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第百二十四話 強刃

 こんなはずじゃなかった。

 こんなことになるなんて思わなかった。


「マッドドッグ小隊、第十一から第十八まで壊滅!」


 覚悟はあった。できてたはずだ。

 けれど、これは。


 この肺腑を突き上げるような焦燥感はッ……!


「十六番、十七番鉄騎様、沈黙!」


 戦場を飛び交う凶報の一つ一つが、僕の脳を揺さぶってくる。

 アンサラーの引き金に突っ込んだ指が震えて、暴発させてしまいそうになる。


 空気を断つような斬閃。

 入り乱れる軌跡。

 切り刻まれる世界。


 どうしてこうなった?

 油断? 慢心?


 どれもあり得る。

 しかし、それでも……!


「オールドシナリー、折れるぞ! 退避、退避ィィィ!」


 どうしてこうまでたやすく蹂躙される!?

 どうしてだ!


「……ッッッ! タイラニック号九番機、轟沈!! 続けて十三番機も!」


「わ、わたしのタイラニック号がああああ!」


 羽根飾り越しに聞こえる女神様の悲痛な叫びをデッドラインとして、僕は判断を下した。


「総員撤退! 建設中の八番街を放棄し、七番街まで下がって戦力の再編成だ!」


 星形城塞と超兵器を得て以来、あらゆる襲撃WAVEを打破し、版図を広げ続けてきたドワーフ戦闘街の勢いは、この日、止まった。


 ※


「西の海岸沿いもダメだった。いるぜ、あのやべえのが」


 会議室のテーブルに置かれた石版地図に、通行不能を示す四角い小石が載せられた。


 うなり声とも溜息とも突かない音が、会議の参加者たちから漏れる。

 これで、北上するルートはすべて潰されたことになる。


 これまで順調だっただけに、不慣れな停滞の空気は、一層重く僕の肩にのしかかった。


 障害は、わずか数日前に、突然現れた。


 例のストームウォーカー、ではない。


 その外見を一言で表すなら、四つの鎌を持つ巨大カマキリ。

 そいつが、襲撃WAVEに混じっていた。


 一目で新型だとわかって警戒し、それでも度肝を抜かれたのは、これまで敵の攻撃をものともしなかった超兵器が、ヤツの鎌の一閃で呆気なく裁断されてしまったからだ。


 あの無敵のタイラニック号ですら、もっとも強固なローラーのど真ん中を水平に断ち切られ、かまぼこみたいになって地に伏した。


 四つの鎌という、グリーヴァス将軍みたいな威圧的な外見に違わぬ、ちょとsYレにならないほどの攻撃力。


 その他とは一線を画する脅威度から、“フォーソード”という呼称まで設けられている。


 カマキリ型はやはりヤバイ。

 昆虫の捕食者の代名詞みたいなとこあるし。


 けれど一応、突くべき弱点はある。


 ヤツは攻撃の構えを取ると、移動速度が極端に遅くなるのだ。

 まるで腰を落とした居合い使いのように、じりじりと前進することしかできなくなる。


 実際、やられた超兵器はいずれも、ヤツに突進して返り討ちにあっていた。


 フォーソードは建物を破壊する際にもこの構え状態に移行する必要があり、町を破壊する能力は他の兵器群に大きく劣った。


 そこで僕らは先日、八番街の深くに単身潜り込んでいたフォーソードを取り囲み、建物の屋根からハンドバリスタとアンサラーで撃ちまくるという、女神サイドとは思えないようなあくどいやり方でこいつを始末したのだ。


