第四話 たたかいのはじまり
※おしらせ
名前が判明してわずか二話ですが、天使のアンジェラという名前が前作のキャラとカブっていたことにようやく気づいたため、アンシェルと改名させていただきます。
覚えてくれた方、本当にごめんなさい。
――リーンフィリアの外見がダサい。
――腋だけ見せてるとかキモい。
――もっと露出を増やせ。パンモロ当たり前のご時世に気取ってんじゃねえよ。
そういえば、アンチたちはそんなことを言っていた気がする。
死ね(直球)。
連中の言葉が女神様に届くとは到底思えないが、ここが、『リジェネシス』が現実になったような世界であることは、もう疑う余地はない。
そして、ゲーム雑誌で『Ⅱ』の開発記事を見たことのある僕は、まるでアンチの声に感化されたかのように、リーンフィリア様の外見に大きな変更が加えられたことを知っていた。
あの良デザインを、なぜ? と思ったものだけど。
これは、『リジェネシス』を作った会社の社長に問題があった。
個人の思想に口を挟む余地はないが、この社長はユーザーの声を非常に大事にしていた。どれくらい大事にしていたかというと、スタッフの意向や、ゲームのコンセプトより優先してしまうほどに。
そして公式ホームページには、ユーザーの声を直接書き込め、かつ、誰でも閲覧できるコーナーまで存在していた。
ユーザーの声を聞くのは大事だ。でも、それはあくまで、そのゲームという基礎があっての要望。根本から唯々諾々と作り直してしまったら、スタッフの独創性が損なわれてしまう。
結局のところ、僕を含めた大半のユーザーは、スタッフたちほどゲームを突き詰めて考えられないし、突出したセンスもないのだ。ほとんどの要望は、良し悪しの判断より、好き嫌いに立脚した、浅いものにすぎない。
でも、そういうものに対し、『リジェネシス』は特大の弱点を持っていた。
新規タイトルということもあって、非常に荒削りなのだ。
特にシステム関連は、どちらにも転ぶ状態。まさに原石。
これを宝石のように美しくカットできるか、それとも真ん中から砕いてしまうかは、これからの頑張りにかかっていた。
つまり、開発に頓挫した『Ⅱ』に。
開発中止の発表からほどなくして会社も倒産した。表現では、解散となっていたが……。
原石の結末は明白。
『Ⅱ』は完全に迷走し、スタッフも資本も力尽きた。
女神様のデザインを見れば、それがどれほどの混迷だったか容易に想像できる。
ならば『Ⅱ』そっくりと思われるこの世界に引き込まれた僕は、いずれもっと恐ろしいコレジャナイに遭遇する、ということ……!
「こ、これでいいでしょうか……」
神殿の端から下方の雲を見つめ、鬱々と考えを巡らせていた僕に、おずおずと声がかけられた。
振り向くと、僕の知ってる女神様が、少し恥ずかしそうに立っていた。
髪はストレートに戻り、化粧っけもなく本来のすっきりとした、そしてあどけない顔立ち。
服は胴体部分と袖がしっかり別れて腋見せの状態になっており、新要素と呼べるのはミニスカートと白タイツの部分だけとなっている。ニーソだけは少し惜しい点でもあったが、白タイツの儚くも重厚な防御力と二者択一なら、悪い取引ではない。
スッ……。
コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ!
僕はコレ! の価値観ボタンを力の限り連打。
【女神様の外見が正当進化:11コレ】(累計ポイント-5000)
残念ながら、ケバフィリア様のダメージが大きすぎてマイナスからは脱却できていないが、それでもその印象は次の言葉に凝縮されている。
「すごい可愛いですよ! これぞ僕の愛した女神様だ!」
「あ、愛、です、か……。それは、その……ありがとう……ございます……」
リーンフィリア様は、顔を赤くしてうつむくと、何かをごまかすように前髪をいじり始めた。
くっ……は! 何だこのかあいい仕草はっ! もっとコレ! ボタン押しておくか?
やはりリーンフィリア様はリーンフィリア様だ。
迷走がなんだ。改悪が何だ。
根本は何も変わっていない。
なら、僕にできることは、きっとある。
『Ⅰ』をとことん愛した僕が、『Ⅱ』に噛みつき、改悪された部分を徹底的に手直ししてやるのだ!
これが僕の敵だ、これが僕の戦いだ!
