第十二話 クリエイトのはじまり
僕の計画では、町の出発点はあの廃墟を使うつもりだった。
全壊してるとはいえ基礎部分くらいは使えるだろうし、元々町があったわけだから、色々便利な立地だと思ったのだ。
しかし、集まってきた人たちからは、
「工法が違うので、再利用は難しいですね……」
と断られてしまった。
ですよね! 廃墟は細かいレンガ。こっちは、でかい土の箱使ってますもんね! サイズ感違いますよねかなり!
ていうか、あの土絶対重いだろ! 一トン以上は確実にあるだろ! 何で平然と運んでるんだ。どうなっているだァー!
だいたい、これで家を一軒一軒作って、マップをちゃんと埋められるのかなあ! すごい時間かかっちゃうんじゃないかなあ、かかっちゃうよねえ!!
《これから私の町作りが始まる。床に優しさを、壁にぬくもりを。決して凍えぬ人の営みを、この地に築いてみせる》
わめく僕の心に、錆びた男の声が響く。
「…………そのとおりだね、主人公」
コレ!
僕は八つ当たり気味にボタンを押した。
【クリエイトパートが強化?:1コレ】(累計ポイント-40000)
このコレは、ついさっき短絡的に新クリエイトパートにケチをつけた僕への戒めだ。
〝前作と違う〟ということを、ただそれだけで非難するのは早計すぎるというもの。
よく吟味し、適不適を見定める必要がある。
一目でわかるキャラクターの外見ならいざ知らず、システムをよく調べないまま批判するなど愚の骨頂! まずはやってみることだ……!
あっ。
今、思い出した。
『リジェネシス』公式ホームページにある、要望コメントコーナーで、異様な一言を見たことがあった。確か、
――今時シム系なんてダセーよな。帰って『マイクラ』やろーぜ。
誰だよテメエ!?(狂竜化)
しかもシム系をバカにしたな!? 闘技場で会おう!
…………。
まさか、あんな戯れ言を実現しちゃうとは、スタッフ……。
「ふう……」
草原を巡るそよ風の中に息を吐き、僕は腰掛けた石の上から、周囲で作業する人々の姿を見つめた。
僕らが降下したポイントは、奇しくも彼らの居住地のすぐそばだった。
すでに土色の家屋が何軒かできており、中で働く女性たちの姿も見えた。
ていうかあの家、雨降ったら潰れたりしないだろうな……。
ささやかな心配をしつつ、女神様から受け取った〈オルター・ボード〉に目を落とす。
《これは女神の祝福。弱き人々を導くための小さな祭壇だ。この〈オルター・ボード〉が、彼らの幸福への道標とならんことを……》
有り体に言ってしまうと、これはタブレット端末だった。
ボードの表面には、今いる地点の俯瞰図がデフォルメ化して表示されており、端っこにいくつものアイコンが並べられている。
僕はアイコンの意味が何となくわかる。
これは〝奇跡〟だ。
人間たちの町には、様々な困難が降りかかる。
日照りだったり、疫病だったり。
それらを解消するために用意されているのが、この奇跡というわけ。
たとえば……。
「ダメだ、このへんの土は硬すぎて畑が作れねえ」
「惜しいなあ。ここに畑が作れれば、すごく便利なんだけどなあ」
住人たちがそんな話をしているポイントに、〝耕作地〟のアイコンを持っていく。
「ん……? お、おお? 急に土が軟らかくなったぞ!」
「おおー、いい土だ。これなら立派な作物が育つ」
こういう具合だ。
……なるほど。インターフェイス……つまり操作の外見は変わったけど、『Ⅰ』の要素はそのままだ。内容が簡易シム系からサンドボックス系にシフトしただけ。
だったら、この変化は新要素として受け入れるべきものだ。クリエイトパートの理念からは少しもはずれていない。
恐らくゲームにおいては、村人たちはオートでブロックの家を造っていき、そこで生活する。何か問題が起こったとき、僕が解決するための施設を建てたり、奇跡を起こしたりして彼らを助けるのだろう。
うん。
スッ……。
コレ! コレ! コレ!
