第二百三十七話 100万bloodトラップコンボ
――罠を仕掛ける。これまでで最大級の。
僕の頭の中でもっとも輝いた作戦が、この街の流儀に沿っていたのは、ある意味で必然的に思えた。
多くの種族が揃う史上稀なこの街で育った、何よりも新しく瑞々しい力。古い時代の怪獣を打ち倒すにこれほどふさわしいものはない。
パスティスたちが上空で囮役を続けてくれる間、僕は大急ぎでリーンフィリア様のところに戻った。
正確には、突撃隊のところへ。
「女神様、彼女たちを僕にください!」
「<〇><〇>」
「いや言葉足らずでした! 彼女たちの力を僕に一時的に預けてください!」
「わたしたちを?」
軍曹が訝しげに聞く。
僕は作戦の概要を早口で告げる。
「〈雪原の王〉の角を折って、防御手段を奪う。それから、竜たちで高空からの魔法攻撃で心臓を撃ち抜く」
作戦はシンプルだった。この土壇場での作戦なのだから、むしろシンプルさこそ重要だ。
「そのための前段階として、仲間が罠を使ってヤツの足を止める。突撃隊に頼みたいのは、角を折る際の攻撃役だ」
「……我々のアンサラーではあの角を破壊できないぞ」
軍曹はすべらかな額にしわを寄せて言った。確かめるまでもなくあの七支刀は〈雪原の王〉本体よりも硬い。だからこそ武器にもなり防具にもなりえているのだ。
が。
「これを使う」
僕はベルトポーチからある物を手に取って見せる。
〈アグニ〉〈アルマス〉〈ヴァジュラ〉の樹鉱石。
「何これ?」
天使たちがざわめく。
「これをアンサラーのディスプレイに滑らせることで、火、氷、雷の属性弾が撃てるようになる。でも今回使うのは、これを各属性一発ずつ同じ場所に当てた時に発生する裏ワザ――第三のルーンバーストだ」
これが、ここにいる僕たちにしかできない本作戦のキモ。
十挺以上からなるアンサラーでの同時ルーンバースト。
空間座標に固定された超濃縮魔力攻撃体ならば、あの七支刀の威力にかき消されず攻撃できると信じた。
僕は樹鉱石を拳で砕き割り、破片を天使一人一人へと渡す。
「ほう」
「へー、きれー」
「こんなので弾が変化するのか……」
興味津々に樹鉱石を眺める彼女らに告げる。
「そのサイズで効果を発揮するのは一度が限界らしいから、くれぐれも使う順番を間違えないでね」
「ふん、そんなマヌケはいない」
軍曹が鼻を鳴らして言った。それから、わりと大きめの〈アグニ〉の石を見つつ、
「オメガは、アンサラーのオーバーヒートまでの猶予を異常に減らすことで、一発の威力を高めたりしているようだが、いけ好かなかった。戦いは何が起こるかわからない。自ら継戦能力を削るなどと、バカげたやり方だ。だが、女神の騎士。これはいいな。アンサラー本来の機能はまったく衰えないスマートな改良だ。気に入った。こんな工夫ができるとは、おまえは頭がいいな」
「僕一人の知恵じゃない。いつでもね」
笑って返す。
「リーンフィリア様。我々は……」
「わかりました。みんな、攻撃時は騎士様の指示に従ってください。この場を離れることを許可します」
『はっ!』
これで攻撃側の準備は整った。
次は、罠班だ。
アディンに飛び乗り、超兵器倉庫があった場所へと急ぐ。
そこでは、仲間たちが懸命の発掘作業を行っていた。
お目当ては、ここに保管されていた超兵器パーツの集合体、インゴットだ。
それで〈雪原の王〉を足止めするだけの強力な罠を作らなければいけない。
倉庫自体は完璧に倒壊していたけれど、ドルドやアルフレッドらパワー組によってインゴットを掘り出すこと自体は成功したようだった。
「アルルカ、どう?」
空での囮役から作業班にシフトしていたアルルカは、しかし暗い顔を僕に返してきた。
「大部分のパーツがオシャカになってる。幸いイグナイトは無事だが、パーツが圧倒的に足りない。カイヤを分解しても、まだ……」
く……。パーツ不足か。
超兵器のパーツは、広さに余裕のある北部都市の方にかなり移してしまっている。今から取りに戻るのは、時間的にも情勢的にも困難だ。それでも、やるしかないか……。
作戦に暗雲が立ち込めた、その時だった。
「あたしがいる」
弾むような軽さで声が割り込んできた。その場の全員がはっと顔を上げる。
「あたしのパーツを使えばいいよ」
「アシャリス……!」
声の主は彼女だった。
ここ最近の〈オルトロス〉との手合わせで様々な個所を改良した体に手を当てながら、小首でも傾げるような調子で言う。
「母さん、みんな、何でそんな不安そうな顔してるの? あたしは機械だから、大事な部分が残っていれば平気。それが機械の強み。そうでしょ?」
「た、確かにそうだが、パーツとして分解されてしまったら、おまえはひどく脆く……とても危険な状態になってしまう。うっかり瓦礫の破片が当たっただけでも、どうなるかわからない」
「危険なのはみんな一緒だよ」
アシャリスは大型マニピュレーターをアルルカの肩に置いた。
「ここにいるみんなも、ここにいないみんなも、みんな命がけで戦ってる。安全な場所なんてない。そしてそれを、そのこと以上に恐れる必要はない。それがドワーフ戦士ってものでしょ」
彼女に豊かな表情があったのなら、ウインクでもしていそうな声音。アルルカは硬く目を閉じ、自分の中で何かが固まるためのわずかな時間を置いてから、アシャリスの手に自分の手を重ね、うなずいた。
「わかった。でも安心しろ。おまえは必ずわたしが守る……!!」
そして彼女は目元を乱暴に拭い去ると、その場の全員に聞こえる凛々しい声を解き放った。
「よし、みんな作業に入ろう! 時間はないぞ!」
罠はあっという間に完成した。
元々、モニカたちが使っている罠はアルルカがデザインしたこともあり、基本理念はそのまま運用できたからだ。
この間、上空にいるパスティスたちは極めて繊細な誘導を行ってくれた。
〈雪原の王〉にこちらの動きを悟らせないよう、常に危険に身を置いて敵の注意を引きつけ続けてくれた。
そうしてひねり出された時間を、誰一人として無駄にしかなかった。
「マルネリア、罠の準備いいか!?」
「大丈夫。いつでもいけるよ!」
「アンシェル、突撃隊は!?」
「みんな撃ちたくてうずうずしてるわ」
「OK! ではこれより、〈100万ブラッド作戦〉を開始する!!」
さあ、仕上げの時間だ。
序盤からbloodを稼げると罠作りが楽になるぞ(攻略本感)
DLC天使「兵が三体やられたか。まあいいや。どうせ駒の中では最弱」
アンシェル「ライフで受けるわ」
ディノソフィア「まあ『信頼』かけときゃええじゃろ」
シリアスさん「誰かツッコめよお!!」




