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第百三十話 スクラップ&ファンクション

「んん、とは言うものの、女神の騎士は、女神の力が及ぶ限り戦い続ける死線の超越者。貴殿が死ぬことはあり得ない。しかし役割を果たせなくなれば、それはただのゴミに成り下がるのですな」


 激しい羽音を響かせる玉座の上で悠然と足を組み、アバドーンはいやらしく笑った。


「それは僕を戦えなくするってことか」

「その通り」

「そんな方法があるのかな?」

「すでにやっておりますぞ」


 !?


 アバドーンの巨大な目がかすかに下を向いたことに気づき、確認も挟まずに僕はその場から跳んだ。

 地を蹴る反発力を阻害する引力が、一瞬だけ体を引っ張った。

 ぼろぼろと足甲から落ちていく半液化したイナゴを見て、ヤツの狙いを怖気混じりに悟る。


 こいつ……僕をこの金属板に取り込もうとしてやがった!?


 着地した足が、温度のない水の感触を受け取った。

 水銀のようになった地面から、黒いイナゴたちがぽこじゃが現れ、這い上がってくる。


「ちいいいいッ!」


 塗り固められたら本気で身動きが取れなくなる。そのまま永遠に閉じ込めるのが、こいつの狙いか!


 僕は地を蹴ってイナゴたちを振り落とし、そのまま疾走へと移った。

 見知らぬ町だ。逃げながら有利なポジションを探すことは難しい。今はただ闇雲に逃げ回るしかない。


 しかし……ヤバかった! ドルドたちと一緒に来てたら、全員揃ってあれに捕まっていたかもしれない。僕はまだしも、ドワーフたちは普通に窒息死してしまうだろう。

 セーフ! ナイス判断だ僕!


 ひょっとして、今回恒例の主人公やられボイスが聞こえてこなかったのも、特殊な形でゲームオーバーになったからなのか?


《…………》


 何か言いたそうな気配から察するに、図星らしい。


「んん、脇目もふらずに逃げを打つとは、切り替えが早いですな。二百年前の戦いで貴殿は百四十八度倒され、その都度立ち上がってきた。いわゆる猪突猛進ですな」


 空飛ぶ玉座に腰掛けたアバドーンが悠々と追跡してくる。


 百四十八回? 先代、ずいぶんやられましたね。

 バッドスカイとか反則武器スキルコンボでもっとゴリ押しすればよかったのに、意外と行儀よくやったのかな? それにしても死にすぎだと思う。いや、それだけ激しい戦いだったと捉えるべきか……。


「しかし、今の戦いでは女神の騎士は一度も倒れていないのですな。攻める時に攻め切り、逃げる時に逃げ倒し、スタイルを切り替えながら確実に役割を果たしておるのですな。んん、あり得ない。まるで別人のような戦い方ですぞ」

「さすがに学んだのさ」


 屋根まで跳ぶ。

 やはりここも水銀の湿地帯だ。

 一時もとどまれず走り続ける。


「女神の騎士ほどの強者が逃げに徹すると面倒ですな。こちらもやり方を変えるべきなのですな。攻撃を開始するしかない」


 前方の金属床から、ばしゃばしゃと水しぶきが上がる。

 飛び出してきたのはやはり無数のイナゴ。しかし今度は足下ではなく、胴体を目指してきている。


 攻撃だと? このイナゴたちは、家をかじるばかりで攻撃能力はなかったはず。

 けれど僕は見てしまった。

 黒い煙のように押し寄せるイナゴの先頭の一匹が、異様に発達した大あごを、これ見よがしに打ち鳴らしているところを。


 違う! こいつら、微妙に形状が違う! 接触するのはまずい!


