してれば危険な動物に会わずに進むなんて簡単だよ。適当に旅をしてたら、そのうちまた霧が晴れて、誰かが森を救いに来たのかなーって思った」

「里の仲間が心配じゃなかったの、あんた……」


 アンシェルが呆れ顔で言うと、マルネリアは平然と、


「ちょっとは心配だったけど、ボク自身迷子だったから。今自分がどこにいるのかとか、さっぱりわかってなかったよ。にゃははは……」


 脱いだ三角帽子を指先でクルクル回すマルネリア。

 目的地も帰る里も気にしなければ、迷子はちっとも怖くないということか。さすがは旅人。大した図太さだ。


 だけど今回ばかりは危機一髪だった。

 もしマルネリアが殺されていたら、ここのエルフたちはルビコン川を越えることになっていただろう。そうなったら、僕らはもうこの土地を救うどころじゃない。


 サブナクは今、もっとも注意すべき存在だ。

 自分からは攻め入らないような発言はしていたけど、他二つのエルフの里にも早急に注意を促した方がいい。


 前回の戦い、マジに森の命運を左右する一大事だったんだな。それなら、確かに僕の敗戦なんて些末事にすぎない。勝負には負けたけど、肝心の試合には勝ったんだ。


 それにしても、〈ヴァン平原〉に続きこのエリアにも悪魔がいて、さらに悪魔の兵器を引き連れている。

〈契約の悪魔〉と繋がりがあるのは、ほぼ間違いないだろう。


 やっぱり、地上を滅ぼしたのは今回もあいつなのだろうか……。


「あ、そーだ、騎士殿! 助けてもらうのとは別のことでさあ、ボク、騎士殿に会いたくて会いたくてしょうがなかったんだ!」


 マルネリアが突然席を立ち、僕へと接近する――。


「――ほがあ!」


 ずずずっ! とまた椅子がさらに引っ張られ、僕とパスティスは、狭いラーメン屋のカウンター席並の距離になる。


「んあ? パスティス何やってんの?」

「……騎士、様に、何か、用……なの?」


 ぼんやりした顔のマルネリアに、パスティスが警戒するようにたずねる。

 緊張感で空気が凍りついていく。何これ……?

 が、マルネリアは気にした様子もなく、コートのポケットから紙切れを取り出した。


「騎士殿、ボクの小屋にこれ置いていったでしょ」


 見覚えがある。以前、僕が小屋に残していった書き置きだ。


「あ、うん。〈古の模様〉と、石版のカケラについて聞こうと思ったんだ」

「その石版、見せて!」


 僕が現物を手渡すと、マルネリアはそれを手のひらに載せ、ためつすがめつ、色んな角度から観察し始めた。


「ん、ん……。この記述……。末尾が変形してるけど……。あ、それでこっちも変化? そっか。そっか……。へえ、そうなるんだ……ああ……すご……。騎士殿、これすごいよ」

「そうなの?」

「何なの、それ。わたしも、リーンフィリア様も知らないんだけど」


 アンシェルが問いかける。


「あれ、神様も知らないんだ? おかしいなあ。これ多分、〈原初大魔法〉の魔法式だと思うんだけど」


〈原初大魔法〉……?

 僕らは顔を見合わせる。怪訝そうな表情から、誰一人思い当たる節がなさそうだ。


「マルネリア。その、〈原初大魔法〉というのは……?」


 と、リーンフィリア様が聞くと、マルネリアはぴくりと眉を動かし、


「あ、聞きたい? じゃあ、ちょっとだけ聞いてもらっちゃおうかなあ」


 うきうきと話し始めた。これまで、どうにも寝ぼけているようだった彼女が、初めてシャンとした瞬間だった。


「ここにさ、二つの魔法があったとするよ。一つは、傷を治す魔法。もう一つは、傷と毒を同時に癒す魔法。これって、傷と毒を両方癒す魔法の方が先にあったんだ」

「そこから傷を治す魔法式だけ引き抜いたってこと?」


 アンシェルが口を挟む。魔法は彼女の分野でもある。


「そう。毒にかかってないのに、傷と毒を一緒に治す魔法なんていちいち使う必要ないでしょ? そうやって分けることで、手間は減るし、消費する魔力もすごく小さくなるんだ。便宜上、分かれる前の魔法を〈上位魔法〉。分けられた後の魔法を〈下位魔法〉と呼ぶよ」 僕らが首肯するのを見届けて、魔女は続けた。

