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第四十四話 二つの村

 光を失った僕とリーンフィリア様の前で、メディーナの話は続いた。


「わたくしたちエルフは、はるか以前から、胸のある者とない者に分かれ、対立を続けてきました。命を落とすことこそ稀だったと聞きますが、食料、水場、資源の争いには、どれほどの血が流されたか定かではありません」


 こ、ここ、こ、


「貧乳の里の者はみな獰猛で、胸の大きさ同様、心の狭い者たちです。わたくしが何度和平を持ちかけても、聞く耳を持ちませんでした。あの白い獣に里が襲われ、多くの家が焼かれたときも、一向に矛を収めようとはしなかったのです」


 こっ、こ、こ、こ、


「里の者たちは、みな彼女らを憎み、嫌っています。女神様に対し、大変畏れ多いことだとは重々承知していますが、そのたいらにーという言葉、我々の前では、どうか控えていただきますよう、心からお願い申し上げます」


「ああっ……あっ、ああ……ぁああ……」


 リーンフィリア様が震え出す。

 僕も震えている。


 コッ……コレジャナイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! ぬわああああああ!?


【抗争!:6コレジャナイ】(累計ポイント-26000)


 何をやってるんだ彼女たちはああああああああああああああ!?

 対立!? 胸のある者とない者分かれて!?


 ええええええええええええええ!!?


 そうか。さっきのイヤな予感の正体は、あれだ!


 あの、「人間以外の住人もほしいな!」という素朴でまっとうな意見。そこに続いた、悪辣なコメント――。


 ――エルフなんて今さら珍しくもねえよな。

 ――安直に巨乳エルフ出せばいいと思ってるでしょ、ここのスタッフだし。

 ――貧乳とか出されても困るけどな。ロリコンキモい。

 ――かといって、普通なのもなー。ってか、これじゃどうしようもないじゃんw

 ――そこを何とかするのがプロでしょ?

 ――プロ(笑)


 宇宙のチリになれやああああああああああああああああああ!


 そしてスタッフは貧乳エルフか巨乳エルフか悩んだ末に、両方出して、さらに対立させたああああああああああああああああ!?


 わけわかんねえよ! それ対立する意味あんのかよおおおおおおおおおおお!?


《大きいのはいいことだ。間違いない》


 うるせえ世界の半分を敵に回す覚悟あんのかてめえ!?


「あは、あはは、あは……。た、たいらにーって、言っちゃ、ダメだって……あははは」

「き、騎士ィィィイ! リーンフィリア様が、リーンフィリア様があああ!」

「おおお、落ち着けアンシェル! 君まで取り乱してどうする! 一旦退避だ! 天界に戻って体勢を立て直すんだ!」


 僕はエルフたちに向き直り、


「ちょ、ちょっとその貧乳の里というところも見てきます! 村作り、頑張ってください!」


 そう言い残すと、急いで天界へと帰還した。


「うっうっ……ううう……」

「大丈夫ですよ女神様。大丈夫ですから」

「泣かないで、女神様……」

 キリリリ、キリキリ……。


 アンシェルだけでなく、パスティスとアディンたちからも必死に慰められるリーンフィリア様。

 僕は生まれて初めて、歴史ドラマとかでよく見る「おいたわしや……」という台詞の使い所に出くわした。〈ヴァン平原〉で小さな勇気を手に入れて新天地まで来たのに、いきなりこんなことになるなんて可哀想すぎる……。


 クッ、それにしても、町と町が対立なんて、どういうことなんだ?

 僕にはまだ現状がうまく飲み込めない。これは事実なのか? 何か間違いがあるのでは?

