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第二百六十話 リジェネシス

 世界が着実に連結していく中で、待望の技術革新が起こった。

 これもまた、振り返ってみれば、ご都合主義的偶発というより必然だった。


 異なる技術体系が遭遇した時、そこから新たなものが生まれてくるのは歴史的に見てもごくありふれた現象。


 特に、地上の民と悪魔たちは、かたやイグナイトと魔法を組み合わせた魔導工学技術、かたやアノイグナイトと旧神族の御業を組み合わせた邪神工学技術とも言うべき似て非なる主流を持っていた。似た部分で繋がり、非なる部分でぶつかった時、何かが起こらないはずがない、と僕が心から信頼する技術屋たちは語ったのだった。


 アルルカ曰く、今、地上の技術は、数百年分の進化を一挙に遂げてしまったという。


 本来、様々な制約や利権といった衝突の中でのろのろと進むはずのものが、生存の本能を旗頭に、一気に突き進んだ。


 それを元に、僕が考案し、技術班が最適化と実現にこぎつけた「究極秘密兵器」が造られた。

 本来なら、一年では到底できないはずの作業を、参加できるすべての者たちが総力を挙げて、成し遂げた。


 すべての備えは、整った。


 ※


 その日、多くの人々がグレッサリアの特設広場に集まっていた。

 半壊の憂き目の後、その後の展望を考えて都市内最大規模の広場として、大きな再開発が行われなかった土地だ。


 今、そこは地上のあらゆる種族が、分け隔てなく、平らな土地に肩を並べて立っていた。

 明日、夜明けより、計画は最終段階に入る。

 すなわち。


 万全の準備と、最上の士気を持っての、決戦。


 これはそのためのセレモニーであり、グレッサリア全体だけでなく、世界中のあらゆる土地で、士気高揚のためのイベントが開かれていた。


 声を世界中に届けるマイクを前に、リーンフィリア様の挨拶が終わると、会場は割れんばかりの拍手とタイラニー讃頌さんしょうに包まれた。

 優しくも勇ましい、女神の鼓舞だった。


 続いて、僕が壇上に上がる。

 会場は水を打ったように静まった。


 女神の騎士。この計画の実質的な立案者が僕であることは周知の事実であり、誰もがその言葉を求めていた。

 マイクを通じて、世界中の意識が僕の肩にのしかかるのを感じながら、不思議と緊張や恐れはない。


 今は、誇らしさ、しか。


「みんな、今日まで本当によく頑張ってくれた」


 兜を脱いで広場を一望した後、僕は語りかけた。

 あまりにも多くの参加者がいる計画だから、僕の素顔を初めて見るという人も少なくなかった。驚きの息がもれたふうにも聞こえたけれど、僕はもう、今の自分の面構えに、いかなる引け目も感じてはいなかった。


「この中の、そしてこの世界の誰が欠けていても、ここまで万全の体制を整えることはできなかった。そのことについて、感謝を述べるとともに、称賛を送りたい」


 しわぶきひとつ漏れない会場。けれど、人々の無数のうなずきが応えてくれた。


「知ってのとおり、この世界はオゾマという恐るべき敵に包囲されている。〈ダークグラウンド〉の外から来た人たちは、この曇天の上が巨大な眼に埋め尽くされていることを知っているはずだ。オゾマはこの世界と同等の大きさを持ち、強さを持っている」


 緊張、改めて訪れる戦慄。


「僕たちはそれに対抗するために、世界中の力を一つに束ね合わせた。これは額面通りの言葉だ。はるか昔、オゾマは天界を襲い、この世界から本来の姿を奪った。その時、戦ったのは大地神だけだった。だから力及ばなかった。けれど、今回は違う。この世界のすべての命が、戦うための力を発揮する。だから今、僕たちの力はオゾマに匹敵している」


 黒々とした悪魔たちの影が、賛同するようにうなずくのがわかった。彼らの近くにいる者たちが、過去の勇気を称えるように、堅牢に盛り上がった肩にふれる。


「けれども、大事なのはこれからだ」


 僕は浮かれる士気を引き締めるように言った。


「明日、僕たちはオゾマとの決戦に臨む。この世界において、最大範囲、最大規模の戦いになるだろう。今、僕たちはオゾマと互角。なら勝てるかどうかは、みんなの奮闘にかかっている。けれど恐れることはない。怖くなったら、隣を見ればいい。そこには必ず一緒に戦う仲間がいる。この、いずれ神話として語り継がれるであろう戦いを、これまで共に乗り切ってきた仲間が」


 会場の多くで目配せが起こる。

 どこを見ても、ここ一年、共に働き、共に食い、共に寝た、見知った顔が迎える。


「――今、神話と言ったけれど、この神話の中心人物は、リーンフィリア様だけじゃない。誰かわかるかな」


「女神の騎士ツジクロー様!」

「パスティス様!」

「マルネリア!」

「アルルカ!」

「リーンソフィア様!」

「スケアクロウ!」


 色んな声が飛び出す。僕は手でそれを制し、腹の底から力と自信を込めて、言った。


「違う。全員だ。この場所、この世界にいる全員がそうなる」


 ――!!!!!

 僕の声に応えるように、会場の空気が、地面ごと数センチ持ち上がる気配がした。


「明日、二度目の創世記がやってくる。かつて白亜王が創った世界を、今度は僕たちがもう一度再生させる。その神話ではすべてが主人公だ。誰一人として脇役で収まる者はいない。誰もが語り継がれるべき物語を持つ! オゾマに支配され、侮辱され、そして消されようとするこの世界を救った“神”の一人として!」


 声なき声が地面を震わせる。みなの心の中心で何かがうなっているのが伝わった。

 僕は拳を振り上げ、言葉を強くする。


「オゾマから世界を奪還し、自分たちが生きる場所を勝ち取れ! リーンフィリア様を救い、すべての大地神たちを怒りの楔から解放しろ! 命はどれも平らな場所に並んでいる。この戦いに部外者はいない。守られるだけの者もいない! 誰もが戦い、誰もが自分の力で勝利を掴む。オゾマに自分を証明しろ。ここにいる。ここに生きている! そして生き続ける! 勝つのは僕たちだ!」


 う、おお、おおおお、おおおお……!!!


 会場の感情は飽和状態。一息、風が息吹を吹きかければ、そのすべてが見たこともない連鎖爆発を起こすだろう。

 そして僕はカルバリアスを掲げ、声高らかに宣言する。


「さあ諸君、再世記リジェネシスを始めるぞ」


 瞬間。

 広場が、街が、大地が、世界が、生まれ変わる咆哮を解き放った。


少年よ神話になれ!

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