第五話 剣とスキルのコレジャナイ
地上文明が壊滅した……。
「…………!」
それは、一言で説明するのが不謹慎に思えるような極大規模の悲劇だった。
しかし、また、というところに何だか気が抜けてしまう。
まあ『Ⅱ』だもんね。『Ⅰ』より規模が小さくなるはずないよね。
「今回の出征は、何が地上を滅ぼしたかを見極めるためのものよ。どうだった騎士?」
「わかったのは、あれがガーゴイルってことだね。……ん、つまり……帝国の軍勢ってこと?」
誰にともなくたずねると、リーンフィリア様がうなずいた。
「はい。詳しいことはわからないのですが、帝国の軍勢が復活しているという話を聞きました。もしやと思い、今回騎士様に確かめてもらったのです」
「まさか……」
いや。なくはない。『Ⅰ』で倒した敵が『Ⅱ』で復活。あると思います。
「つまり、またしても〈契約の悪魔〉の仕業ってわけか」
「同一の個体かはわかりませんが、恐らく……」
『Ⅰ』のラスボスだった〈契約の悪魔〉。その外見は、クソデカ真っ黒悪魔だ。
ヤツがまた現れた……?
あのサイズと戦った先代が、リアルではどういう戦い方をしたのかはわからないけど、僕に真似するのは無理だろう。
しかし『Ⅱ』の僕には心強い味方がいる。
「アンサラー」
〝応えるもの〟の名の示すとおり、僕の呼びかけに応じて聖銃アンサラーが現れる。
銃が戦場の有り様を一変させたのは、重厚な金属の鎧をもってしても弾丸を防ぐことができなかったからだ。
だから、鎧騎士と銃器の組み合わせは少し変かなとも思ったが、それは間違いだった。 長方形のボディ部分に施された荘厳な装飾が、銃という機能美の塊と、騎士の鎧という美意識の結晶の間をうまく取り持っている。
騎士と銃は、合うのだ。
スッ……。
コレ!
【新要素の武器が素敵:1コレ】(累計ポイント-4000)
僕は『Ⅱ』の記事を見たとき、この武器にときめきを覚えていた。
装甲に守られたようなデザインがカッコ良かった。
そして、これが武器として加わることにより、剣と銃の二刀流というスタイルが楽しめることに期待した。
『Ⅱ』が無事発売されていれば、間違いなく褒められるべきポイントになったはずだ……。
「大丈夫。誰が来ようと、これと剣があれば、僕に怖いものなんて何もない」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
三人で「えっ」の伝言ゲームをする僕ら。
え、何が「え」なの? 僕何か変なこと言った?
「何言ってんの騎士。剣はないわよ」
「えっ? えっ? どういうこと?」
アンシェルの言葉に戸惑う。
「だって、遠くにいる相手だってそれで倒せるんだから、剣なんていらないじゃない。持ってるだけ重くて邪魔でしょ」
ちょっ……。ま……。
待て待て待て待て待て。
確かにそう! そうではあるけど!
合理性の問題じゃない。
銃と剣の二刀流は確実にカッコイイ。ロマンの塊だ。
そのビジュアルだけで、購買意欲に直結する。
それが、ない?
ないだって? うせやろ!?
ああああ。
確かにっ……『リジェネシス』のアクション要素は、弱いと言われていた……!
女神の騎士には剣、大剣、双剣、槍の四種類の武器があるんだけど、いずれもコンボは一つずつしかなく単調なのだ。
これは熱狂的ファンである僕も……いや、ファンだからこそ認めるところ。
その代わりというのも変だけど、モーションは独特で良かったよ!
女神の騎士は、武器を常に逆手持ちにする。さすがに槍は普通に持つけど、大剣すら逆手に持つ。
攻撃モーションも変わったものが多くて、獣っぽい挙動と合わさって、かなり獰猛な印象があった。
衝撃的かつ、無性に格好良かった。
なのにアンチはこれを、
――モーションがバカみたい。
――目立つことやろうとして失敗してる典型例。
――スタイリッシュノーセンス。
――スタッフはカッコイイと思ってるんでしょ。
とこき下ろしている。
うるせえ!(拒絶)
あの逆手モーションにスタッフの熱意を感じないのか? 情熱を感じないのか!?
僕は感じたぞ確かに!
でもだからこそっ……!
