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第三十九話〈ディープミストの森〉

【エリアチェンジ】

 最初のエリアをクリアすると、別のエリアに神殿が移動できるようになります。

 まだ訪れていないエリアを探し、世界を徐々に再生させていきましょう。

 そのエリアをクリアしなくとも、再び別のエリアに移動することも可能です。


                            (『リジェネシス』取扱説明書より)




「さあ、次は〈ディープミストの森〉です! みなで力を合わせて世界を救いましょう!」


 園芸用の小さなスコップを握りしめ、神殿の広場でぴしっと指を差し向けたのは女神リーンフィリア様。


「ええ頑張りましょう、女神様! 万歳! ばんざあい!」


 その横で、ざるに入った花びらを投げ散らかしているのは天使アンシェルだ。

 普段ならこの二人だけだったんだろうけど、今回は、


《新たな大地。新たな苦難。そして新たな人々が我らを待っている》

「よーし。次のエリアも頑張るぞ!」

「う、うん。頑……張る……!」

 ウオオン、ウオオオオン、ウオオオオオオオン。


 主人公、僕、パスティス、竜たちが加わって、とてもうるさ――賑やかな決起集会となった。


 雲に載った神殿は今、〈ヴァン平原〉を離れ、別の土地へと向かっている。


 残念ながら、神殿の下には巨大な雲海が広がっているため、どこをどのように移動しているかは目視では確認できない。

 そのかわり、〈オルター・ボード〉が地図を表示してくれた。

 僕たちは〈ヴァン平原〉があった大陸を抜け、東へぐわっと移動しているようだ。


『Ⅰ』のときは、一つの大陸の色々な土地を再生していく形だった。

『Ⅱ』ではもっと大きな規模で世界を回っていくということか。

 より広く、より深い世界へ。『Ⅱ』のあるべき姿に、僕の胸も高鳴る。


「たとえどのような試練が訪れようと、わたしは世界の人々にタイラニーの教えを広めねばならないのです!」

「おっしゃるとおり! 女神様サイコー!」


 それはそれとして。


 スッ……。

 コレジャナイ!


【女神様が変な宗教にハマる:1コレジャナイ】(累計ポイント-26000)

 

 いや、教義上はリーンフィリア様が主神であり、創始者なんだけど、どう見てもハマってる側の人間なんだよなあ、あの姿は……。

 新エリアに到達する前にコレジャナイを一回押さなきゃいけないって、どうなのよ。


 だが待て。

 もう一つ忘れてはいけないことがあるじゃないか。


 スッ……。

 コレ!


【女神様、別れを笑顔で乗り越える:1コレ】(累計ポイント-25000)


 ぱんぱかぱーん!

 なんとリーンフィリア様。泥酔から目を覚まし、〈ヴァン平原〉を離れたことを知っても、ギャン泣きしたり、即座に神殿を引き返させたりせず、凛として次のエリアへの移動を再指示したのだ!


 これには僕もアンシェルも驚いた。

 陽光を背に、どこか勇ましい微笑を浮かべ、神殿の向かうべき方角へ指を差した女神様は、目を開けるのもつらいほどのまばゆい存在だった。


 それはまるで、『Ⅰ』のときの姿を見るようで……。

 くおおっ……。


 今すぐ上限二十コレ! までぶっこみたいところだけど、それは次のエリアまで我慢だ! 新天地での完璧な指導力を見られたら、僕は遠慮なく女神様を最大評価する!


 やがて、〈オルター・ボード〉が新しい大陸を映し出した。

 まずは橋頭堡を築き、そこから新たな町作りが始まる。

 その手順は〈ヴァン平原〉のときと同じだ。


「じゃあ、行ってきます」

「何があるか、わからないから、みんなは、お留守番、しててね……」


 パスティスがアディンたちの頭を撫でる。

 派手に暴れる竜たちを、まずは抑えておこうというのは彼女の発案だった。僕も異論はない。未知なる大地への進入は、慎重にいかなければいけない。


「気をつけてくださいね」

「ちゃんと協力するのよ。わたしもサポートするから」


 リーンフィリア様とパスティス、それに竜たちに見送られ、僕らは雲の端から飛び降りた。

 もうすっかり慣れたエントリーだけど、新たな土地ということで、若干の緊張感がある。


 逆さまになって落ちていく世界の中、隣にいるパスティスと目が合った。

 彼女は手を伸ばし、僕の腕を取った。


「二人、きりなの、久しぶり、だね……」

「へ?」


 パスティスの頬はほのかに赤く、柔らかそうな唇にはみずみずしさと一緒に、少し妖しい笑みがある。


「アディンたちも、大切だけど、時々は、騎士様と二人きりに、なりたいな……」

「パ、パスティス……?」


 えっ、なにこれ?

 逢瀬? 落下中の短い逢瀬なのこれは!?

『Ⅱ』には仲間との恋愛要素あるんですか!? それによってマルチエンディングあるんですか!? コンプには何周も必要なんですかあああああ!?


「悪いけど、映像機能と音声機能を強化したから、やりとり丸わかりなのよね」


 なかったあああああああああああ!!


「ひぅ……」


 兜の羽根飾りから、半笑いのアンシェルの声が聞こえるや、パスティスは顔をトマトのように真っ赤にして僕から離れていった。


「騎士。あんたも、立場を利用してパスティスに変なことさせないように。いくら騎士と従者といっても、主従の距離感は適切に保ってよね」

「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」

「なに? 聞こえない」

「通信強化したんですよねえ!?」


 最初のバトルだというのに緊張感のないやりとりをしているうちに、雲の層を一つ抜け、二つ抜け……。


 あれ……変だな。

 そろそろ地上が見えてもいいはずなんだけど、まだ雲だ。

 いや、でも、あれ……何だ?


 あの雲、ところどころ緑色になってるみたいな……。


「騎士様、地面っ……!」

「――え!?」


 パスティスの警告がぎりぎり間に合った。

 逆さまの状態から元の姿勢に戻し、足を下に突き出す。


 衝撃はその直後に来た。

 異様な感触。〈ヴァン平原〉とは明らかに違う。


「何だここ……?」


 唖然として周囲を見回す。

 いや、正確には、見回せなかった。

 見えなかったのだ。


「すごい、霧」


 パスティスが呆然とつぶやく。

 濃霧……では済まない。猛霧とでも言うべきか。

 うすぎぬを幾枚も重ねるように立ちこめた霧が、数メートル先を完全に白い闇へと呑み込んでいる。


 霧の、ステージなのか……?

 さらに驚くべきは、足下の様子。

 着地時点ですでに、薄氷を踏むような不安感があったのだけれど、目で確認してその理由がわかった。


 木だ。

 信じられないほどの大樹の枝の上に立っている。

 その枝は、まるで迷路みたいに複雑な地形を織りなし、霧のおくへと消えていた。


 超巨大樹+霧。

 視界、足場共に最悪。


 どうやら『Ⅱ』は、第二ステージからプレイヤーをふるいにかけるつもりらしい。


最初のボスを撃破するトロフィーを、何割かのプレイヤーが取れないゲームがあるそうですね

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[一言] ゲーム作成のスタッフの心境を表しているかのようなステージ!
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