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第二十四話 目覚め

 僕たちは町へと戻り、畑荒らしの被害に遭った、主立った人々に集まってもらった。

 結構な人数になった。畑は町の共同管理だから、担当範囲は無傷だった人も、真相知りたさに集まってきているようだ。


「みなさん、安心してください。畑荒らしは捕まえました。黒幕も倒しました。もう事件が起こることはないでしょう」

「おおっ!」

「さすがは女神様の騎士!」


 町人たちから上機嫌の喝采があがる。僕は話を続ける。


「今言ったように、畑荒らしと、それを指示した者は別です。彼女は極めて悪質な存在に、無理矢理盗みをやらされていたんです。本当はもっと重要なものを盗んでくるように言われていましたが、彼女はそれに逆らい、自身が傷つくことも厭わなかった」


「おお……」

「ひでえ話もあったもんだ」


 ため息が僕の前に広がった。


「それでも、彼女は盗みをした過去を清算する必要があります。どうか、謝罪を受け入れてあげてほしい。紹介します、パスティスです」


 建築用に積んであった土ブロックの山から、パスティスと女神様たちが一緒に現れた。


『――――!!!』


 町人たちは息を呑んだ。

 彼女の、異形に。


「これは一体……」

「あれは何なんだ……?」

「し、尻尾もある……」


 みな、僕や女神様の手前、「バケモノ」という単語を必死に呑み込んでいるようだった。


「や、野菜、盗んで、ごめん、なさい……」


 リーンフィリア様とアンシェルに支えられるようにして、パスティスは頭を下げた。

 彼女の人生においては、悪いことをした後には悲惨な折檻が待っていた。震えているのはそのためだ。僕らが今何を言ったところで、彼女の世界はそれまでそうだった。そう簡単に変えられはしない。


「お、おう、そこまで言うなら、許すけどよ……」

「あ、ああ。ゆ、許すよ。許す」

「うん。べ、別にそこまで深刻な被害じゃなかったしね……」


 ばらばらと、恩赦の言葉が述べられる。しかし、彼らの心は、もう畑荒らしなんて些末なことを気にしてはいない。


「パスティスには、これから僕らと行動を共にしてもらいます。何かあったら、彼女に伝えてください」

「えっ、そうなんですか」

「わ、わかりました……」


 人々の引きつった笑み。

 その中で一人、恐怖心や不安よりも、ほんの少し好奇心が勝っている人物がいた。

 僕よりやや年上。二十歳くらいのお兄さん。


「あ、あの女神様。変わった人、ですね……その人」


 パスティスを示して言う。


「はい。パスティスはとっても可愛いです」


 リーンフィリア様はにこにこ笑いながら応じた。これは別に頼んだことでもなく、女神様は誰だろうと分け隔てなく、慈愛を降り注いでくれるのだ。


「か、可愛い……? そ、そうですね、ハハ……可愛いと、思います」

「ほう……。あなたもわかりますか」


 僕はキラリと目を光らせた。


「えっ」

「実は僕も最初はちょっと、これは……? と思ったんですけどね」

「は、はあ」

「彼女、綺麗な肩をしているでしょう。引き締まった腋もいい……!」


 僕はパスティスの肩を、兜の面で示す。


 今の彼女は最初のボロ着姿じゃない。〈シャックスの洞窟〉で拾ってきた、スカート付きの、黒いレオタード風衣装に身を包んでいる。シュッとした彼女のボディラインがよくわかった。

 タートルネックだけれども、肩は剥き出し。僕の信奉する腋も完備している。


「肩に腋ですか。はぁ……ボクにはよく……」

「おや。じゃあ背中ですか?」


 僕はパスティスを捕まえると、ぺっ、と体ごと横を向かせた。


「えぇ、背中ですか?」


 青年が疑わしげに聞いてくる。


「このライン」


 僕はつうっと、パスティスの背中を指でなぞった。


「……っひっ。き、騎士、様……」


 パスティスが思わず仰け反るけど、今はちょうどいい。


「彼女は非常に姿勢がいい。わかりますか? 背筋をピンと伸ばすと、背中がやや仰け反って、おへそのあたりを前に突き出す形になるんです」

「…………!!」


「横から見たときのこの背中から腰への曲線。綺麗でしょう。ほっそりした彼女の体ととてもよくマッチしていて、骨格レベルのエロスってヤツです……!」


「!!」

「!!!」

「!!!!」


 町人たちの目の色が変わりだした。


「それと、彼女の右腕には、このガントレットをはめてもらいます。パスティス、つけてみて」


 パスティスが、ネイルザッパーの腕に、僕が適当に分解した防具を装着する。

 手甲が守るのは、前腕から手のひらあたりまで。鋭い爪を持った五本の指はそのまま防具から突き出す形になった。


「こうして見ると、まるで一つの武具のようでとてもカッコイイ! これを見たら、相手はその迫力にあっという間に怖じけづきますよ。でも彼女は味方だ。畏怖がそのまま助けになる。そしてもう一度言いますが、やはり、このフォルムはカッコイイ!」


