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第百八十六話 繋がる世界

 セルバンテスたちは二、三日の試運転を経て遠洋――というか空へと乗り出していった。


 船の耐久性、保冷室に運び込まれた氷の状態、いずれも問題なく、マルネリアは古代ルーン文字を十分理解し、使いこなしていると断言してよかった。

 後は、彼らの旅が無事に済むのを祈るのみ……。


 だったのだが。

 わずか四日後にナグルファル号は戻ってきてしまったのだ。


 何かトラブルで引き返してきたのかと、僕らは大慌てで入り江へと急行した。が、桟橋に駆け寄った僕らに、セルバンテスは、


「大変なのよ騎士様! エルフたちがこっちにも水を持ってきてほしいって!」


 その一声は、迎えに出た人々を大いに困惑させた。


「へ? ドワーフのところに行ったんじゃなかったの? ていうか、途中で帰ってきたんじゃないの?」

「砂漠になんて二日で着いちゃったわよ! 風や海流に影響される船旅と、自力で真っ直ぐ飛んで行ける空の旅は全然違ったわ!」


 マジかよ。そんなに短くなるのか!


 それはそれとして、セルバンテスが語ったところによると、〈ブラッディヤード〉にはなんとエルフの一行が訪れていたらしい。〈ディープミストの森〉の状態が安定したおかげで、大陸の外に目を向けるエルフが現れたようだ。


 彼女たちは土産物として――あるいは自分たち用に――茶葉を大量に持ち込んできていて、以前、エルフのお茶をちょっとだけ飲んだことのあるドワーフたちはこれを大歓迎していた。


 そして、試しに〈ダークグラウンド〉の水でお茶をたてたところ、飲み慣れて舌が肥えたエルフたちの口が七色の光を放つほどに美味しいものが出来上がったという。


「それでセルバンテスがすぐに持ってくって約束しちまってなあ」


 アーネストが可愛い顔を面倒くさそうに歪めて言う。


「だって嬉しかったんだもの! 交易の醍醐味ってお金じゃないの。品物を渡した相手の喜ぶ顔が直に見れることなのよお!」


 筋肉をみしみし軋ませながら身をよじる彼は、本当に嬉しそうだった。

 予想外のできごとに、僕は仲間と顔を見合わせる。


 ドワーフとエルフの大陸が繋がった……!


 主人公が介入せずとも、まるでクリエイトパートでNPCが勝手に街を作っていくように、住人たちが世界をダイナミックに動かしていく。

 それを見たプレイヤーは概してこう思うだろう。


 このゲームは、生きていると!


 これは!

 久方のォォ!


 コレ! コレ! コレ! コレ! コレ!

 

【この世界が最終的にどう育つかは製作側にもわかりません:五コレ】(累計ポイント-28000)


 ってことだろスタッフさんよお!


 これは周回プレイごとに、街の景色だけじゃなく、世界の全景が大きく異なる可能性まである。NPCの志向とプレイヤーのプレイングが一緒になってそれを作っていくとしたら、その完成形は恐ろしい多様性を持つことになるぞ!? いや、これは仮にの話だからコレ! はできないけど、もしそうならマジですごい!『Ⅱ』は、発売さえできていれば、ゲームの歴史を塗り替えていた可能性が……!?


「とりあえず、ドワーフたちからはチョーヘイキとかいうガラクタのパーツを山ほどもらってきたぜ」

「おっと……! 来たか!」


 僕とアルルカはうなずきあう。


『Ⅱ』に対する妄想はおいといて、僕らは切実な問題に直面していた。

 それは、コキュータル狩りの罠不足問題。

 交易を依頼したのは、その解決策を求めるためでもあった。


 ほしかったのはこの超兵器パーツ。

 アンクルとかアンクルとかアンクルとかで一向に発展しない罠を、もうこっちで作ってしまおうという算段だった。


 セルバンテスに言っただろう? “ピンチを助けてもらいたかった”とね!


 僕とアルルカが船に乗り込もうとすると、船底に続く階段から、がっしがっしと重い鉄の足音が聞こえてきた。

 超兵器のパーツを無理やり固めたインゴットだった。自分から歩いて出ていき、海岸に整然と並んでいく。


「なんか、前より動きが洗練されてない?」

「た、確かに……」


 僕とアルルカは目を丸くする。


 ふと、インゴットの一体が僕らの前に歩み出て、胴体に埋め込まれた装置の一つを起動させた。

 ざらついたノイズ音が聞こえ、


「ん? おい、もうしゃべっていいのか?」


 電子音に交じってドルドの声がそこから漏れ出てきた。


「父さん!?」


 アルルカが驚きの声を上げた。が、ドルドは無反応で、


「よし、じゃあしゃべるぞ。何だか緊張するな。……うるせえぞ、バンドイル! おまえらは作業してろ! おい、アシャリス。今のとこナシな。あー、元気でやってるかアルルカ。こっちはみんな元気だ――」


 一方的にしゃべっている。どうやらボイスレターのようだ。


「アシャリスの出す新アイデアに追いつこうとみんな躍起になってるよ。この声を残す機械ってのもこいつの発想でな。おまえに声を届けてやりたいって――おい、別に照れることねえだろう。立派なもんさ」


