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第四十七話 つぼみの里の始まり

 すうーっ。

 僕は大きく息を吸い込んだ。

 

 コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ!


【復活!:10コレ】(累計ポイント-16000)


 リーンフィリア様が復活したら20コレぶっこむと言ったな?

 あれの半分だよ。


 前回……ていうか、昨日だけど、リーンフィリア様は完璧な仕事をした。

〈バベルの牢獄〉を切り崩して巨大な土地を作り出し、なおかつ、悲嘆に打ち震えていた微乳エルフたちの心を救ってみせた。


 さらには、このエリアでも通用する整地アイテム〈偉大なるタイラニー〉を生成。

 もはや、彼女の神性はとどまるところを知らない、はずだったんだけど。


 あれから丸一日眠り続けたリーンフィリア様は、


「えっ……。この大きいスコップ何ですか?」


 なんと自分で成し遂げたこの偉業のことを、すっかり忘れてしまったのだ。


 思うに、〈バベルの牢獄〉を切り拓いたときの彼女は、いわゆるトランス状態にあったのではないだろうか。神なのにトランス状態というのはさておき。


 二つのエルフの里で精神的に追い込まれ、そしてそんな状況でミリオたちを救おうと、肉体的にも疲弊の極致に至った。その極限状態で、通常発揮されるべきでない力の扉を開いたとしても、何ら不思議はないと僕は考える。


 実際、女神様はもう〈バベルの樹〉をほいほい掘ることができるようになっていた。複雑な形状の枝も、彼女の手にかかればあっという間にタイラニーなる。


 ただし、豆腐メンタルは豆腐のまま。

 目覚めたとき、ミリオたちが一斉に跪いたのを見て、メチャクチャ震えてたので。

 このメンタルも完成したとき、残りの10コレを捧げたいと思います。


 さて、現状はどうなっているかというと――。


 里長:ミリオ

 人口 ☆

 武力 ☆

 文化 ☆

 資源 ☆


〈オルター・ボード〉の表示は以上のようになっている。


 三つの里の中では最弱。それほど大差ないように思えるけど、多分同じ☆1でも、こちらの実値はさら低いと思われる。


 ともあれ、微乳――いや、つぼみの里は、発展させるべき町としてのスタートを切った。

 僕としては、一番の弱小勢力であるここを拠点に、エリアを攻略していきたいところだ。

 だって、ほっといたらここ、他の勢力にあっさり粉砕されそうだし……。


 それにしても、今さらだけど、巨乳と貧乳の間が並乳ではなく微乳という点に、『Ⅱ』スタッフの心意気を感じるね。


 きっといたんだろうな、気骨あるおっぱいソムリエが。

「巨乳と貧乳を投入しておいて、微乳がいないとか許されざるよ」

 と企画を押し通したんだろう。何て男らしいヤツだ。女かもしれないけど。


「あの、騎士様……」


〈オルター・ボード〉に落としていた目線を持ち上げると、薄幸の微にゅ――いや、ミリオが立っていた。


 僕があぐらをかいているここは、リーンフィリア様が拓いた〈バベルの牢獄〉改め、〈バベルの平卓〉と名づけられた平地。

〈偉大なるタイラニー〉によって水平に均された樹木は、広大な檜舞台のような、そんな不可思議な様相を見せている。


「どうしたの?」

「あっ、あの、ええと……」


 ミリオは血の気の薄い顔を赤く染めながら、髪をいじったり、手甲の位置を直したりと、もじもじするばかりで、なかなか本題を切り出さない。


「もしかして家の第一号ができた?」

「あっ、は、はい。そうなんです……! み、見てもらえますか……?」

「もちろんだよ」


 僕は地面から立ち上がり、はにかむような笑顔のミリオに続いた。


「あそこに見えるのがそうです」

「お、おお……!?」


 僕は目を見張った。〈バベルの平卓〉の入り口に建てられ、他のエルフたちに囲まれているそれは、ロッジ風の可愛らしい家屋だった。


 大きさもちょうど一家族が暮らせるくらいのサイズ。愛すべき森の精霊が住むのに、これほどしっくりくるデザインもない。


「ど、どうでしょうか……」


 ミリオが恐る恐る聞き、他のエルフたちも僕の言葉に耳を澄ます。


「いい……! すごくいいよミリオ!」

「よかったぁ……」


 ミリオは小さな胸に手を当て、顔をほころばせた。他のエルフたちも手を取り合って喜んでいる。


 初期の〈ヴァン平原〉に築かれた、無駄にくそでかい土の城とは大違い。

 オシャレな外見だけでなく、きれいにまとまった内部構成のよさや、使われている木ブロックの少なさ、そのおかげで二軒目がすぐさま建てられていく。どれをとっても一流の仕事だ。