 もっと情報が必要だ。


「アンシェル。貧乳の里というところに行ってみよう。リーンフィリア様も一緒に」

「なっ……!? 騎士あんた、リーンフィリア様の傷心がわからないの!?」

「わかってる。僕も混乱してる。でも、リーンフィリア様に関してはまだ何とかなる。考えてみて。メディーナは、タイラニーが貧乳に繋がると言っていた。つまり……」


 アンシェルははっとなり、


「貧乳の里なら、女神様の言葉が受け入れられるってこと……?」


 僕はうなずき、スコップを抱いてうずくまるリーンフィリア様の横にひざまづいた。


「というわけです、リーンフィリア様。もう一度、僕らと地上に降りましょう」

「…………」


 女神様は無言のまま、こくりとうなずいた。


 彼女は本当に強くなった。〈ヴァン平原〉前だったら、ここで折れてしまっていただろう。

 諦めることをしなければきっと受け入れてもらえると、僕も信じている。


 だけど……。

 この悲劇は、まだ終わらなかったんだ……。


 ※


「みなの者、わたしがこの森で一番強いよな!?」

『長! 長!』


「わたしはこの森で一番勇ましいよな!?」

『長! 長!』


「そして! わたしがこの森で一番可愛いよなあアアアアア!?」

『長アアアアアアアアアアア!』


 なっ、なんだアレ……。


 降下中から、すでにその異様な光景は見えていた。

 巨木の瘤の上に立つ幼女が、槍を振り回しながら、眼下のエルフたちを煽っている。


 みんな見事なほどにつるっぺた。

 小柄であどけない顔立ちの者が多いためか、幼女の集団のようにも見える。


《いや、やはり小さいのが真理か》


 おまえ硬派なの声だけかよ!? 残りの世界も敵に回していよいよ独りだぞ!?


 その決起集会みたいな何かの横に僕らが降り立つと、貧乳エルフたちからどよめきが起こった。


「女神様だ!」

「女神様が来てくれた!」


 彼女らが沸き立つ中、瘤から飛び降りた幼女が先頭に立ち、槍を置いてかしずいた。


「これはご機嫌麗しゅう、女神様! わたしは里長のマギアです。このたびは、霧を増やす魔物を退治していただき、感謝します!」


 猫のような大きな瞳。癖のある髪は豊かで、たてがみのように彼女の顔と背中を覆っている。

 メディーナがグラマーな美女だったのに比べると、こちらは小柄で元気いっぱい、野生の女の子といった風貌だ。


 巨乳の里のエルフたちが、上品な草色のワンピースだったのに対し、彼女らは胸と腰を簡素に覆うツーピースになっており、どこかワイルドな感じがする。それでも、白く美しい肌と、全身から漂う品の良さは変わらないが。


《メディーナを月光とするのなら、このマギアという少女は太陽の輝きだった。日向を快活に跳ね回り、すべてに熱を与えて揺り起こしていく。力強く、そして可憐に。この静かなる森において、彼女の光は必要不可欠なのだ》


 僕も主人公の意見に同意。


「あっ、あのっ……た、たいらにー!」


 かしこまるマギアに対し、リーンフィリア様は最後の力を振り絞っていきなり叫んだ。もはや、彼女に長々と話をする余裕は残されていなかったのだ。


 あまりにも唐突すぎる言葉に、ぽかんとする貧乳エルフたち。


 が。


「聞いたかみんな。女神様はタイラとおっしゃった! つまり我らを祝福する言葉だ!」

『わあああああっ!』


 ――!! よしっ! この反応ッ! 上々!

 僕はぐっと拳を握る。


 女神様の瞳にもわずかに光が戻る。


 マギアは槍を振り上げた。


「よしみんな、速やかに村を大きくするぞ。あの重苦しい脂肪をぶら下げた鈍重な牛たちには出せない進撃速度を見せつけてやれ。まずは西の水場を取るんだ!」

『ウオオオオオオ!』


 荒ぶる幼女たち。な、なんかすごい熱気だ、この里は。


「あ、あの、マギアと言いましたね? 同じエルフで争うというのは、一体……」


 リーンフィリア様がたずねると、


「女神様、それを語るにはこの口一個じゃたりません。ただ、これだけは言えます。先にわたしたちを見下し、嘲ったのはヤツらです。ゆえに、あちらから和平を申し出たところで聞く耳持たない。この戦いを終わらせる権利は、我らだけが持つ!」