 収録時の風景を想像し、僕は自然と笑みが浮かぶのを自覚した。

 アルルカは少し戸惑うような、そして故郷を懐かしむような、そんな表情のまま、ボイスレターに耳を傾けていた。


「あ? ああ、長話はまだできねえのか。じゃあ本題だ。あれから超兵器もずいぶん新しくなってな。試作パーツも余りまくってるから、いいところを選んで送っといたぜ。現地に合わせて上手く改修しろ。それも修行のうちだ。後は……まあ、大丈夫だとは思うがな。その、何だ。体には気をつけろよ。聞くところによると、かなり寒い土地らしいじゃねえか。おまえは夢中になるとまわりが見えなくなるからな。ああ、もう時間かよ。じゃあな。女神様たちにもよろしく言って――」


 ピーという電子音に断ち切られ、ドルドのメッセージは終わった。


「タイラニーアーレよりも娘の体調を優先するなんて、アンシェルに聞かれたら説教ものだな」


 アルルカはそう言って、不自然に何度かまばたきした。


「よし、これらを元にモニカたちが使う罠を作ろう。そうすればハンティングも今よりずっと楽になる」


 彼女の言葉に、僕はうなずいた。

 セルバンテスとアーネストは、早くも次の航海に気持ちを切り替えており、


「さあ早く、次の氷を積み込まなくちゃ。可愛いエルフちゃんたちが待ってるわ!」

「おいおいもう出発かよ。ま、お高くとまったあいつらに、本当に可愛いものを教えてやりに行くか」


 うまく行っている。

 天罰に押し負けない流れがきている。

 乗るしかないこのビッグウェーブに。このまま南部都市を安定させ、次の街に向かう!


 ※


逢魔プラズマティック轟雷サンダー斬刑刃エクスキューションッ!!」


 罠を仕込んだ床を踏んだコキュータルが、地面から立ち上った紫電の茨に絡みつかれ、光の発散と同時にその心臓を破裂させた。


「罪科の天秤はおまえをギルティと断じましたわ」


 片手で顔を覆い、もう片方の手でビシイイイイーッと敵を指さしたモニカ・アバドーンの背後で、二人の暗黒騎士姫が異様な歓声を上げた。


「いい……! それいい……!」

「次ワタシ! ワタシの番デース! 早く代われバッタデース!」


 今まで一度も聞いたことのない、自らへの交代を催促する声を、モニカはポーズを崩さないまま退ける。


「フフフ……。いいえ、交代はまだまだ先ですわ。もっと試したい罠――じゃなくて必殺技がたくさんありますの。ね? センセ?」

「うむ! 今のうちにしっかり使い方をマスターしておくんだ」


 僕は師匠面しつつ、腕を組んで鷹揚にうなずいてみせた。

 よおおおし、狙い通りハマりやがったあああああ!

 心の中で「イエス! イエエエエエス!」と繰り返しガッツポーズを取る僕に、援護に備えていたアルルカが驚いた声を向けてくる。


「すごいな。見違えるようじゃないか。モニカたちの顔に恐怖がまったくない。戦いの中であれだけリラックスできるのは、熟練の戦士でもなかなかいないぞ。一体どんな特訓をしたんだ?」

「超兵器の罠のおかげさ。アルルカ感謝!」


 これは謙遜でも何でもなく、僕は彼女たちに特訓などしていない。

 すべては新型罠のおかげ。


 ここ数日の超兵器倉庫での苦闘を思い返す。


 交易のおかげで使えるパーツが増えたので、当初、この街にもタイラニック号や鉄騎様を作ってしまおうという案が出た。

 けれど、僕はそれでは足りないと思った。


 超兵器は基本的に全自動なので、狩り場に限定した戦いにはやや不向き。加えて、モニカたちの実戦の恐怖を克服するという課題にはまったく役に立たない。


 ドルドも言っていた。現地に合わせて改修しろと。

 慣れたやり方に頼るのではなく、常に頭を悩ませ続けること。それ自体が腕を磨く第一歩なのだ。多分!


 そこでたどり着いた答えが、性能はともかく何だかカッコイイ罠を作ってモニカたちを釣る! だった。

 さっきの雷撃地雷もそのうちの一つ。


 地面からゆらりと立ち上がった電撃が、一瞬の溜めの後、獲物を見つけた蛇ように一気に襲い掛かるモーションが最大のキモだ。ここの「溜め」の表現にえっらい苦労した。


 さらにもうワンフックとして、罠の名前はモニカたちに決めさせた。


 さっきの、えーと、合成樹脂の塊でできたプラスティック雷属性のサンダーおいィ?エクスキューズミーというのがそれで、狙い通り彼女たちのセントラル魂に火をつけることに成功した。


 ポーズや台詞に時間がかかる難点はあるものの、恐怖による好機の逸失はもはやないと判断していいだろう。プレッシャーから勝手に体力を浪費し、すぐに交代をせがむなんてこともない。一人一つの狩り場にも耐えられる。

 もはや彼女たちにとって、戦場は自己表現の場だ。


 一方で〈武器屋通り〉に、悲嘆にくれたような声も交ざり込んだ。


「我、出番、無?」

「殺してえよお……殺してえんだよォ……」

「ウオッ、ウオッ、ウウ……」


 強化されすぎた武器屋のおやじたちの社会復帰は、街の衆に任せよう……。


 こうして〈オルター・ボード〉にはない規格外の罠を用意することで、〈ブラッド〉の回収は一気に効率を上げることになった。


〈大階段〉と〈噴水公園〉の解放も、従来の罠の再現を待つことなく、じき実行されることだろう。

 いよいよ、南部都市の機能が元に戻る日がやって来たのだ!


中二ワードを正確に聞き取れないナイトに未来はにい

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