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第二百三十三話 よみがえる翼

「こっち向けおらーっ!」

「かかってこいよー! びびってんのかー!」


 チンピラ並感の悪態をつきながら、ディーとエルのアンサラーが、二本の七支刀を頭部にいただく大鹿へと光を撃ち放つ。


 針の一刺しにも劣るサイズ差ではあるけれど、目の近くを通った光に反応したのか、〈雪原の王〉はぎょろりと目を動かし、こちらを見た。


「う、うわ……! よーしきょうだい! ヤツの気を引いてやったぞなんとかしろ!」

「後は任せたー!」


 このクソが、と言いたいところだが、


「よくやった! 後は僕に任せろ!」


 僕の裏側に退避した悪質DLCコンビにそう言い放ってやる。


 ついさっき開戦したばかりのこの戦い。一見、混沌めいているが、最優先すべきはこの〈雪原の王〉一匹である。

 こいつを仕留めれば、グレッサリアの復興を阻むものはなくなる。そうなれば地上の件は一旦放置可能。天界からの沙汰がどうあれ、アンシェルの取り合いを無制限一本勝負に持ち込める。


〈雪原の王〉討伐の大きな障害になるのはもちろんオメガ。

 彼女の狙いはアンシェルを回収すること。それまでに〈雪原の王〉を仕留められなければ、僕らの勝利は苦虫と同じ味になる。


 予備隊は二人を守ってくれるはずだ。たとえ同僚のオメガが相手でも。


 あと残っているのは、悪魔サイドの二人。ディノソフィアとスケアクロウ。僕らの味方にカウントしていいんだろうけど、にらみ合っている陣営がどちらも天界関係者なのが判断を難しくさせる。天使にとって、悪魔はやはり敵なのだ。


 であれば。

 不測の事態が発生する前に、この戦いを即刻終結させるのみ!


「アディン、ディバ、トリア! 前回のリベンジだ。〈雪原の王〉におまえたちの力を見せて――」


 途中だった僕の台詞は、突き上げられるような地鳴りによって中断させられた。


 ブオオオオオオオ!


 空まで揺するような咆哮を上げ、〈雪原の王〉はその場から駆け出していた。


 狙うのは僕――ではなく、さっき角の片方を折ったスケアクロウ!

 野郎、しっかり恨んでやがったか!


 威嚇するように振り回される頭は、灼熱する十四の太刀筋を虚空に引き続ける恐るべき処刑器具だった。

 もはや同サイズのバケモノ相手でもオーバーキルにしかならないであろう攻撃力に対し、スケアクロウの対応は。


 無造作に正面から突っ込んでいく!?


 バカかあいつ!? と思う反面、もしやと期待する感情が沸き立つのを抑えられない。

 バケモノサイズのバケモノである〈雪原の王〉に対し、人型サイズのバケモノであるスケアクロウの一騎打ち。


 大剣アンサラーの軌跡が、縦横無尽の七支双刀の太刀筋の中に飛び込んだ。

 再び、落雷めいた轟音。


 スケアクロウは、弾かれるように――いや、弾かれる力を利用するように、七支双刀の斬撃をすり抜けてきた。

 対する〈雪原の王〉も、激突地点を通り過ぎ、数軒の家屋を紙細工のように踏み壊した後に振り返る。


 正面からの打ち合いは互角……!

 あの黒騎士の強さは一体どうなってるんだよ。


「あっ、きょうだい、危ない……」

「えっ」


 ショートヘア天使のディーの警告を途中まで聞いた僕の耳は、その直後に通過した分厚い風切り音に、殴りつけられるような衝撃を覚えた。


「オメガだ!」


 ロングヘア天使のエルが、僕の腰にしがみついたまま叫ぶ。

 その一瞬後に、アンサラーの閃光が一斉に僕に襲い掛かった。


「うおおおおおお!!?」


 僕と天使たちはその場でヘッタクソな阿波踊りを踊ることになる。

 その間、地味にクソ天使たちが僕の背後をキープし続けたことは決して忘れないよ。


「と、突撃隊、あの人を撃っては駄目です! あの騎士はわたしのです!」

「女神の騎士ならアンサラーの何発か食らったって倒れはしませんよ! 弾幕薄いぞ、何やってんの!?」


 リーンフィリア様とオデコ軍曹が叫び合ってるのが聞こえてくる。


 どうやら、予備隊の銃撃に追い立てられてオメガが飛び回っているのに巻き込まれたらしい。いや、オメガのことだから、わざとこっちを撃たせた可能性もある。


 アンサラーの光弾が通り過ぎ、ようやく上げられた視界の真ん中で、大きく切り返してくるオメガの飛行跡が見えた。

 よりにもよって、さっきとまったく同じコース。僕らに向かって突っ込んできている。早い話が、弾除けにするつもりだ。


「こ、の、やろうっ……!!」


 アンサラーで応射する。


「あは!」


 オメガは血の気が引くほど純粋に笑うと、四つの羽を自在に操りながら、こちらに突進する勢いを一切弱めることなく、すべての銃撃をよけきってみせた。

 そして、一気に加速!


「よけろきょうだい!」

「どけ、くそばかー!」


 DLCコンビに突き倒されていなければ、僕はオメガの突進をもろに食らっていただろう。DLC天使感謝!