「すべて女神様のおかげです。タイラニー」


 ミリオはじわりと滲んだ涙を指先で拭き取りつつ、言った。


「今までの土地では、木材も手に入らず、家を建てられる場所もありませんでした。そんな中で、こんな家に住みたい、あんな家を造りたいと、みな叶わぬ夢だけを見ていたんです。そんなこと意味がないと知り、いつしか、考えることすらやめてしまっていたけれど……」

「今、ようやくそれが実現できたってことか……」


 ミリオはこくりと、小さな首を縦に振った。


 家を建てたエルフたちが嬉しそうなのは、そういうわけか。

 まさに夢のマイホーム。今まで不遇だったからこそ、余計に。


 どこか翳りがあった微乳エルフたちの顔にも、光が戻ってきている。抗争の最中にある他二つのエルフたちとは違う、何の憂いもない、希望に満ちあふれた笑顔だ。


「あっ、も、もちろん、霧の怪物を倒してくれた騎士様にも感謝はしています」


 ミリオが慌ててフォローする。


「いいんだよ。君らを救ったのは、間違いなくリーンフィリア様だから」

「そ、それで、相談したいことが、あるんですが……」

「ん?」

「森の資源のことなんです……」


 資源。そういえば〈オルター・ボード〉にもそんな項目があったっけ。


「わたしたちはこれまで、葉に残った朝露で乾きを癒し、木の皮を食べて飢えを凌いできました」

「ちょっと待って……それまともに生活できてないよね!?」

「おいしくは、ないです……」


 ミリオは少し冗談っぽく微笑んだ。


「エルフたちはそんなシカみたいな暮らしをしてるものなの?」

「いいえ。普通は、泉の水を飲んで、果実を取って食べます。相談したいことというのは、それなんです」


 つぼみの里のリーダーは、申し訳なさそうに僕を上目遣いに見ながら、


「水場探しと、食料探しを、どうか騎士様に手伝ってはもらえないでしょうか……?」

「いいよ」

「えっ」

「手伝うよ。僕にできることなら」

「ほ、本当ですか? よかったぁ……」


 ミリオの幸薄い顔に、嬉しそうな表情が広がる。何だか、見ているだけでこっちまで気持ちが温まってくるような、素敵な笑顔だ。


「パスティスも一緒だけどいいよね」

「えっ!?」


 ミリオが急に声を上げ、固まった。


「……?」


 そのとき、ちょうどパスティスが〈バベルの平卓〉の入り口にやってきた。


「あ、騎士、様。…………。ふ、二人で、何、してる、の……?」


 なぜだか、少し動揺した様子で聞いてくるパスティス。


「ああ、実は、これから町の食料と水場を探しに――」


 言いかけて、僕は見た。

 ミリオの露出した白い首元から頭のてっぺんに向けて、真っ赤な色が、何かのゲージみたいにギューンと上昇していくのを。


「あっ、パスティス様よ」


 家作りを見ていたエルフの誰かが叫んだ。一斉にパスティスへと振り向く彼女たち。

 そして、


「パスティス様。ご機嫌麗しゅうございます」

「新しい家ができたんです。是非わたしと一緒に住んでください」

「パスティス様のために、愛を込めてブレスレットを編みました。どうか受け取ってください」


 全員でパスティスを包囲すると、四方八方からアプローチを始めたのだ。

 なっ、何だ? 何事だこれは? パスティスが求婚されてる?

 何で!?


「ま、待っ、て……。なに、これ。こ、困る……」


 突然のことに困惑したパスティスは、どうにかその包囲網から抜け出すと、僕の後ろに隠れた。


「わたし……は、お母さん、で、騎士様が、お父さん、だから……そういうのは……ダメ……」


 なんだか誤解しか招かない言い方だけど、この場で否定するとパスティスが困りそうな気がする。とりあえずは黙って様子を見よう。


「そんなあ」

「残念……」


 エルフたちは残念にそうに眉を下げる。

 そんな中、


「そ、そうだったんですね……。騎士様と、パスティス様は、そういう……」


 ミリオが驚いたように言い、顔を伏せた。うっ……。なんか、この子だけは後でちゃんと説明しておいた方がいいのかも。

 何がどうなっているのかよくわからないけど、ミリオが再びあの暗い顔に戻ってしまうのはいやだ。


 ところが、彼女は突然「ふふっ」と声をもらす。


「でも」


 ふっと上げた顔には、むしろ清々しい笑みがあり――。


「人妻っていいですよね」


 僕は精一杯コレジャナイボタンを叩いた。


【君だけはまともだと思っていたあの日:3コレジャナイ】(累計ポイント-19000)



まともな人はいないんですか!?

・はい

・で?それが何か問題?(主任) 



※お知らせ

諸事情により次回更新は29日の予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] 仲睦まじい姿をみて理想の夫婦みたいだなあって意味で人妻っていいですよねって言ってくれたのかもしれないじゃん!
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