第十八話 とどめの聖獣カスタマイズ
《熾烈な空戦を乗り越えられたのはリックルのおかげだ。私は大空の勇者に感謝しなければならない。彼ならば、かつての盟友と見劣りすることのない活躍をしてくれるだろう……》
本当にそう思うか主人公?
ひょっとしてあんただけ違うゲームをやってたんじゃないのか?
あるいは僕だけが?
神殿に帰ってくると同時に、リックルは僕を床に放り出して、迎えに来た女神様のところに駆けていった。
「リーキュー」
さっそく甘えた声を出し、女神様の体に頭を擦りつけている。こいつ……!
「大丈夫だった?」
リーンフィリア様を取られてしまった僕のところに来たのは、つっけんどんな態度のアンシェルだ。天界のルールをまた一つ破った僕には、彼女から冷たい視線を浴びせられる宿題が残っていた。
「ズタズタにされてきたよ」
「生きてるなら問題ないわね」
言って差し出した彼女の手を掴み、立ち上がる。
「ま、まあ、正直、すごい戦いだったと思うけど。よくも、あんな……」
「うん。すごいピンチだったよ。若干天国が見えた。近いしね」
「そうじゃなくて……。まあいいわ。そうそう、リックルのことなんだけど、伝えておかないといけないことがあるの」
そう言って、アンシェルは一枚のボードを取り出した。それを見ながら、
「リックルの貸与に関しては特記事項があってね。外見や性能を変化させられるみたいなのよ」
「え……」
「天界に〈しょっぷ〉っていうところがあって、そこにお金を払えば、色々な変更ができるってわけ。もちろん強化なんかもね」
「…………!!?」
そ、それってもしかして、聖獣のカスタマイズができるってこと?
それは嬉しい!
スッ……。
コレ!
【聖獣がカスタマイズ?:1コレ】(累計ポイント-47000)
そっか、そうだよね。僕の聖獣がこんなにヘボいわけがない。バッドスカイは、初登場時にすでに完成されていたけど、今回は成長させていくタイプなんだ。
なるほどね! リックルが弱い意味がようやく理解できた。
そんな楽しみを持ってきてくれるなんて、スタッフナカナカヤルジャナイ!
「それで、そのお金っていうのはどうすれば手に入るの? やっぱり敵を倒すとか、イベントをこなすとか?」
その答えは、リックルのじゃれつきに捕まっているリーンフィリア様がくれた。
「毎月、天界からお小遣いがもらえるんですよ。神様の位に関係するので、わたしはちょっとですけど……」
「へっ? 地上のこととは関係ないんですか……?」
「ないわよ」
と、アンシェルが質問を引き取る。
「天界は地上再生に直接的には興味ないから、それで褒賞が出るなんてありえないでしょ」
えっえっ……。
何か、違う、ゾ……。
天界の都合のみなら、ゲームと関係ないんじゃない? つまり『Ⅱ』にお金の要素が追加されたってわけじゃない……?
それに、小遣いって。これじゃ、これじゃまるで……。
有料DLC……!!
《タダで遊べちまうんだ!》
他ゲーをディスるのはよせ主人公! 何てボイス収録してんだ!
こっちの方が最悪のデキだろ!
ちくしょう!
コレジャナイ!
僕はさっきのコレ! を打ち消した。
【聖獣に希望なんてなかった:1コレジャナイ】(累計ポイント-48000)
課金制度と共にすっかり世間に定着した有料DLCだけど、まだ一部では反発する声もある。
僕は製作側の事情を全然知らないから、正しいことは言えない。でも、ゲームの中にすでに入っているデータを有償で解放するヤツなんかには、ケチをつけたくなる気持ちはわかる。その定価は何だったんだよと……。
まあ、基本的には、なくても本プレイに支障のないものが有料となるから、目くじらを立てる必要はないだろう。
今回のこれも……いや、許せないなあこれは……。
きっと、リアル路線のスキンとか、バッドスカイのスキンとかあるんだろうなあ。聖獣デザインを元に戻したければお金を払ってくださいということか? まるで身代金だ! 汚いよ大人は!
「わたし、少しなら貯金ありますよ。騎士様がもし何か買いたいなら……」
「いや、いいんですよ女神様。そのお金は、自分のために使ってください」
女神様にたかるなんて、カーチャンの財布から金を勝手に抜き取るくらい重罪だ。
「空中戦はまだちょっと不安ですけど、リックルの炎は、対地攻撃なら結構いけると思うんです」
僕は自分を慰めるように言った。
仲間になった聖獣は、専用ステージだけじゃなく、普段のアクションパートでも使えるようになる。
飛竜の場合は低空飛行からの爆撃モードが可能になる。一方的に攻撃される痛さと怖さを思い知らせてやれるのだ。
火力だけは凄まじいあのファイアブレス。空中ではスッと避けられて終わりだけど、地上はアンサラーで起爆する必要もなく、着弾時に地上を火の海にできるはずだ。
「何言ってるのよ騎士。リックルは地上を攻撃なんてできないわよ」
「……え?」
「リックルの使用は空中戦に限られてる。聖獣を貸してくれた天界が決めたことだから、逆らったら確実にリックルを没収されるわよ。そうなったら、もう二度と空中戦はできない。絶対にやっちゃダメだからね」
「…………!!!!???」
どういうこと……だ?
つまり、聖獣をいつでも呼び出せるというシステムは廃止されて、完全に専用ステージのみの出番になった……?
「リ、リックル?」
僕が名前を呼ぶと、リックルは会話の流れを理解しているみたいに、ぷいとそっぽを向いた。その態度は「そもそもやりたくないです」と言っていた。
スッ……。
コココココレジャナイ!
超速の五連打!
【続・アクションパートの劣化:5コレジャナイ】(累計ポイント-53000)
くそう、くそう!
ヤツらのほくそ笑む顔が見える!
爆撃モードを叩いていたヤツらのいやらしい顔が!
――このモード、すげえ単調だよね。退屈。
――楽だけど、これで敵倒すと武器がレベルアップしないしイベントも見つからないというクソ仕様。
――あえて不便な仕様にしてプレイヤー苦しませたいんでしょ。
――面白いの意味をはき違えたヤツらがよくやる壮絶なマッチポンプ。廃止してほしい。
死んでほしいよおおおおおおお!(鉄血感)
確かに、爆撃モードはシンプルだ。
基本的には、低空から敵に向けて火を吐くだけ。
それだけで敵がボンボン死んでいく。
単調と言われても仕方ない……。けれど、そこには竜を操る者の脅威を示す十分な迫力があった。爆撃された敵が面白いくらい遠くまで吹っ飛んでいく爽快感と共に、情け容赦のないバッドスカイの凶暴性を引き立てる演出、そしてそれを実行するプレイヤーに背徳的な快感をもたらすことも兼ねていたんだ!
『Ⅰ』で単調だったとしても、『Ⅱ』で改善される可能性は十分あった!
それに廃止したら廃止したで、
――竜に乗れるのに、アクションパートで使わないとかこの主人公アホじゃね?
って言うだろおおおおおお!? ルアアアアアアアアアアアアアアア!!
ゲホッ、ゲホッ……! キヒ……キヒキヒ、キヒヒヒヒ!
死んだ! 僕の愛した聖獣たちは死んだ!
残っているのは、この動物園のパンダみたいなヤツだけだ……。
クイーキキキキキ!!
許せるか? こんなコレジャナイ許せるか?
許せなああああああい!
何とかしなくては。
絶対に何とかしなくては。
本来の聖獣を取り戻す……!
絶対に……!!
最近は基本無料でも十分遊べちゃうゲームばかりだからスゴイです