 僕は慌てて横道に逃げ込んだ。

 直前までいた場所を通過するイナゴの大群から、小さな火花と共にガチンガチンという機械工具のような金属音が響いてきた。


 まるで意志を持った強化型シムーンだ。飲み込まれたらどうなるか想像したくもない。


「彼らの役割は貴殿を足止めすることなのですな。町をかじっていた蟲とは違うのですな。それぞれが役割を持ち、持ち場を堅守することこそ勝利への鍵ですぞ」

「砂漠の兵器は、統率してないんじゃなかったっけ?」


 僕は上空に向けて詮無い追求を飛ばす。


「蟲たちは別ですぞ。彼らこそ我が軍勢なのですな。この巨大なゴミ捨て場にいるゴミどもを我がリサイクルして、役割を与えたのですな」

「ゴミ捨て場……?」


 そういえば、こいつさっきも似たようなことを言ってた。


「貴殿は何も知らないのでしたな。この砂漠は、古くから“尖兵”たちの投棄場なのですぞ。役割を持てないゴミや、役割を失った尖兵を〈大流砂〉に捨てるのですな。地上にゴミは溜まらないし、便利そのものですぞ」

「……!」

「まさか地下から這い出してきて活動する個体が存在するとは、予測不可能でしたな。存外ゴミもしぶといものですぞ」


 この砂漠が悪魔の兵器の最終処分場だと……?


 地球の砂漠には、飛行機の墓場と呼ばれる保管所があるらしいけど、ここは、まさに。


 ああ、そうか……!

 つまり、あの地下で見かけた形が一定でないカニやガーゴイルたちは、製作途中の試作機だったり旧型だったりしたわけだ!


 だとすると、この砂漠に古い敵キャラが出てくるのも、単なるファンサービスじゃない。

 ここは悪魔の兵器の墓場なんだ。だから出てきた……! そっかあ! そういうふうに繋がるのかあ!


 ……え……? ちょ、ちょっと待てよ。

 じゃ、じゃあ、あれはどうなるんだ? 

 あれは? まさか? でも、そんなの、ウソだろ……!?


「注意力が散漫になってますぞ。狙い撃ちする以外ありえない」


 左腕にのしかかった異常な加重が、僕の靴底を地面からもぎ取った。


「うおお!?」


 猛スピードで突進してきたイナゴたちが噛みついたのだ。

 その勢いに乗せられたまま数メートルを引きずられ、民家の壁に叩き付けられる。


 金属ではない石の感触。幸い、ここのコーティングは、すでに蟲になって移動した後だったらしい。取り込まれる危険はない。

 しかし、ささやかな安堵は、周囲からアメーバーのように寄ってくる液体金属によってみるみるうちに萎んでいった。


 クソッ、今更誰が運なんか期待するか!


 僕は右手一本でアンサラーを構え、中空の玉座にいるアバドーンを射撃する。


「悪あがきは見苦しいですぞ。聖銃の弾丸が我よりスローリィなのは確定的なのですな。所詮、単体戦力である女神の騎士が、我が組んだ軍勢に勝つことなどありえない。総合的にロジックするまでもなく貴殿の負けは決まっていたのですな」


 アンサラーの弾は、ことごとくアバドーンの真横を紙一重で通過していった。

 もう少しで当たりそうだとかいうレベルじゃない。

 業界用語で“分厚い紙一重”というやつだ。何千発撃つ猶予を与えられても、弾は当たらないだろう。


「貴殿は大人しく現実を受け入れ、導かれるしかない。蟲に役割を持たせ、常に相手に守勢を強いることで論理的にも実質的にも勝利する我の戦術に」


 すでに――あるいは最初から――勝利を確信した様子で、アバドーンは長広舌を展開する。


「砂漠の住人たちが先兵を破壊することで蟲の材料は実質無尽。役割を持てないゴミをリサイクルして有用な蟲に作り替えることで、我は完璧な巨大工廠を築き上げたのですな。そしてこの軍勢はいずれ地上全土を覆い、来るべき時の礎となりますぞ。んん、この貢献度の高さは、他の悪魔とは比較にならない」


 アバドーンは何か重要なことを語っている。そして、知っている。

 できる限り、こいつに話をさせたかった。

 しかし、これ以上の時間稼ぎは僕にも無理だ。


 そろそろ打開させてもらうぞ、虫野郎。


役割って言葉、地味に深いですね・・・深くない?

が、この作品を読むときは深く考えず気楽にお読みください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何を言っているかわからないけど 他の悪魔たちよりめっちゃ賢そうに見える wwwが見えないだけでこんなにも違うのか……
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