【クリエイトパートが強化:3コレ】(累計ポイント-37000)
さっきのと合わせると4コレ。
シリーズの『Ⅱ』に求められるのは純粋進化だけど、この切り替えを僕は歓迎したい。
純粋進化の場合、宿命的に、中身が複雑化してしまう。
たとえるなら、シンプルで誰でも入りやすかった格闘ゲームが、たくさんのシステムを追加したことで、新規参入のハードルが上がってしまったみたいな感じ(異論は受け付けます)。
これを避けるために、思い切った路線変更は大いにアリ。
『Ⅰ』の理念もきちんと継承されている。
従来ファンも、この新クリエイトパートを一から勉強していく過程を楽しむべきだ。
いいぞスタッフ。これは勇気の決断。
あと、シム系をディスったヤツも……よくやった……(超渋々)。
それにしても、女神様とアンシェルはどこに行ったのかな?
さっき、二人で丘の方に歩いていくのが見えたけど、それきり帰ってこない。
僕は石から腰を上げると、そちらに向かって歩き出した。
「なっ……!?」
そこには異様な光景が広がっていた……。
大量に積み上がった土ブロックと、園芸用の小さなシャベルで地面をいじっている女神様、見守るアンシェル、そして、異様なほど平らになった周囲一帯……。
「あっ、騎士様。見てください、ほら。すごく綺麗になりました」
汗で額に張りついた前髪も気にせず、女神様がこれまでにないくらいいい笑顔で言ってくる。
「リ、リーンフィリア様が一人でこの土地を均したんですか……?」
「はいっ。わたし、こういうの好きなんです! こう、地面が平らになって……整っていると……ふふ……ウフフフ、タノシイですヨ……?」
女神様の一瞬歪んだ笑みに、僕は後ずさった。
せ、整地厨……!!
説明しよう! 整地厨とは、地面を平らにしないと気が済まない人々のことである!
何が彼らを駆り立てるのか? それは誰にもわからない!
コレジャナイ!
気づけば僕はボタンを押していた。
【うちの女神様に変な性癖があるんですけど:1コレジャナイ】(累計ポイント-38000)
彼女を見守っていたアンシェルが、横でこっそり教えてくれる。
「リーンフィリア様って、こういう細かい作業が大好きなのよ。神殿の柱についた小さな傷をパテで埋めていくのとか、寝るのも忘れて夢中になってたのを見たことがあるわ」
やめてくれ。もう一回ボタン押すぞ。
「女神様、一度天界に戻りましょう。人々が畑を作り始めたので、食料はじき分けてもらえると思います」
「えっ。もう帰るんですか? 次はあっちの丘を平らに……。もうちょっとだけ……」
スコップを大事そうに握ったまま、すがるような目を向けてくる女神様。
「ダメです。その欲求は、世界が平らになるまで終わりません。ていうか、それでも満足できずに別のワールドまで平らにすることだってあるんです」
「そんなあ」
なおも不満を示す女神様の手を取り、
「さ。帰りますよ。アンシェル、そっち側持って」
「わかったわ」
「は、はなせー。じめんをたいらにするんだー」
「こらっ、引きずられてないで自分で歩いてください」
たいらにー。たいらにー……。
女神様の叫びは天に昇っていった。
※
「タイラニー、タイラニー」
「タイラニー、タイラニー。ふうっ、今日もよく働いたな」
「ああ。けどこのタイラニーってかけ声いいな! 力が湧いてくるような言葉だ」
「当たり前だ。女神様が天に帰るときに残してくれた言葉だぞ。祝福が込められてるんだよ」
「ありがてえ。俺たちは常に女神様に守られてるんだ。明日も、みんなで力を合わせて頑張ろう!」
『おおー!』
……………………。
〈オルター・ボード〉の機能を使って地上の様子を見ていた僕とアンシェルは、無言で顔を見合わせ、それから、そろって背後にいる人物を見やる。
「騎士様。つ、次地上に降りるのはいつですか? すぐですよね? ねっ? 早く行かないと、ちょうどいい場所がなくなってしまいますものねっ……!」
小さなシャベルを素振りしている女神様を見て、僕は、ゆっくりと手を上げ……。
コレジャナイ!
【地上に変な宗教が根付く:1コレジャナイ】(累計ポイント-39000)
【悲報・まともなキャラ、消える:20コレ】
※
気づいたらブックマークが500件を超えていました!
どうもありがとうございます!
前作「バグ技」の完結時が、だいたい500でした!
本当にありがとう!