「!!!」

「!!!!」

「!!!!!」


 また一人、また一人と、町人たちが僕の近くに寄ってきた。

 続けて、サベージブラックの左脚へも言及する。


「パスティス。これを右脚にはいて。あと、靴もね」


 僕はパスティスに二つの装備を渡す。

 町人たちの視線がそれを追う中、彼女はリーンフィリア様とアンシェルの手を借りて、装着を完了した。


「彼女の左脚に合わせて、右脚には黒ニーソを用意しました。左脚はややつま先立ちのような形をしているので、右脚のブーツも少し踵があるものにしています」

「バランスが……いい!」


 誰かがつぶやくように言った。


「イグザクトリー (そのとおりでございます)。ニーソにより、左脚の違和感は消えます。むしろ、強固な脚防具を身につけているようにすら見える! スカートとニーソが生み出す絶対領域は、強固さと無防備さの落差が激しければ激しいほどいい。上から、ミニスカート、地肌、ニーソ、脚防具の流れは、天が定めた黄金の順路……!」


「確かに!」

「お見事……!」


 観衆からの声が飛び始めた。


「しかし、真に恐るべきはそこではないッ……!」

「えッ……!?」

「それはどういう……!?」

「説明してくれ騎士様!」


 僕ははやる彼らの声を手のひらで軽く抑えつつ、


「見てのとおり、彼女の左脚は途中から黒く、人のものではなくなっている。これは、素足ということです」


 ふむふむ……と逐一うなずく聴衆。


「ということはつまり、彼女の左脚は、常に脚防具+ニーソの属性を持つということ!」

『なっ……!!』

「たとえば彼女が風呂に入るときでもそのまんま!」

『なあっ……!!?』

「そして片方だけということが、何を意味するかわかりますか?」

『ぬああああああっ……!!!?』

「〝脱ぎかけ〟ということですよッッッッッッッッ!」

『フォアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 絶叫、熱狂!


『パス、ティス! パス、ティス!』


 興奮のるつぼと化した町の一角で、僕は拳を振り上げ彼らを煽る。


「ちょっと騎士ィィィ!? あんた一体、何考えてるのよおおお!?」


 八重歯を向いたアンシェルが噛みついてきた。


「こんなイカれた集会のためにあんな格好させたってこと!? パスティスの気持ちも考えないで、どういう了見よこの狂犬ンンンン!?」


 僕はパスティスコールを続ける聴衆に負けないよう、怒鳴り返す。


「知らああああああん! パスティスとは昨晩初めて会ったばかりだ、彼女の人となりを説明するには僕にも理解がたりない! だけど! 彼女が最初に誤解を受けることがあるとすればそれは外見からだ! だからそれについての僕の見解を叩きつけた! 彼女の体は醜くなんかない! すごく綺麗で魅力的だと言ってやった!」


「……ぐあっ……!? あんたがさっき言った変態的なことは何一つ理解できないのに、今のはすごく反論しにくい!」


「理解なんぞいるかあああああ! 僕の言葉だ、価値観だ! 誰に押しつけるつもりもない! そのかわり誰に折られるつもりもない!」


「そうだ! そうだよ天使様!」

「騎士様は押しつけてはいない! 俺たちの中にある、まだ形になっていなかったものを言葉にしてくれただけだ!」

「わかったッ! 今ッ! 俺たちは目を閉じたまま探し物をしていたことをッ!」


 大衆の声を背に、僕は、アンシェルの引きつった顔にさらに言葉を突きつけた。


「女子にはわからないことだよ! 男には旗がある! 誰に理解されずとも、掲げ続けなければ生きていけない御旗が! 縞パンツ柄の御旗がなあ!」


『ウオオオオオオオオオオオオオ!!! シマパンツァアアァァァ……!!!』


「カ、カルトだわ……!!」

「何でもいいさ! 気に入らないのならぶっ飛ばせよ! 僕は決して逃げない!」

「ならとりあえずぶっ飛べええ!」

「ほがあ!」


 両足で押し出すテクニカルなドロップキックを食らい、僕は地面を滑った。

 しかし、そこに聴衆が群がり、猛然と僕を担ぎ上げる!


「俺たちは騎士様の味方だあ!」

「巡れ! 御輿のお通りだ!」

「パスティス様の魅力を町中に広めるんだ!」


 持ち上げられた僕は、


「パスティス、手を!」


 地面で呆然としているキメラ少女へ手を伸ばす。

 彼女は何が起きているのか、まるでついてこられていない顔で、けれども僕の手を取った。一息に引っ張り上げる。


「よーし! みんな、行くぞォ!」

『ドリャオオオオオオオオオオオオオ!!』


 こうして僕らは町を練り歩いた。

 女神様と天使を置き去りにしたまま。


 途中、何の騒ぎだと集まってきた男たちを次々に取り込み、町はキメラっ娘狂騒に席巻されていく。


 そして、町の男の半数近くが祭に参加したあたりで――


「か、かあちゃん!」

「お、おまえ! 違うんだ、これは……」

「メアリー聞いて、これは聖戦なん――」


 道で待ちかまえていた女衆に捕まり、メチャクチャ怒られました!


 解散!


 僕らの祭はわずか一時間で終了したけど、パスティスは、男性からは新たな可能性を秘めた神秘の少女として、女性からはバカから保護してあげないといけない不幸な少女として認識され、受け入れられた。

 こうして、彼女は、ようやく安心できる場所に出会った。


 コレでいいんだよ、コレで!

 

【キメラでも可愛いよ!:1コレ】(累計ポイント-52000)


生き残った数少ない人類がこいつらだという現実に震えろ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 村八分しそうな閉鎖的・排他的な人間と違って、こんな感じでノリの良い人たちは嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ~!!(某ライダー映画のドー○ント並感
[一言] 色んな可能性を押しつけられるキメラ娘ってそういう意味!?!?
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