第十五話 聖獣のコレジャナイ
【聖獣ステージ】
ストーリーが進むと、〈飛竜バッドスカイ〉と〈水竜タイニーオーシャン〉という聖獣が仲間になります。
バッドスカイは空、タイニーオーシャンは水中の専用ステージを進むことができます。
また、彼らを仲間にした後は、アクションパートでいつでも呼び出すことができます。
空から敵を攻撃したり、気になる水場に潜ってみましょう!
(『リジェネシス』取扱説明書より)
※
それから村は順調に発展していった。
目下、最大の脅威であるサベージブラックは、〈ヴァン平原〉マップの左上隅、北西にある洞窟を住みかとしたようだった。それから目撃例のないため、あっちだけで生活圏が完結したと判断し、僕は村を――いや、町を西に広げていった。
そして、ある日のこと、天界で〈オルター・ボード〉を見ていた僕は、町の進行方向に、見慣れないアイコンが出現していることに気づく。
いかにもアクシデントを示すような「!」マーク。
タップしてみる。
「……!」
空飛ぶ魔物の群れの画像がポップアップした。
これは……!
石膏像じみた白い皮膚。自信すら感じさせる大きな羽ばたき。その巨躯に対し、異様に細い四肢。
大型ガーゴイルの軍勢だ。町の方へ向かっている。
いくら女神の加護が町を守っていても、この規模の魔物の集団を拒む力まではない。
多分、ゲームとしては、町がここに到達したときにはじめて襲撃があるんだろうけど、被害が出てからじゃ遅い。
すぐに出撃する!
でも、この大型ガーゴイルは、基本的に高々度を飛んでいるヤツらだ。
いくらアンサラーでも地上からの攻撃は届かない。
どうする?
僕の胸は高鳴る。
きた! これは確実に〝聖獣〟を使った空中戦のチュートリアルになる!
「アンシェル! アンシェル!!」
「はいはい。アンシェルさんよ。一回呼べばわかるわ」
アンシェルと、それとリーンフィリア様がやって来る。
「町に大型ガーゴイルの群れが迫ってる! 空中で迎撃する! バッドスカイはどこにいる?」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
ま、またこのパターンかよ!
「落ち着きなさいよ。忘れたの? バッドスカイもタイニーオーシャンも、先の戦いでそれまでの狼藉を許されて、今は神獣になるために修練場に行ってるでしょ。しばらくは帰ってこないわよ」
「えっえっ……」
僕はアンシェルが語る『Ⅱ』の設定についていけず、ちょっと慌てる。
『Ⅰ』で女神の騎士の相棒となる飛竜バッドスカイと、水竜タイニーオーシャンは、共に神に従わない反抗的な竜だった。
そのため神々に捕まり、天界の牢に閉じこめられていたのだが、ストーリーの途中でリーンフィリア様が解放し、仲間になるよう説得したのだ。
リアルタッチで描かれたこいつらのイラストは凄まじい迫力で、CGでも、その正義の味方とは思えないような凶悪なデザインはしっかり再現されていた。
最初はどっちも態度が悪いんだけど、共に戦う中で友情が芽生え、最終局面では女神の騎士を守って、それぞれが力尽きるまで戦うというクッソ激烈に胸アツな展開が待っている。
イイモンというと、どうしてもスマートで、いかにも善というイメージがあったけど、僕はその凶暴なヤツらが心を開いて仲間になってくれるという流れに、生まれて初めて感激を覚えた。きっと、人生最初のギャップ萌えだったのだろう。
要は、怖い外見の生物が懐いてくれるという現象に、すっかり酔ってしまったのだ。
バッドスカイに乗っての空中戦は特にハマり、青い全身を魔力の熱で緑に変色させて炎をまき散らす〈グリーンインフェルノ〉という必殺技は、以後のいかなるドラゴンブレスも叶わない、官能的ですらある魅力を僕に植えつけた。
そんな印象深い聖獣。
そっか……。
神様に許されたんだ、あの二匹。
しかも、神獣なんて格の高そうなものになろうとしてる。
会えないのは寂しいけど、これは喜ぶべきこと。きっと先代もそうしたはずだ。
「あれ、でも、じゃあ、聖獣は?」
「ちゃんといるわ。慌てんじゃないわよ。リックル、リックルー」
……リ……リックル……?