それをユーザーから拒絶されたら、スタッフには次の一手が思い浮かばない……。
情熱に二番目なんてない……! 近接武器の全面カットが、起こりうる……!
がああああああっ!
コレジャナイ!
僕はボタンを叩く。
【剣がない!:1コレジャナイ】(累計ポイント-5000)
けれど問題は、それだけにとどまらない。
『リジェネシス』の武器には〝武器スキル〟というものがある。
読んで字のごとく、武器についている固有スキルのことだ。
攻撃速度上昇や、攻撃範囲拡大など、いずれも戦闘を強力にバックアップしてくれる優秀なものが揃っている。
これは、敵を倒し、武器のレベルをアップさせることで順次獲得できる。
武器の最大レベルは四。スキルも四個だ。
そしてこれが大きなポイントなのだけど、武器スキルは、現在のレベルより一つ下のものまで(レベル四武器なら、レベル三のスキルまで)なら、違う武器を使っているときでも最大二個まで主人公側にくっつけることができる。
つまり、武器が持つ武器スキル四つに、主人公に付与した武器スキル二つの、合計六つのスキルを使うことができるのだ。
これがすさまじいシナジーを生んだ。
カスタマイズによっては、どんな瀕死の状況からも相手を一発殴れば生命力を吸収して全快という「ソウルスティール」セットや、攻撃速度を最大化させてから攻撃に爆裂属性を付与させ、画面中がひたすら爆発しっぱなしでそのうちゲームがフリーズする「バーニングゲームオーバー」セットなど、様々なカスタムが考案された。
バランスの良し悪しで言えば、最悪だ。
当然、アンチはこれを、ゴミクズのように叩いた。
――スキル格差が激しすぎる。
――バランス取れないなら最初から六つもつけさせるなよ。
――ここのスタッフにそんな脳みそないよ。期待する方がバカ。
くたばれ(剛速球)
僕から言わせれば、このデタラメな性能こそがスキル選びの醍醐味だった。
これを組み合わせたらすごく強そうだな――って要求を100パーセント満たしてくれた。組み合わせ無効なんて措置もない。すべて自由だった。
ヌルゲーがしたくないなら、硬派なスキルを合わせて楽しむこともできた。あえてリスクを付けることで、自らロマン砲を生み出すこともできた。
バランスの置き所さえ自由自在。
プレイヤーの想像力とスタイルが試される、そんな武器スキルが――。
「武器と共に去った!」
ハア~、コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! (エーラヤッサ)コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!(ア、ヨイショ) コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!(コレジャナイ節・作:ツジクロー)
【自由なカスタマイズの全面廃止:16コレジャナイ】(累計ポイント-21000)
「ひゃああぅぅ……。ごめんなさいごめんなさい」
「ちょっと、落ち着きなさいよ騎士!」
頭を守るように縮こまった女神様をかばい、アンシェルが両手を広げて僕の前に立ちはだかる。
っつはっ……!
思わず怒濤のコレジャナイラッシュになってしまった。
だけどこれくらいのショックはあって当然だ。
僕はさっきの一瞬のうちに、ロマンも、力も、失ったのだ。
そんな僕に、アンシェルはむっとした顔で言ってくる。
「これに関しては何を騒いだって無駄よ。すでに天界で決められたことなの」
「天界で……? どういうこと?」
「あんたは確かに先の戦いで、地上から強力な武器をいくつも拾ってきた。けど、それらはあまりにも強力すぎたの」
「…………ッ!?」
「今回の戦いで、天界の神々はそれらの使用を禁じたわ。その代わり用意されたのがアンサラーってわけ」
――バランス取れないなら最初から六つもつけさせるなよ。
しゃ……社長ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!?
「何をバカなことを言ってるんだ? 地上を救うためなんだから、強すぎて何が困るんだよ! 神々はアンチなのか!? それとも脳みそがタングステンでできてる超強度のバカなのか!?」
「落ち着きなさいって! でも、そうね……。アンチではあるわ。リーンフィリア様の、ね」
「えっ?」
思わず移した視線に驚いたのか、リーンフィリア様はビクリと肩を揺らして、うつむく。
「リーンフィリア様は天界から行動を制限されてるのよ」
そして、アンシェルは知られざる『Ⅱ』の真実を語りだした。
騎士と長銃は良い・・・そう思うだろアンタも。思わないのか・・・?思ってんだろ・・・?(ダン・モロ感)