 マギアは八重歯を見せて好戦的に言い放った。なかなか過激なロリだ。

 しかもこれで、二つの里が敵対関係にあることが確定してしまった。

 けれど、ことはこれで終わらない。


「それに一つ。女神様にはすごく無礼なことを言わねばなりません」

「えっ……」


 ぽかんとするリーンフィリア様に、マギアはどこか不機嫌そうに言う。


「我らの土地を解放してくれたことには、心から感謝します。しかし、女神様は、胸がある!」

「えっ……」


 リーンフィリア様は思わず自分の胸に手を当てる。

 腋とむっちり太股のことばかり言ってた気がするけど、それはリーンフィリア様の胸が、取り立てて大きくもなければ小さくもなかったからだ。

 いわゆる普通サイズ。全環境に対応できる汎用型。


「いや、リーンフィリア様のは完璧な美乳なのよ。あんたは知らなくていいことだけど」


 とかガチ百合天使が偉そうに語ってた気がするけど、まあそういうこと。


 しかし、ここにいるのはみな、ぺたんこつるつるのフラットな方々ばかりだ。

 彼女らにしてみれば「普通」ということは「ある」ということなのである。


「わたしは女神様を、あの乳牛どもと同じとは決して見ません。あの揺れる胸のように、性根もぷるぷるのプリンみたいに据わってないんだろうなとは決して思わない! しかし、里にはそれを見ただけで怯える者もいます。よって、もし里に用があるときは、そちらの天使殿を使者として遣わしてほしいのです」

「えっ、わたし?」

「うむ。天使殿は見るからにつるつるのぺたぺた! 我らを導くにふさわしいお方だ!」


 マギアがそう言い切り、はっきりと親愛の眼差しを向けたときだった。


「あっ……あはは……。あはははは……。ああ、あああああああ……」


 リーンフィリア様の口から、聞いたこともないような絶望の声が漏れだした。

 う、うわあああああああああああ! め、女神様が、女神様がっ……!


「じゃ、じゃあ僕らは一旦天界に戻りますので!」

「何かあったらまた来るから!」

「さ、さよう、なら……!」


 僕らはリーンフィリア様を抱きしめてかばうようにしながら、天界へと逃げ帰った。

 その上昇中。


「……ち……る……」


 ぐったりした女神様が、か細い声で言った。


「えっ、何ですかリーンフィリア様!?」


 僕が慌てて聞き返すと、


「おうち……帰る……」

「落ち着いて女神様!」

「大丈夫ですよ! 今、天界に戻ってますからね、女神様!」


 しかしリーンフィリア様は首を横に振った。

 僕とアンシェルは「えっ」と声を揃える。


 そして女神様は、どばあと溢れる涙と共に叫んだ。


「帰るうううう!〈ヴァン平原〉に帰りますううううううう!」

『ええええええええ!?』

「帰りゅううううううう、おうち帰りゅううううううううう!!」


 女神様はさめざめと泣き続けた。

 エリアの住人たちから認められず、大号泣する。

 そこに、〈ヴァン平原〉を離れた直後の神々しさはない。

 率直に言って、神様に相応しくないアワレな姿。


 でも、だけど……。

 今の姿にコレジャナイなんて押せるわけない……!

 こんな悲しいこと糾弾できるはずがない。


 女神様は頑張ったんだ。

 せっかく勇気を身につけかけたのに、たった一日で粉砕されてしまった。

 こんなのってないよ!


 町は二つあるし!

 巨乳と貧乳で対立してるし!

 せっかくエルフが出てきたのに、何なんだよこのエリアはよおおおおおおおおおおお!!



人から試練を与えられる神様

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― 新着の感想 ―
[一言] いやでもゲームのコンセプトとしてこのアイデア取り入れたのは面白いぞスタッフ!
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