第二十七話 高速防衛戦
《川を渡ろうとした私たちに迫る怪物どもの群れ。このままでは橋はおろか、町自体が破壊される。ヤツらをここで迎え撃つ……!》
主人公の錆声が、このバトルフィールドの趣旨を力強く説明してくれた。
突入戦だった1stステージとは真逆の防衛戦。
「いいわね騎士! できる限りそこで敵を迎え討って!」
急遽渡された髪飾りから聞こえるアンシェルの言葉通りならば、ここは接近してくるゴーレムやガーゴイルをボリボリ撃ち落としていく仕様のようだ。
戦いにおいて、橋というのは重要な防衛拠点になる。
川を徒歩で渡ると動きが鈍って飛び道具のよい的だし、また水深や水流自体が危険でもある。だから寄せ手は橋を通りたがり、守る側も作戦が立てやすい。
また、戦いが終わった後でも、物資の運搬という意味で、荷車の通りやすい橋は利用価値を発揮する。守り手が撤退時に橋を自ら落とすのは、少しでも敵の進軍を遅らせるための最後の策だ。
奪いたいし、奪われたくない。
だけどそれ以上に――
ここは女神様たちと作った思い出の橋だ。
できたばかりなのに、ヤツらの手になんて渡したくなかった。
「アンサラー!」
腰の後ろに現れた聖銃を、素早く胸の前で持ち直す。
「橋は渡らせない。一匹たりとも! だが僕は……あえてここでは守らないッ!」
僕は橋を越えて、敵の群れに突っ込んだ。
あの物量。迎え撃ったところでじり貧になるのは目に見えてる。
ならばこっちから乗り込んで、少しでも進軍速度を落とす!
「当たれッ!」
突撃銃の呼び名に相応しい、疾走しながらの射撃。
群れの先陣であるゴーレムたちが、体を構成する古い瓦礫を跳ね散らしながら、次々に倒れていく。
しかし、悪魔の兵器であるこいつらに、動揺なんていう繊細な心の動きはない。
かつてここに栄えた町の瓦礫を、今再び足の底で踏み砕きながら、後続がどんどん押し寄せてくる。
「クソッ!」
オーバーヒートしたアンサラーの装飾装甲にアイスチップを走らせ、僕はアンサラーを乱射し続ける。狙いなんかつけなくとも、撃てば何かには当たる。
何体かは僕に気づいてこちらに例のビームを撃ってきたけど、途中で別のゴーレムに当たったりして統制はまったく取れていない。
ゴーレムたちの歩みが遅いのにも救われてる。
まだ川まで到達できた個体はゼロ。
いけるか――!?
そう思ったとき、土煙が汚す青空に、白い影がよぎった。
ガーゴイルどもだ。
土煙にまぎれて侵攻してきやがった。クソ!
地上のゴーレムは一度おいといて、空を優先だ。あっちは地形もへったくれもなく前進してくる。
ガーゴイルを落としていく。
狙撃は精密。リーンフィリア様の加護を身近に感じられる。
ガーゴイルの狙いは町らしく、こっちに応射してくる個体はわずかだった。
どうにか群れの一つを落とし切ったけど、奥の空にはまだ後続が見えてる。
「待てコノヤロウ!」
僕は反転して、一旦放置したゴーレムたちを追う。
すでに何体かが川までたどり着いている。
走りながら銃撃!
後ろから撃つなんて騎士として恥ずかしくないのかと言われそうだけど、少しも恥ずかしくないね! 敵に後ろを見せるヤツが悪い!
橋を渡っているヤツもいたけど、気にせず川に足を着けているヤツもいる。
瓦礫と土塊でできたゴーレムは水が苦手のようだった。水流はさほどでもないのに、歩みがさらにノロくなってる。
これは僥倖! 橋の上を一掃してから、川にいる連中を一体ずつ破砕していく。
「どうなの騎士!? 状況は!?」
「かなり頑張ってるよ! このままなら、何とか――」
余計なことを言ったときだった。
草原を激しく踏みつける振動が、離れた僕のところまで伝わってきた。
ぎょっとして群れの方を向く。
まわりにいるゴーレムよりも二回りは大きな個体が、ゆっくりと町に近づいてきているのが見えた。
「あれは中型ゴーレム! エリア一でもう出てくるのか!?」
「何!? 何があったの!?」
「何でもない! 迎撃する!」
《これまでのヤツとは違う、小山のような巨躯。あれが町に到達したら、とてつもない被害が出る。ここで倒しきらなければ、私の負けだ》
中型ゴーレムは今までのゴーレムの強化版といったところ。大型になると聖獣パートで相手をするしかなくなる手合いだ。
こいつを倒すには手順がある。足を破壊して、機動力を殺す。その後は接近しての殴り合いだ。
『Ⅱ』の僕にはアンサラーがある。
遠間から足下を撃ちまくって、まずはヤツの動きを封じる!