「〈上位魔法〉を遡ると、一つの魔法の中にある効果がどんどん増えていく。三つから四つ。四つから五つ……。そして最終的に、ありとあらゆる効果を持った究極の魔法にたどり着く。それこそ、世界で最初に作られた魔法。〈原初大魔法〉。これがボクの立てた仮説さ」


「何が起こるの、それ」


 僕の質問に、マルネリアはあっさりと、


「何も起こらないよ」

「ええ……?」


「〈原初大魔法〉は万能。すべてを破壊すると同時に、すべてを修復するんだよ。だから何も起こらず、莫大な魔力だけが消費される」

「それに何の意味があるんだ……?」

「何の意味もないよ。だから魔法を分けたんだよ。まず、〈原初大魔法〉から〈原初破壊魔法〉と〈原初回復魔法〉という〈下位魔法〉が生まれた。んで、この二つの系統から、様々な魔法が分化していって、今の地上の魔法となったわけ」


 そういうことか。


 生物の進化は、時代が後になればなるほど複雑化していった。

 でも魔法はその逆で、どんどんシンプルになっていった、という話なわけだ。


「効果があるものなら、その二つが頂点ってわけだね……。それで、その石版のカケラに書かれてるのがその〈原初大魔法〉なの?」

「だと思うんだ」


 魔女はコートの内ポケットから何かを取り出し、机に置いた。

 僕が見つけた石版のかけらとそっくりのものだった。


「見てこれ。ボクのも、騎士殿のも、縦に割れてるから横の繋がりはほとんどわからないけど、少なくとも五行分の式の記述があるでしょ。現代の細分化された魔法の式を記すなら、長くても八文字分くらいで済むんだよ。わざわざ幅が全然ない石に文字を刻むなんて思えないし、こんなに長いとなると、ボクは〈原初大魔法〉の式しかないと思う」

「神様的にはどうなんですか? そういう魔法があると?」


 僕はリーンフィリア様に確認する。世界でもっとも古い魔法なら、天界に住む人々が知らないはずがない。


「ええと、わたしは……知らないです」


 彼女は申し訳なさそうに言った。

 じゃあ、マルネリアには悪いけど、この仮説は誤りか……?


「でも、天界には一部の神様しかふれることが許されない情報がたくさんあるわ。魔法みたいな力あるものは特に。天使には、天界でも最下位の魔法しか開示されてないしね」


 落胆した空気に反論するようにアンシェルが口を出すと、


「わたしは……所詮ちりとりに集めて捨てられる程度の神ですから……。えへへ……」 

「そ、そういうつもりじゃ……! 女神様は立派にやられてますよ、ほ、ほら、た、た、たいらにい!」


 変なところに被弾して女神様が速攻でヘコんだ。あれだけ頑張ったのに、まだハートはギヤマンだった。


「騎士殿は、この石どこで見つけたの?」

「ここじゃない、人間が住んでる大陸だよ」

「違う大陸にあったんだ……。どうりで他の石版が見つからないわけだ。こりゃあ、ずっとこの森にいてもこの研究は終わらないかなあ……」


 ぶつぶつ言いながら、寝癖だらけの頭を掻くマルネリアに、僕は別の質問を投げかけた。


「〈古の模様〉については? あれも、そのかけらと同じところにあったんだよ」

「あれは何なのかわかんない。すごく古いものだってことだけ。規則性も、際立ってシンボリックなものもないから、本当に単なる模様。でも、人間の大陸にもあったっていうのは気になるな~」


〈古の模様〉については収穫なしか。


 でも、〈原初大魔法〉は気になるワードだ。


『リジェネシス』における魔法という存在は、「火の玉が飛んでって相手をぶっ飛ばす」くらいの簡素な存在でしかなかった。

 神の御技というざっくりした説明でまとめられ、武器スキルの一つにすぎず、世界観の一翼を担うこともない、小さな要素だったのだ。


 不思議なゴッドパウワという、わかりやすさの点ではそれでいいのだけれど、演出面のショボさから、単なる手抜きとの声も大きかった。主にアンチから、以下のように。


 ――あっさ。爽快感って言葉知ってるかー社長?

