第百四十三話 アイハブコントロール
「食らえ!」
アルルカの咆哮と共にモビルドワーフの胴体部分の一部が開放され、中から数発の物体が砂地へと投下された。
あれは……ディガーフィッシュ!?
砂に潜った敵を狙う特殊ミサイル!
前回の第一号は、地面に中途半端に刺さった挙句行方不明になったけど、結果的には僕を窮地から救ってくれた。今回はちゃんと動くのか!?
ディガーフィッシュは砂を盛り上げながら、動きの止まった大蜘蛛へと迫る。
ヤツは地中にいる敵じゃない。ここでの効果はいまいちか……!?
が。
大蜘蛛近くまで来た瞬間、ディガーフィッシュは大きな砂柱を上げて垂直に空を駆け上がった。
そして一定高度で標的を見下ろすように向きを変えると、一気に降下を始める!
何だその高性能ミサイルみたいな軌道……! さっきのブラストボビンといい、何かがおかしいぞアルルカァ!
再生能力を暴走させた〈契約の悪魔〉を地下空間ごと吹っ飛ばす破砕力が、大蜘蛛の上部でいくつもの燃える花を連爆させ、その巨体をのたうち回らせる。
執拗とさえ思える光と音の暴虐が去り、戦場が静けさを取り戻した時には、ズタズタにされた哀れな兵器の残骸が、赤い砂の下からその一部をのぞかせるのみになっていた。
ただただ唖然としていると、モビルドワーフの胴体背部から、数個の車輪がまろび出てくる。
ギャリギャリと砂を蹴散らしながら凶悪な曲線を描き、もう一体の大蜘蛛めがけて突っ込んでいくのは、さっき見たブラストボビンだった。
「あの箱がアルルカの超兵器を積んでやがるのか……!」
ドルドが驚きの声を上げた。
やはりあれは武装コンテナ……!
機能といい、ネーミングといい、もはや言い訳すら放棄している……!
「このモビルドワーフには、多くの超兵器が内蔵されている。わたしはさらにそれらを、思い描くまま操ることができる!」
アルルカが声高らかに宣告する。
の、脳波コントロールだと!?
だから今まで制御不能だった挙動が、あんなに先鋭化しているのか!?
モビルドワーフの、長砲と一体化した腕が動く。
撃つのか!? 主砲を!
でもなんか、あの砲身、どこかで見たことある気がするんだよな。
前の世界とかじゃなく、ごく最近……アルルカの部屋で……。
でもアルルカの部屋にあるのって、確か……。
「ドワーフヘッドキャノン、発射準備完了!!」
うおいいいいいいいいいィィィィィィ!!?
思い出したあれドワーフを弾丸にして発射するやつだあああああああああああ! しかも非人道兵器かと思いきやドワーフは無事帰還するやつうううううううううううう!!
僕は戦闘中にもかかわらず、アルルカに呼びかけていた。
「どこで弾丸を調達してきたアルルカ!!?」
「弾倉に酒瓶と寝床を用意したら適当に取れた」
「同族をホイホイした虫みたいに言うなよおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「発射!!」
キン! という、火薬とは別種の甲高い砲撃音を広げながら、長砲が弾丸を撃ち出した。
「うおおおおおぉぉぉォォォォ……ンヌ……」
ドップラー効果の乗った雄たけびを上げながら、一瞬見えたドワーフ弾は、確かに酒瓶と武器と毛布を抱えているようだった。
この直前で、ブラストボビンは再び挟み撃ちの挙動で大蜘蛛の足止めに成功している。
射出されたドワーフ戦士は、その止まった多脚の並びを二三本まとめて射貫くと、彼らの中でもっとも強固と言われる頭部から、悪魔の兵器の胴体へ突き刺さった。
その衝撃は、安定性に優れる大蜘蛛のフォルムの片側を数メートル浮き上がらせるほどだった。
ひっでえけどホント威力はすごい!
アルルカはドワーフ弾を続けて発射。ついには二体目の大蜘蛛も完全に沈黙させてしまった。
見れば、大蜘蛛に突き刺さったドワーフたちが、どうにか頭を引っこ抜いて、すぐさま戦線に参入している。
そう、ドワーフヘッドキャノンは、重質量の弾丸を発射すると同時に、屈強な戦士を戦場に送り込む移動装置の役割も持っているのだ……!
