第十七話 ガン・ドラグーン
「雲行きが怪しいけどどうなってるの!? リックルは大丈夫なの!?」
「こいつだけは大丈夫だよ! こいつだけはね!」
成り行きを見守っていたアンシェルに大声でそう返すと、僕は改めて状況を整理した。
僕はこの空中戦に臨むに当たって、一つ大きな勘違いをしていた。
それは、リックルを操作するのは僕ではないということだ。
これは『Ⅱ』うんぬんの話ではなく、ゲームと現実の違い。
ゲームではプレイヤーがバッドスカイを操作する。バッドスカイの戦闘能力はプレイヤーの腕次第ということになる。
けれど現実では、僕は『バケモン』の主人公サトルと同じように、「ぶちのめせ!」とか「気合いでかわせ!」とかの、大雑把な指示しかできない。戦闘能力はリックル準拠なのだ。
そしてリックルは、戦闘経験が圧倒的に不足していた。
大型ガーゴイルの不規則な動きにまったくついていけず、闇雲に火球をまくのが精一杯。
同じ飛竜でも、神とすら闘争していたバッドスカイとは雲泥の差なのだろう。
いくら威力があっても、当たらなければ意味がない……!
《私のリックルを傷つけないでくれ!》
自分の心配をしろや主人公!
かなり絶望的な状況なんだよ今!
《しかし、私には何もできない。彼を信じてやることしか……。翼のないこの身が恨めしい》
「…………」
本当にそうか?
僕は息を止め、猟犬のように理知的に考える。
何かできることはないか?
『Ⅰ』なら確実にないと言える。でも『Ⅱ』は?『Ⅱ』なら……?
!!
もしかしたら!
「アンサラアアアアア!」
僕の呼び声に応え、腰の後ろでアンサラーが実体化する。
「ちょっと騎士! 騎乗中のアンサラーは天界から使用禁――」
「守ると思うか僕が!」
「思わないわよバカーッ!」
竜に乗ったままアンサラーで攻撃する。
これが僕の作戦。竜騎兵……ドラグーンだッ!
ドラグーンとは元々、竜にまたがる騎士という意味ではなく、火器を持った騎兵隊を指す言葉だ。だから、アンサラーを携えた僕の今の状態が元来の意味に近い。
つまり、虚構と現実が両方備わり最強に見える!(逆に片方を熱弁すると本当に詳しい人が現れて死ぬ!)
僕はリックルの背中を叩いた。
「リックル、前方に見える群れの前へ突っ込め!」
「リーキュー……」
超イヤそうに鳴いたリックルは、しかし僕の指示通り、前方を横切ろうとしていた群れの先頭、大型ガーゴイルの頭部付近へと飛び込む。
「くらえ!」
ガーゴイル頭部の平面部分に、僕とリックルの影が投げかけられた瞬間、アンサラーを連射。
「――――!」
魔力弾の直撃が光の粒子を散らすと同時に、大型ガーゴイルの頭部が揺らぎ、飛行体勢がわずかに崩れた。でも、ほんのわずか。一瞬だけだ。
「あ、あんまり効いてないんじゃない……!?」
アンシェルの焦った声。
「いいんだ!」
最初からわかってる。
聖獣を使ったシューティングパートは、まさに竜でなければ戦えない敵が相手だ。
アンサラーでも通用しないというのは織り込み済み。
僕の狙いは別だ!
「逃げろリックル!」
言われるまでもなく、即時離脱するリックル。
それを追って、大型ガーゴイルの群れが動き出した。
よし、まとまってついてこい!
それから僕は、アンサラーを撃って気を引きながら、ばらばらに飛翔していた大型ガーゴイルを一カ所にまとめていった。
もはやほとんどのガーゴイルが一つの群れに組み込まれている。
今こそ好機!
「リックル、ファイアブレスだッ!」
戦場を逃げ回っていたリックルが反転。ガーゴイルの群れに向かって大火球を吐き出す。
空を飛ぶ者たちの戦いは、総じて高速になる。腰を据えて相手の技をしっかり受ける者などいない。
一撃離脱。人間が戦闘機で空中戦に入門するずっと前から、翼ある者たちはそのセオリーを実践してきた。
その似姿であるガーゴイルにとって、リックルの火球のスピードは、携帯ゲーム機を片手にコタツに入ったニートも同然! 当然、その軌道上から速やかに身をかわす。
「よけたつもりかオタンコナスが!」
ほくそ笑むと同時に僕はアンサラーを射撃した。
ガーゴイルではなく、リックルのファイアブレスに。
起爆!
アンサラーの魔法弾を呑み込んだ直後、小型太陽が一気に膨れあがり、青空を真っ赤に切り取った。
「――――!」
高速で拡大する爆裂半径は、ガーゴイルの兵器としての判断力と機動力をはるかに上回った。煮えたぎる円の輪郭が、白い巨体を次々に呑み込んでいく。
運良くその範囲から逃れられた者も、無事ではすまない。炎の花から広がった衝撃波が、突風となってその巨体の表面積をモロに煽った!
すぐ隣を飛んでいた別のガーゴイルと接触。大質量と大質量が激突し、アンサラーの弾丸とは比べものにならない規模の混乱をもたらす。
「リックル、狙いはいいから撃ちまくれ!」
「リ――――キュアアアアアア!」
立て続けに吐き出される火球を、アンサラーの弾丸が次々に破裂させていく。
混迷するガーゴイルの群れは、蚕に食い荒らされる葉っぱのように削り取られていった……。
「ぜえ、ぜえ……」
アンサラーを物質化してから、数分の激変だった。
〈ヴァン平原〉上空から、大型ガーゴイルは完全に姿を消した。
残されたのは、空に花開いた炎の余熱と、一組のドラグーン。
敵意のない穏やかな風が吹き、火照った空を冷ましていく。
「疲れた……」
町の危機は去った。
僕らも、風と共に去ろう。
そう伝えると、リックルは俄然元気になって、天へと昇っていった。
【これどういうゲームになるの? ボンバーマン空中戦仕様:ノージャッジ】(累計ポイント-48000)
これぞ人馬一体(震え声)




