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第三十六話 大蜘蛛狩り

 巨大な一歩でずうんという地響きが起き、足下にあった遺跡が砕け散った。

 そのサイズがどれほどのものなのか、正確に計るすべはない。

 ただなんとなく、動く東京ドームを見たらこんな感じなのではないだろうかと思った。まあ僕は東京ドームを直に見たことはないんだけども。


 瓦礫の塊であることから、こいつがゴーレムであることはかろうじてわかった。

 中型ゴーレムなんてメじゃない。大型でさえここまでの規模はない。

 完全に規格外のゴーレム。


 丘の上の遺跡の、多分土に埋もれていた部分もすべて吸い上げて形を成した巨大蜘蛛は、八本の脚をそれぞれ一つずつ機械的に動かしながら、こちらに――いや、町へと向かって進み出した。


「どうしたの騎士!? 何があったのか報告しなさいよ!」


 硬直する僕の側頭部でアンシェルの声がわめいた。


「でかい、蜘蛛のゴーレムが出たっ……!」


 今の僕の精神状態と語彙では、これくらいの報告しかできない。

 目の前の光景があまりにも常識とかけ離れていて、まず戦おうという意識が働かなかったのだ。


「騎士、様……!」


 パスティスにがくがく揺さぶられて、ようやく我に返る。


「倒さ、ないと、町が……!」

「そ、そうだ」


 主人公も言っていた。こいつを放置したら町が壊滅すると。

 あのサイズだ。歩くだけですべてを瓦礫にしてしまうだろう。


 クソッ! 僕は大きなミスをした……!

 多分だけど、ここは〈ヘルメスの翼〉であの蜘蛛と併走しながら戦うステージだった。


 蜘蛛は決して俊敏なわけじゃない。しかし、一歩一歩のストロークがでかい。

 僕らがあいつの横にたどり着いたところで、すぐに置いていかれてしまうだろう。


 だけど、今でよかった! 他ならない、今のこのタイミングで!


「アディン、ディバ、トリア! 全員集合だ!」


 僕の叫びが空に吸い込まれて数秒、うなり声と共に、頭上で黒い影が十字を切った。

 ずうんと落ちてきたのは、三匹のサベージブラック。


 どこにいたかもわからないのに、一声で集合。この団結力。たまらないね!

 僕はアディンに乗り、パスティスがディバに騎乗したのを確認すると、大蜘蛛を指した。


「あいつを倒す、行くぞ!」


 ――ウオオオオオオオオオオオオオオオウ!!


 勇ましく吠えた三匹は同時に地を蹴った。

 飛翔!

 腕に生えた皮膜の翼を羽ばたかせ、黒竜が宙を舞う。


 イヤッッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!


 この生命感、スピード感! これだ! 僕が求めていたのはこれなんだ! どっかの愛玩動物とは違う本物の竜! サベージブラック最高!

 が、今は喜んでる場合じゃない。

 僕はアディンを大蜘蛛へと向かわせる。


「!?」


 大蜘蛛から何かが飛び立った。

 あれは――ガーゴイルか!?

 大蜘蛛の下に、立ち上がるゴーレムたちの姿も見えた。さっきまでは何もいなかったはずなのに。


「こいつ……! 他の悪魔の兵器の工廠なのか!?」


 兵器を生むゴーレム。こいつが一体いるだけで〈ヴァン平原〉は永遠に危機にさらされ続ける。絶対に叩かなければいけない相手だ。


「アンサラー!」


 僕は腰の後ろで物質化した聖銃を構える。


「パスティスとディバとトリアはゴーレムとガーゴイルの排除を優先して! 町に入られたら手がつけられなくなる!」

「騎士、様は……!?」

「僕とアディンは大物をやる!」


 グガアウッ!


 一鳴きするとアディンは大蜘蛛に向かって旋回。パスティスたちはルートを変えて離脱していく。

 パスティスやアディンたちがいて本当によかった……! 一人だけだったら、途方に暮れていたところだ。


 風を切りながら大蜘蛛に接近!

 近づくと、巨大すぎて、もはやそれがどこの部位なのかよくわからなくなる。

 仮に今、〈ヘルメスの翼〉があったとしても、こんなのと戦えるものなのか……!?