しかし、寝起きだろうに、戸惑いとかそういうのないのあの人たち……!?
ここに来て、すべての机上の空論が脅威となって実現しだしている。
こっ、これが……これがアルルカの出した答え……!
すごい。すごいんだけど……!
こ、コレ、なのか……?
果たしてこの世界観にコレでいいのか……!?
僕はアルルカの絶対的協力者だ。僕がアルルカに反対するのは、アルルカが立ち止まろうとした時だけだ。彼女を肯定し、行けるところまで共に走り続ける。そして時々爆発する……。
それが僕が僕自身に課した役割。
だから、本来ならアルルカが見つけたこの答えを完全肯定したい。
だが……!
このデンドロビウムは……!
デストロイドモンスターはッ……!
コ、コレジャ、コ、コココ、レ、ココ……!!
がががががーっ!!!!
コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! コレジャナイ! 世界観的にコレジャナァァァァイ!
【すべてがアウト!:10コレジャナイ】(累計ポイント-9000)
だがああああああああああ!
「いいぞアルルカ、もっとやれえええええええええ!!」
僕は叫ぶ。
悪ノリだ。雰囲気ぶち壊しだ。
でも、あるんだ。どうしようもなくハマってしまう時が。台無しだと思いながら、笑って好きになってしまう部分が。
これは叩かれる。確実にアンチの叩きどころだ。
『Ⅰ』の雰囲気づくりは強固だった。ブレがなかった。
しかしそれでも、
――真面目くさくてつまらない。作った側は王道のつもりだろうけど。
――王道が一番難しいのをわかってない。これはただのワンパターン。
――ネタの一つもはさめないとウケないって、何でわかんねえのかな。
という叩きはあった。
しかしその直後、
――ここ見てネタに走ったら笑えるな。
というコメントから再び話が展開し、
――王道が作れないからネタに走る典型だわ。
――真面目な作品を作れない昨今のゲーム業界マジクソ。
――ネタをはさめばウケるとかいう考えが甘いって、何でわかんねえのかな。
という、手のひら返しを見せている。
もはや何をしても叩かれるこのゲーム。
だが、どちらに寄せるのかは、僕も重要だと思う。
「雰囲気がある」というのは、僕の中では最高の誉め言葉の一つだ。
一貫した世界観、キャラクター造形、言動、そしてゲーム性。すべてが噛み合って、そこでしか味わえない体験を生み出す。それが雰囲気。決して曖昧な感想なんかじゃなく、そこまでやって、ようやく到達する完成度のことだと思ってる。
その意味で、このアルルカの超兵器に対する非難へ、僕が抗弁する論拠はかけらもない。
責められれば黙って耐えるしかない。
ただ、それでも。
あの最悪なまでに追い込まれた彼女が、嬉々として超兵器を暴れさせていることが嬉しくて、爽快で、僕は好きだった。
アルルカはここに定まった。
選ぶ道を決めた。
それが何よりいい。
モビルドワーフが三度目の攻撃を仕掛ける必要はなかった。
砲撃による増員と、前二体が撃破された様子から大蜘蛛の弱点を看破したドワーフたちが一斉に装甲を剥がしにかかった結果、三体目はあっさりと沈んだのだ。
しかし、喜ぶ間もなく、
「東へ回れ! グラットンワームが来てるぞ!」
というドルドの指示が飛んで、彼らの戦場を移す。
東側に戻った僕は、砂嵐から完全に抜け出たグラットンワームの巨体に、再び息を呑むことになった。
これに比べたら大蜘蛛も可愛く見える。
弾き飛ばされたタイラニック号が激突したのか、城壁の一部が砕けてブロックに戻っている。砂に混じって、粉砕されたマッドドッグたちの残骸も見えた。
さっきより防御力は格段に落ちている。だけど、間に合った。
これより総力を挙げてグラットンワームを叩く!
この小説に雰囲気はないですね・・・