 まあ、愛するタイラニック号を撃破された当のリーンフィリア様は、作戦の可否を問う多数決で、何度も飛び跳ねながら賛成に挙手してたけどね……。


 それでもフォーソードはすごく粘った。

 四方から飛来する特大の矢弾を鎌で正確に弾き散らし、本来カマキリなら柔らかいはずの尻の部分に直撃させても、簡単に致命傷とはならなかった。

 キルゾーンは跳ね返された巨大な鉄の矢で埋もれ、武器庫の有様だった。


 何とか削りきり、倒した後に調べてわかったことは、フォーソードが他の悪魔の兵器と何ら変わらない素材でできているということ。


 超兵器を切り捨てた鎌でさえ、紙のように薄くなるまで叩かれた重金属にすぎなかった。

 つまりあの破壊力の源泉は、フォーソードの“技”ということになる。


 そして、通常の材質ということは、こいつが他のカニやゴーレムと同じように、量産機であるという恐るべき可能性も示していた。


 その危惧はすぐに現実化する。


 まるで防御線を敷くように、砂漠のある一定のラインから北側に、複数のフォーソードが徘徊しているのが見つかったのである。


 迂闊に接近すれば、WAVEに混じって進軍してくるのは必定。

 町の拡張は完全に停止させられた。


 フォーソードは動くシュレッダーだけど、絶対無敵ではない。

 個別に対応すれば、初回と同じように倒せるだろう。

 でも、敵ラッシュとの混合編成ではそれが難しく、それまでにオートで敵を攻撃している多数の超兵器が破壊されることになる。


 僕らに求められるのは、完全な優位性を保ったままの勝利だ。

 辛勝では次がもたないことは、数あるゲームどころか、現実が示すとおり。


 イグナイトや予備パーツが不足すれば超兵器は動かなくなる。

 ドワーフだけでは町を守れないことは、もう誰もが知るところだ。


 クッ。強敵一体の出現でこれまでの防衛セオリーが瓦解するのは、タワーディフェンスで誰もが通る道とはいえ……あのじっとりとしたイヤな感じは慣れないな……。


「後少しで、前の町に戻れるってのによ……!」


 誰もが口を閉ざす中、会議室にいるドワーフの一人が、手のひらに拳を打ちつけた。


 そう。ドワーフ戦闘街は、かつての彼らの居住地に、あと少しのところまで迫っていた。

 もうちょっとで故郷に帰れるのだ。

 だからこそ、ここでの足踏みは余計にもどかしい。


 しかしここで一歩引くのが大人の醍醐味。

 百里を行く者は九十里を半ばとせよという名ゼリフを知らないのかよ。


 僕は発言する。


「大丈夫。王手はかかってるんだ。居住地に戻った後のためにも、フォーソード対策は万全にする。アルルカと工房の人たちにも、超兵器の強化を急いでもらってる」


 議場にいるアルルカをちらと見る。しかし、彼女は自信なさげにうなずくだけだ。

 対策はうまくいってないらしい。確かに、誰も彼もが一刀両断じゃあ、マイナーチェンジでは済まないか……。でも、焦っちゃダメだ。


「解決のヒントがないか、これまで手をつけてこなかった地域も調べてもらってる。焦るのは、できることをやり尽くしてからだ」

「……だな」

「心配すんな騎士殿。急いては事をし損じるってのは、鍛冶仕事でも基本だ」

「武器でも打って、その時に備えようぜ」


 出席者たちの顔から強ばりがすっと引いた。

 よかった。落ち着いてる。

 この町でモンスターパニック映画が始まっても、全員が冷静に対処しそう。


「じゃあ、これにて一旦解散とするぜ。不利な状態で無理に戦ってもいたずらに消耗するだけだ。全員、反撃に備えて今は体め」


 ドルドが釘を刺しつつ、閉会を宣言したときだった。


 事態を動かす一報が届いたのは。


「親方。東を調べてた連中が、変なものを見つけた!」


 慌ただしく会議室に入ってきたドワーフの言葉に、ドルドは眉をひそめる。


「なに? 報告は全部上がってたはずだが?」

「あ、いや、もうちょっと調べたいってヤツが居残っててよ」

「独断か。現場の判断は仕方ねえが……。まあ、いいだろ。で? 何を見つけたんだ?」


 彼の問いかけに、ドワーフは一言。


「小屋だ」


 僕らは一斉に顔を見合わせた。


「わたしのガンダムがぁ~!」

「ぼくのプテラス~!」

「わたしのタイラニック号があ~!」

ぼく「女神様、すぐ仲間を呼ぶの自重してくれませんか」

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― 新着の感想 ―
[一言] 馬鹿な……無敵のタイラニック号が負けるなんて…… 3章は女神様最強回だと思ってた……
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