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第百二十五話 もう一人の親方

 そこに建っているのが小屋だろうと大使館だろうと、ここ〈ブラッディヤード〉においては奇異でしかない。

 柔らかい砂の上では満足な建築などできず、何より砂漠に住まう兵器どもがその存在を許しはしないからだ。


 しかし。


「あるぜ。確かに。ありゃあ……見張り小屋だな」


 遠眼鏡を片目にあてがったドルドは、怪訝とも感嘆ともつかない声でそう告げた。

 随伴した僕と、案内役のドワーフたちからは、砂丘の奥の豆粒程度にしか見えないけど、見張り小屋というからにはそれなりに背丈がある建物のはず。どうやって建てたんだ?


「恐らく、古い建築法だな。資材に資材をはめ込む形で保持してるんだろう。それなら崩れにくい。だが問題は……おっ!?」


 淡々と説明していたドルドの声が、不意に上擦った。


「どうしたの?」

「誰か出てきたぜ。あれは……バルジドじゃねえか……!?」


 それを聞いたドワーフたちが急に色めきだつ。何だ何だ? 有名人なのか?

 僕が首をかしげていると、同行者の一人が教えてくれた。


「バルジドはドルドと同じ親方だ。北のバルジド、南のドルドっていわれるほどの名工で、二人は小さい頃からのライバルなんだぜ」

「へえ……」


 ドルドが妙に嬉しそうなのは、だからか。


「あの野郎、こんなところにいやがったのか!〈大流砂〉側に避難してるとは、おっちょこちょいなヤツだぜ……! ……!? あれは……?」


 再びドルドの声が変化する。


「ちィ! 敵が出やがった! 見張り小屋に向かってやがる!」

「すぐ助けに行こう!」


 僕は砂丘の陰から飛び出した。


 望遠鏡を使わずとも、黒い一団が赤い砂漠の稜線をなぞるように渡っているのが見て取れる。規模としては小さいけど、標的が家一つならそれでも十分だ。

 まずい……! こっちよりも全然近い。取りつかれる!


 危惧した通り、僕らが半分も進めないでいるうちに、悪魔の兵器群は見張り小屋を取り囲んでしまった。

 ドルドのライバルなら、あっさりやられるってことはないだろうけど……!


「ん……? あれ……!?」


 走りながら僕は違和感を覚えた。

 家が壊れてない。

 デザートクラブやゴーレムたちが執拗な攻撃を加えているのに、小屋のシルエットは何ら変わることなく健在だった。


「ちょっと待った。様子がおかしい」


 僕は砂丘の陰に身を隠し、それに追従した仲間たちに状況を説明する。


「家が攻撃を跳ね返してるだと?」


 ドルドは遠眼鏡をのぞき込み、その様子をうかがう。しばしの黙考の後、唐突に膝を叩いた。


「そうか! あの野郎、“オーロラ鋼”で家を作ったな!?」

「オーロラ鋼?」


 また何か新しいワードが出てきましたよ。

 いいぞ。ちょっと前までの停滞が嘘のようだ。


 でも、何だって? オーロラ鋼? 建築資材なのかな?

 その説明を求める前に、小屋の方で信じがたい動きがあった。


 なんと兵器群が、破壊を諦めたように帰っていったのだ。


 そんな馬鹿な! 僕らの時は、最後の一機になっても引き下がる素振りすら見せなかったってのに!?

 ヤツらが完全に見えなくなってから、用心しつつ見張り小屋へと向かう。

 一体、あの見張り小屋は何なんだ?


「オーロラ鋼ってのは、バルジドが発明した鋼材でな。波打つような模様が特徴の、超高硬度素材なんだ。硬いだけじゃなく粘りがあるから、武具の素材として最適……というか、俺たちが知る中では最高の品だな」


 道すがら、ドルドが注釈を挟んでくれる。

 なるほど。その素材で建てられた小屋だから、悪魔の兵器の攻撃を受け付けなかったのか。


「俺はハルバード、ヤツはそのオーロラ鋼によって親方の地位を得た。最強の武器へのアプローチを、材質方面からしようとしたわけさ」

「最強の素材ってわけだね」

「ああ。バルジドはその製造方法も加工法も明かしちゃいねえが……恐らくは、本人以外が扱うのは困難だろう。素材の造詣に関しちゃ、ヤツは歴代ドワーフの中でも指折りだからな。工房を失ってその技術もなくしたかと思ったが、こんな砂漠の真ん中でよく再現したもんだ」


 そう言って細めた目のすぐ先には、地層にも似た不思議な波模様を壁に浮き上がらせる見張り小屋があった。

 その扉が開いて一人のドワーフが現れると、ドルドは大声を上げて手を振る。


「バルジド! 無事か!」

「おう、ドルドか」


 朝の挨拶でもするようにあっさりした声を返したのは、もじゃもじゃの髭に燃えるような赤色の混じった人物だった。

 相変わらずの筋肉だる族だけど、ドルドに比べると少し細く――鋭く見える。


「生きてやがったのかこの野郎!」

「それはこっちのセリフだ。少し前から遠くに町が見えるようになったが、ありゃあおまえたちか」

「ああ。南工房の連中もいる。おまえは一人か?」

「いや、近くに旧坑道があって、そこに北町の連中といる」

「そいつはいい! これで一気に仲間が増えるぜ!」

「おい、だがどういうことだ? この地域にあれだけの町を作るってのはただごとじゃないぞ。何をやったのか説明しろ」

「ああ、もちろんだ。実は女神様がやって来てくれてよ……ああ、色々ありすぎてどこから説明すりゃあいいかわからねえ」

「はっ。てめえは話し好きだが要領を得ないことが多いからな。とりあえず俺んとこに来い。仲間たちにも知らせなきゃならん」


 勝手知ったる様子でやりとりを終えると、二人は揃ってこちらに目線を送り、歩き出した。ライバルといっても仲は悪くなさそうだ。


 仲間が増えて、さらに親方級鍛冶屋とオーロラ鋼の新素材の加入。これは止まっていた町作りが一気に加速しそうな予感!


中継ぎ回なので短め。

オッサンが増えても誰も幸せにならないと思うんですがそれは

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― 新着の感想 ―
[一言] オッサンが増えることによってオッサン以外が映えるようになるのでオッサンは重要
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