 ――ショボすぎて燃えるナメクジ飛ばしてるのかと思った。

 ――まず魔法とかいう安直なネーミングがいかんでしょ。クソ寒い独自の中二名称つけた方がはるかにマシ。


 王水飲んで内側から溶けて死ね(猟奇)


 ――はっ、しまった。罵倒が少しマイルドになってしまった……!


 でもしかたない。これについて僕は強く出られないのだ。何しろスタッフが、「魔法の演出については今後の課題です」と直に発言しているのである。一ファンがアンチに反論できない状況なのだ。


 けれども、『Ⅱ』のスタッフは有言実行してくれたと思う。

 武器スキルの一つにすぎなかった攻撃魔法は、聖銃アンサラーという形で独自枠を獲得した。間違いなく世界観の一部となっている。


 もう一度言う。アンサラーはいいんだよ。アンサラーはすごくいい。

 他でコレジャナイのバーゲンセールをやってるのが問題なんだよっ……!


 でも、この〈原初大魔法〉――神様ですら知らない大魔法は、アンサラーと同様に、確実に『Ⅱ』の魔法観を広げる可能性を持っている。

 ステージに散らばる石版のカケラを集めるという要素からすると、隠し要素、あるいは重大な設定があると考えていい? 今後の展開においても、何か大きな役割を果たすような、そんな気がしてならない……! ていうか、なってくれお願いします……!


 廃止された探索パートで見つけたアイテムってのがすっごく気になるけど、それでも……! 僕はこれが大きな秘密を握っていると信じたい!


 スッ。

 コレ!


【シューティングゲームに収集要素があってもいいと思うの:祈りの1コレ】(累計ポイント-15000)


「……? 何、拳を握りしめてるの、騎士?」

「え? あっ、いや、マルネリアの話にはロマンがあるなと思ってね」


 訝しげな顔のアンシェルに慌てて言い訳すると、マルネリアが反応した。


「そう? 騎士殿わかる? 嬉しいなあ。ボクの話、どの里のエルフも聞いてくれなくて寂しかったんだよ。世の中、何でもかんでも進化してるわけじゃなくて、過去にこそ頂点があるって、考えるだけでワクワクするんだ~」

「マルネリア。わかるよ。ゼロ式とか、プロトタイプの方が強い論!」

「わあい。仲間がいたあ~」


 とろけるような笑顔で両手を広げ、マルネリアが抱きつこうとしてきた。

 瞬間。がりがりがり! とけたたましい音を立てて、再び僕の椅子が彼女から急速離脱した。


「ふひえ!?」


 転げ落ちそうになって、みっともなく背もたれにしがみつく。椅子を引っ張ったのはやはりパスティスの尻尾だ。僕はもう、彼女の隣どころか、斜め後ろにまで移動させられていた。


「…………」


 パスティスは、口をへの字にして僕を見てくる。

 今まで見せたことのない表情。な、何が言いたいのでしょうか……?

 だが彼女は何も言わず、すぐに顔を背けてしまう。


「それで、その石版のかけらって、現状で何かの役に立つの?」


 緊迫してるんだかしてないんだかよくわからない状況を打破したのは、アンシェルの言葉だった。


「すべてを破壊するとか、すべてを修復するとか、そんな大それたこと、今のわたしたちには必要ないわよ。ただでさえ怪物みたいな竜が三匹もいるんだから、これ以上危険なものを抱え込んだら、他の神様に何を言われるかわかったもんじゃないわ」

「ああ、うん、それならね」


 マルネリアはあっさり身を翻すと、僕を見て率直に言う。


「騎士殿をグレードアップできるよ」


おや、パスティスの様子が・・・!?


※お知らせ

何だか鼻水が止まらないので、いただいた感想のお返事は明日いたします。すみません・・・。


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― 新着の感想 ―
[一言] シューティングを度外視した戦闘をしているから忘れているかもしれないけど このゲーム戦闘は目的地まで一直線で収集要素は切り捨てられてるんだよ……
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