なにその可愛い名前……。
ばさばさと羽音がして、神殿の外に一つの影が舞い降りる。
「よく来ましたねリックル。よしよし」
リーンフィリア様が、頭を優しく撫でてやっている、そいつは。
「…………は…………?」
大きさでいえば、せいぜい立ち上がった熊くらい。
全身の色はパステルピンク。翼は小さく、目はまん丸で愛らしい。
リーンフィリア様の手に頭を擦り寄せ、気持ちよさそうに「リーキュー」と鳴いた。
なんだこの丸っちい竜……。
バッドスカイが持っていた、鋭角的な部分なんかどこにもない。
どっかの県のゆるキャラでもやってそうな、ゆるゆるのフォルム……!
これはっ……。
これはあああっ……!!!!
スッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!
☆
「このコーナーは、皆さまから寄せられた、アニメ、漫画、ゲーム、小説、映画にいたるまで、様々な創作物の続編のポイントをコレ! かコレジャナイ! にはっきりジャッジしていく、クリエイターいじめのような内容となっております。プレゼンターのエイト・テリトリーです。よろしくお願いします」
「妻にはいつも、ソウカモネ。ハイ・ブリッジです」
「…………」
「…………」
「さっそくお便りを紹介しましょう。天界にお住まいの女神の騎士さんからです。お便りありがとうございます」
「ありがとうございます」
「テリトリーさん、ブリッジさん、こんばんは」
「こんばんは」
「僕は昔から『リジェネシス』というゲームが大好きです。特にその中に登場するバッドスカイという竜がとても好きで、すごく怖い顔をしていますが、仲間想いの良いヤツです。ところが、発売中止になった『Ⅱ』ではリストラされてしまいました」
「発売中止になったのにケチをつけるんですね」
「ストーリー上、それは仕方がなかったのですが、問題はその跡を継いだ竜です。なんだか丸々としていて、迫力がなく、まるで『バスケット・モンスター』みたいです。こんなの許せません。これって、コレジャナイになりませんかね。よろしくお願いします」
「なるほど」
「このジャッジ。つまり、こういうことになります。『リジェネシスⅡ』に登場する竜は、外見が可愛すぎて…………ツァッッッ!」
「…………!」
「クリーチャーのデザインは、どの作品も賛否両論ありますね」
「わたしは『バケモン』好きですけどね」
「番組の調べによると、『リジェネシス』はかなりリアル寄りのデザインをしていたようです。『Ⅱ』では大きな路線変更があったようですね」
「なるほど」
「ではこちらが確認のVTRです」
――隠れた名作として知られる『リジェネシス』。巷ではファンも多いと聞き、街頭でアンケートを採ることに。
天界、塵神の神殿。女神に仕えて数日という騎士に聞いてみた。
Q:『リジェネシス』というゲームを知っていますか?
「知ってます。大好きですよ」
Q:『Ⅱ』が開発中止になったそうですが。
「とても残念です。みんな期待していたのに」
Q:バッドスカイという竜をご存じですか?
「もちろんです。強くてでかくて、最高にカッコイイ竜ですよ。正義の味方には全然見えないところもいい。特に〈グリーンインフェルノ〉っていう……」
(カット)
Q:『Ⅱ』では登場しないそうですね。
「そうなんですか?」
Q:かわりに、『バスケット・モンスター』に出てくるような竜が登場するそうですが。
「コレジャナイ」
Q:どれくらい?
「九回でいい」
Q:謙虚ですね。
「それほどでもない」
――謙虚にそれほどでもないと言った。
こうしてこの世界にまたひとつコレジャナイが生まれた。
『リジェネシスⅡ』に登場する竜は、外見が可愛すぎてコレジャナイ。
「このような結果になりました」
「んー。なるほど。やっぱり難しいんですね。ところで彼の話、途中でカットされてましたね」
「スタッフによると、長すぎて尺に入りきらなかったそうです」
「でもねテリトリーさん。僕思うんですよ」
「なんでしょう」
「彼、もしかして、お便りをくれた方なんじゃないですかね?」
「…………」
「確か、女神の騎士さん、でしたよね? インタビューに答えてくれたのも、女神に仕えている騎士の人ですよね」
「…………」
「故意ではないにせよ、やらせみたいなことがあったとしたら、今の時代、すごくまずいんじゃないかなって……」
「…………」
「…………」
「確認しますか? わたしとしては、公正なVTRだったと思いますが」
「うーん。どうしましょう」
「今回はこのままでいくとして、次回から調査を厳密にさせる方向でいった方がいいのでは?」
「うーん。ソウカモネ」
「以上、エイト・テリトリーがお送りしました!」
「次回もまた見てください!」
☆
オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナアアアアイ!
【聖獣がデフォルメ化した!:9コレジャナイ】(累計ポイント-48000)
何だこの回!?(驚愕)
※
感想いつもありがとうございます。
今日は時間がないので、次回まとめてお返事します。