それに中型が出てきたということは、これが最後のラッシュである可能性もある。
凌ぎきれば僕の勝ちだ!
射撃。
アンサラーの魔法弾が、草の穂を撫でるように割りながら、中型ゴーレムへと接近する。
着弾!
けれど、命中と同時に飛び散った瓦礫の量は、遠目に見たことを考慮しても小さかった。
威力が距離で減衰している? それとも単に防御力の差か?
撃ち続けても、中型が怯む様子はない。
悩む間にも、地上部隊、空中部隊は進軍を続けている。
クッ――! いつの間にか、何体かが川を越えた……!
中型は小型に増してのろい。ヤツは一旦放置だ。渡ったヤツらを叩く!
僕は大急ぎで町へと引き返す。
その最中にも、ガーゴイルが頭上を何体か抜けた。
中型に気を取られすぎだ、このバカクロー!
小型ゴーレムはすぐに排除できた。でも、ガーゴイルは何体町に侵入したかわからない!
幸い、町の端はまだそれほど家屋がない。
人もほとんどいないはず――
「!!?」
僕は目を疑った。大きなシャベルを抱えた子供が一人、建物の陰から顔を出したのだ。
きっと、家の中にシャベルがなくて、探しに出ていたのだろう。
少年は物陰から物陰へ素早く移動しながら、家に帰ろうとする。
路上に敵影はない。しかし、上空にガーゴイル!
「隠れろ!」
僕は叫んでアンサラーをガーゴイルに向けた。
直後、背後からの衝撃で吹っ飛ぶ!
「なっ……!?」
地面を転がる最中に、ゴーレムのビーム光の残滓が見えた。
後ろから接近されていた!
「クソがああああああああああ!」
僕は体が回転をやめるよりも早く、少年とガーゴイルを目で探す。
家の外壁に追いつめられた子供の顔が、ガーゴイルの振りかざした腕に、凍りつくのが見えてしまった。
アンサラーの銃口を向ける猶予もない。
僕にできるのは、血に染まったような赤い視界の中、一つの命が削り取られるを黙って見ていることだけ。
何が騎士だ。何が闘犬だ。
今この瞬間。完全にただの役立たずである僕に、目指した理想は霧の奥へと消え去った。
代わりにやってくる、永遠に消えない錆びた楔。自分自身に償いを求め続ける声が、すでにその予兆を見せている。――ちくしょう!!
そこから逃れたいと思う弱い心が、わずかにまぶたを閉じさせようとした、瞬間――!
町の風景を引っ掻くような五つの光の筋が、ガーゴイルの背中をなぞった!
「グエエエエアアア!」
硬質の皮膚を深々と抉って裏側まで突き抜け、五分刻みでガーゴイルを解体した切っ先は、剣でもなければ、槍でもない。
手甲の隙間から、蜘蛛の足のように細く伸びた爪。
「早く、逃げて」
その言葉に、少年はこくこくうなずいて道を走っていった。
僕は見とれる。
すらりとした背中。
武具のような右手。
堅牢な左脚。
鱗が閉じて鋭さが増した尻尾。
剣よりも真っ直ぐ突き立つ彼女の姿に。
「騎士! 女神様がパスティスを〝従者〟にしたわ! 彼女と合流して一緒に戦って! 聞こえてる騎士!? ちょっと、返事しなさいよブルドッグ!」
ああ、ああ、聞こえてるよ天使!
だけど声が出ない。嬉しくて!
そのかわりに僕はこうする!
スッ……!
コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ! コレ!
合計八コレよくやったパスティィィィィィィイイイイス!!
【『Ⅱ』では共に戦う仲間がいる!:8コレ】(累計ポイント-44000)
お ま た せ