「うぼあああああ!?」

「ひょあああああ!」


 感謝もつかの間、地に伏せた僕らを、オメガが通過した後に生じた傘状の衝撃波が薙ぎ払う。

 回転する世界の中で、そのまま突進した最強の天使が、女神様を守る守護天使たちをこちらと同様の手口で吹き散らす様子が見えた。


 応戦できたアンサラーの銃撃はまばら。


「バケモノめ……!」


 という誰かの悪罵が聞こえた。


「騎士様!」


 パスティスとアルルカがアディンたちを引き連れて駆け寄ってきた。

 見れば、二人は体の一部に輝く蛍光色を浴びている。


「コキュータルがこの近辺にも出没してる。今も数匹仕留めたところだ」


 カイヤで武装したアルルカが言う。


「それでどう動けばいい? 正直、〈雪原の王〉もオメガも、カイヤの装備では手が出せそうにない……」


 申し訳なさそうな彼女にうなずき返す。

 正直この戦いは、僕らが生身で行えるようなものじゃない。参戦している誰もかれもが、単体で怪獣と大差ない戦力を持っている。

〈オルター・ボード〉を見るまでもなく聖獣ステージ級だ。


「二人はリーンフィリア様について、近づいてくるコキュータルを撃退してほしい。突撃隊をオメガに専念させたい。アディンたちは地上からオメガを牽制。迂闊に飛び上がると、喜んであいつの盾にされるぞ。〈雪原の王〉は一旦スケアクロウに押し付ける!」


 アンシェルがさらわれたら、それだけで半分負けなのだ。今は防御に回り、反撃の機をうかがう。

 実質的な敵はたった二体なんだ。元気でいられるのは序盤だけ……のはず!


「どうにも……やっぱり予備隊だけじゃ物足りないですね……」


 ぞっとする声と共に、それまで飛燕のように空を駆けまわっていたオメガが、バスターアンサラーを斜めの二挺構えにする。


「相殺しろ!」


 僕の指示に応じた竜三匹が即座に天使の魔法を詠唱、いくつもの光刃を撃ち放った。

 突撃隊が放ったアンサラーの弾丸とも合流し、バスターアンサラーから吐き出された極太の光軸と中空でぶつかり合う。


 生じた火球の下弦は地表付近まで到達し、背の高い建物の屋根を水に溶ける紙ぺらのように飲み込んでいった。


 あいつ……今、マジで街ごと吹っ飛ばすつもりだったぞ……!!


「騎士、まだ生きてる!?」


 アンシェルの声が羽飾りから聞こえた、と思いきや、頭を上げた僕の視界に、彼女の本人の顔が映り込んだ。


「アンシェル、リーンフィリア様のところにいないとまずいだろ!」


 言いたいことは山ほどあるはずなのに、真っ先に口を突いたのはそんな内容だった。彼女は苦笑いし、


「オメガ相手にまずくない場所なんてないのよ。あるとしたらそれは、自分でこじ開けた場所だけだわ」


 アンシェルの小さな羽が、ボッ、と広がり輝く。


「捕まる前に、こっちからあいつを捕まえるわよ。騎士、あんたも来なさい。好奇心で猫を殺した罰よ」

「えぇ!? アンシェルがやるの?」


 僕が参加するのはもちろんいい。でも、アンシェルは、オメガとの約束に縛られているはずなのだ。だからこそ、リーンフィリア様がケンカを仕掛けた。


「わたしはもう、以前のわたしじゃないわ」


 するとアンシェルは自信満々に自分の胸に手を当て、


「わたしはリーンフィリア様の腕に囚われたいたいけな小鳥なの!」

「は?」


 救いようのないほどにやけきった顔で断言した。


「もうわたしは、何一つ自分一人で決めることはできないわ。わたしのすべてはリーンフィリア様の愛という名の鎖に縛られてしまったから。どこかの小汚い鉄くずの塊とは格が違うの。この差は革命的に明らか」

「何が革命的に明らかだ。変な言葉使うな」

「というわけで、わたしにはわたしの身を守る義務があるわ。ただ守られているだけというのは許されないのよ、ぐへへ!」

「アンシェル、よだれ、垂れてる……」


 パスティスに指摘され、アンシェルはズビッとよだれを吸い込んだ。

 きたない。

 さすがアンシェルきたない。リーンフィリア様の一言でこの変節だ。


 でも……良かった。

 何だか、こんなやり取りが二度とできなくなるような雰囲気が、少し前まであったから。

 こんな変態的な様だけど、いつも通りのアンシェルだ。


 ……。これがいつも通りというのもどうかと思うけどね!


「君の恥知らずなうぬぼれはおいといて、オメガを捕まえる話は乗った! アディン、僕を空に――」

「アディンじゃダメよ。生物的な挙動じゃ、オメガには追いつけない」


 言いかけた僕の台詞を遮り、アンシェルがぽんと背中に手を置いた。

 すると、ぱりぱりと放電するような音がして、僕の背中から光輝く翼が生えてくる。いや、翼の……骨組みみたいなのが。


「な、何これ!?」

「〈メルクリウスの骨翼〉。ゼロ番隊伝統の空間高機動魔法よ。この魔法だけは、今でも覚えてるのよね」


 アンシェルはふと寂し気に笑う。

 これが終わったら、全部話すから。彼女は、そう言っている気がした。


「これまでで一番の高速戦闘になるわ。目を回すんじゃないわよ」

「ああ。やってやろうぜ」


 僕とアンシェルは拳を突き合わせた。


まずは序盤戦の顔合わせ。


三番手、アンシェル。

「手札のカードから愛されわた天使を召喚! ターンエンド」

シリアスさん「!!?」

SP2000→1000

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