「当人を目の前にして、ずいぶんはっきり告白するのね、あんた……」
そんな女神様の背後から、髪形を戻したときにでも使ったのか、ヘアブラシを持ったままのアンシェルが現れた。
「僕個人の価値観だからね。誰にはばかることなくぶちまける。そう決めている」
「今まで無口だったのがウソみたいよ。前は女神様が話しかけても、〝はい〟か〝いいえ〟しか言わなかったくせに。ね、女神様」
「え、ええ。そうでしたね……」
今度は横髪を捕まえてコソコソいじっている女神様。それも可愛い。
ちなみに〝はい〟と〝いいえ〟の二択は、まさに『リジェネシス』の選択肢そのものだ。
あのゲーム、主人公はプレイヤーの分身ということで、一切しゃべらない。
僕の前では普通に話していたところを見ると、女神様が相手で、かしこまっていただけかもしれない。今頃は、奥さんと親戚の前で、武勇伝をぶってるのかな。
でもどうするか……。
先代と僕が入れ替わったことについては、伝えておいた方がいいだろうか?
知らせても悪いことが起こるとは限らないが、ここは少し考え所だ。もし追放とかされたら、僕はせっかく会えたリーンフィリア様とお別れしないといけないし、先代との約束も果たせない。……そんなのはいやだ。
何か名案はないかな?
「まあでも、何言ってもだんまりだった五年前より、わかりやすくていいとは思うわ。ですよね、女神様」
アンシェルは肩をすくめ、また女神様に話を振る。
すると、
「騎士様がね。わたしのこと愛してるって。すごいね。わたしすごいね」
「女神様、柱に話しかけるのやめましょうかあ!?」
僕の正体のことはおいといて……何か女神様、外見だけじゃなく中身も変な感じだな……。何か……。何だ? えらく大人しいというか、湿気ってるというか。
いや、女神様も気になるところだけど、今は別のことをまずはっきりさせておこう。
「ところで、アンシェルは何者なの?」
「えっ?」
このアンシェルという、やたら押しが強い天使。ごく普通に顔なじみみたいに振る舞ってるけど『Ⅰ』にはいなかったのだ。
神殿にいたのは、リーンフィリア様と主人公だけ。だから僕は彼女を知らない。
「さっきの戦闘で頭に一発もらって記憶喪失にでもなったの? アンサラーのことも忘れてたし」
「なった」
「〝そうかもしれない〟くらいにとどめておきなさいよ。なにその断言」
そうかもしれないとか、そうかもねとか、僕は二度と言わない。ウソをつくときも意志を込めて断定してやる。バレたらそのときだ!
それに、これは図らずも悪くない流れを呼び込みつつある。
僕には『Ⅰ』の知識があるから過去話にはそれほど困らない。
先代も愛想が良い方がじゃなかったみたいだから、個別エピソードの心配もない。
このまま『Ⅱ』の流れを仕入れて、自然と浸透していくのが吉!
「まあいいわ。今まではあんまり深い付き合いもなかったし、改めて自己紹介するわね。わたしは天界の天使。神様たちの指示で動く、下働きってところね。天使は大きな組合に属していて、神様直属の天使というのは滅多にいないわ。そのあたりはもっと位の高い者がやるの。前の戦いでは、雑用でこの神殿に出入りしていただけだから、あんたと顔合わせたのは数えるくらいしかなかったわ」
「今も、たまたまここに来てるだけ?」
「違うわ」
たずねると、アンシェルは嬉しそうにその場でくるりと一回転した。
ワンピースの裾がわずかに浮き上がり、細い太股がわずかに見える。そして彼女はビシィと自分を指さした。
「天界からの指示で、リーンフィリア様直属の天使になったのよ! 日々のお世話から戦いの補助まで何でもやっちゃうんだから!」
どうやら、やる気と元気に満ちあふれた少女のようだ。
リーンフィリア様がケバくなってたのは、そのパワーの空回りと考えていいだろう。迷惑なヤツだな君は。
ときに、天使には性別ないってどこかで読んだ気がするけど、女の子みたいな格好してる以上、女の子扱いでいいな、うん。
「そうなのか。それで、今、戦いって言ったよね。地上で何が起きてるの?」
アンシェルは、リーンフィリア様と一度顔を見合わせ、
「そうね。今回の出征のこともふまえて、話をまとめましょうか」
その場を取り仕切るように一つ咳払いをし、指を一本立てた。
「地上文明がまた壊滅したみたい」
書きたいことが多すぎて、ちょっと動きのない話になってしまってますね・・・
ゲームインストール中に説明書を読んでる気分でお待ち下さい・・・
now loading・・・(ネオジオCD)