 僕は大蜘蛛の脚を狙い、アンサラーの引き金を引く。

 銃口から発射された魔力光は、僕たちから遠く離れ、まるで米粒のような大きさになって、大蜘蛛へと刺さった。


 水滴が弾けたような、ささやかな反応しかない。


 やっぱ無理だろこれっ――!


 ウウウウウウ。

 アディンがうなる。

 見れば、閉じられた大きなあぎとから真紅の輝きがもれている。


 バアッ!


 吐き出された火球は、アンサラーとは比較しようもない巨大さ。

 しかし、それでも、大蜘蛛の瓦礫を少し削ったにすぎなかった。

 これでは、脚をふっ飛ばしで動きを止めるなんて机上の空論もいいところだ。


 クッソ……あの怠け竜の火力があれば……! と言いたいところだけど、専用ステージではないところであいつは使えないし、そもそも!


「アディン、撃ちまくるぞ!」


 僕はアンサラーを連射しながら叫ぶ。


 サベージブラックがいれば、あんな愛玩動物必要ねえよなああああああああ!!


 ウオオオオオオオオオオオオオ!


 僕とアディンが大蜘蛛を撃ちまくった結果――。

 一つの成果が僕らの前に姿を現した。


「あれは……!?」


 脚の瓦礫が剥がれ落ち、赤く輝く奇妙な部位が露出。


「あんなわかりやすいの、狙うしかないぜ!」


 僕はアンサラーを精密射撃する。

 赤い部位が砕け散る、と同時。

 轟雷のような凄まじい音がして、蜘蛛の足がその部分から吹っ飛んだ!


 アディンが腹を見せて急速離脱。飛び散った破片から僕を守ってくれた。


「アディン、大丈夫か!?」


 キークルルル……。

 甘えたような声。大丈夫そうだ。


「よし……! 弱点がわかった! あの赤い部位にゴーレムの魔法文字が書いてあったんだ。でかい分、それだけ文字の場所も多く必要だったってわけか!」


 恐らく、部位露出はアンサラーでも可能。じゃなきゃ全プレイヤーはエリア一で詰みだ! まさかそんな時代じゃないよなあスタッフゥ!?


 脚を一本もぎ取られた蜘蛛が、突然、加速した。


《痛みはなくとも、攻撃されて頭に来たらしい。ヤツの動きが激しくなった。早く脚を破壊しきらないと、町が踏みつぶされる……!》


 弱点がわかった以上、できるだけ手分けして攻略したいところだけど、僕は竜から降りたら一瞬で置き去りにされる。どうする……?


 キーン、キーン……。


「アディン?」


 アディンが天使の魔法を唱え始めた。

 何をするつもり……ハッ!?


 僕の鉄靴の踵に、光の翼が現れた。

〈ヘルメスの翼〉だ!? そうか、これは天使たちが使う魔法だったのか!


 それにしても僕の意図を瞬時に理解してくれるなんて、よしよしよしよしあおによしッ! アディン、おまえはなんていい子なんだ!


「いっちょやるかアディン!!」


 グウオオオオオオオオオウ!


 僕はアディンから緑の草原へと飛び降りる。


 地に着くと同時に、

 ボッ!

 と光の翼から輝く破片が飛び散り、僕の体を、竜と等速で前へと押し出した。


 丘の斜面の草を割りながら、鳥のようなスピードで滑走する。天界に押しつけられたものとは違い、この〈ヘルメスの翼〉は僕を思った方向へと運んでくれた。


 何これ気持ちいい! こんなにいい魔法だったのかこれは!


 僕は感謝を込めてアディンと目線を交わす。

 僕の無事を確かめると、アディンはバレルロールのような軌道で一気に高度を取った。


 さあ仕事だ相棒、やってやろうぜ!


 僕とアディンの火線が、大蜘蛛の脚の瓦礫を次々に削り取っていく。

 高速で流れる世界、アンサラーから伝わる反動、アディンの咆哮と、風を切りながら竜と共にゆく疾走感が僕の脳幹を痺れさせた。


 このまま脚をもぎ取りきれば、間違いなく最高の勝利になる!


デカブツを削っていくステージってすごく楽しいと思います

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜に乗って巨大なボスを自分の銃と竜の攻撃で削っていく……パンツァードラグーンだこれ!!
[一言] これだけ原作離れした戦い方していたらこの状況がバグみたいなものですな……
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