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第2話 めざめ








「…よう。」


あれ、変だな。私の知らない声がする。きっと今自分は夢の中にいるから、聞いたこともない声が聞こえるのだ。そう結論づけて、夕菜は放っておいた。


すると、夕菜は頬っぺたを突かれているような感覚を覚えた。眠りの時間を邪魔するとはけしからんとして、その何かを払いのけようとした。


そこで、夕菜は目を覚ました。


「おはよう。」


目の前には、自分が好きになりそうなタイプの顔。まして、ただ一言「おはよう」って言われた。夕菜は、自分の胸がドキドキしているのを感じた。


でも、途端に気が付いた。


この人……誰?


どうして、私は男の人の隣にいるような状況にいるんだろう。


そういえば、昨日公園でこの人に声を掛けたんだっけ。それで倒れたから、私がホテルに運んで、それでそれで手を離してもらえなかったから、そのまま……寝ちゃった⁉︎


途端に夕菜は危険を感じて、布団の中の自分の体に触った。


でも、気がつけばそんなことをするまでもなかった。


体のほとんどの部分が布団のすべすべした布地を捉えられているということは、下着以外の服を着ていないということだった。


でも、お尻の辺りには何も違和感を覚えなかったから、特に何もされていないように思えた。


「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」


怯えた表情になりかけていた夕菜に、彼は優しく話しかけた。


「君が昨日、僕をここまで運んでくれたんだよね?」


夕菜は、コクンと頷く。


「それで、風邪をひいていた僕をここに寝かせてくれたんだよね?」


さっきと同じように、夕菜は頷いた。


「僕が目を覚ました時、君はそこにある椅子に座って寝ていたんだよ。」


彼は、夕菜の後ろに視線をやってそう言った。


「悪いとは思ったんだけど、君の服も濡れていたから、その服を脱がせてベッドに移したんだよ。」


すまなさそうに言う男の真実の告白に、夕菜は恥ずかしくておかしくなりそうだった。


「そ、その……何もしてない……のよね?」


夕菜はそれを言葉にすることは躊躇ためわれて、わかる人ならわかるような言い方で男に聞いた。


「え、何もしてないって、何のこと?」


にも関わらず、この男の人は非常に鈍感だった。夕菜をからかうつもりかと思いきや、夕菜が男の顔を見ると純粋無垢な嘘をついていなさそうな表情だったので、夕菜は狼狽ろうばいしてしまった。


「その、私の体に何もしていないのよね?」


それが、夕菜にとってオブラートに包んだ言い方の限界だった。


さすがにその言葉がどういうことを表現しているかを理解したのか、男の人は顔を少し赤らめつつ……


「も、もちろん何もしてないからあ、安心してほしい。」


まるで、子供のような動揺している様子を見て、夕菜は思わずクスリと笑ってしまう。


「わかってるわよ。私が風邪ひかないようにしてくれたんでしょ?」


シーツに体を包んで歩き出した私は、まだ乾ききってない壁にかかっている服に手を伸ばす。


「あっち、向いてて」


彼は、慌てて首を向こうに向けた。


何か視線が来ている感じがしないでもなかったものの、とにかく夕菜は素早く服を身にまとった。


「君の名前をいい?」


2人ともやることがなくなっていたので、その一言が気不味くなった雰囲気を打ち砕いた。


「白間 夕菜。それが私の名前。」


「夕菜か。綺麗な名前だね。」


彼は、そう言った。でも夕菜にとっては、そういう思いが強くはなかった。


別に夕菜という名前に不満があるわけではなく、その名前を夕菜につけた親が許せないから素直に好きとは思えなかったのだ。


「夕菜ちゃん、学校に行かなくて大丈夫?」


その瞬間、夕菜はゆでダコになった。元々、夕菜は年上の人にちゃん付けで呼ばれたい願望がある。彼に呼ばれた瞬間、夕菜の心はとても熱くなった。


「夕菜ちゃん?」


夕菜が何とか人にはわからない程度に悶絶していると、さすがに不思議に思った彼が声をかけてくる。


「え、は、はい!」


何とか変なところに飛びかけていた意識を引き戻して、とりあえず返事をする。


「本当に学校は大丈夫?」


恐らくは2度目であろう質問を聞いて、夕菜はデスクの上に置いてある時計をみる。


時間は8時過ぎを示していた。高校は、ここから徒歩で数分で遅れることはまずあり得ない。


だけど、そもそも夕菜は学校に行く気があまりなかった。昨日の夕菜だったなら……。


けど、恥ずかしさや嬉しさ何かがごちゃごちゃになっている今、その原因になっている彼とこの後一緒にいれば、気が動転してしまいそうだった。


「あ、ヤバっ。遅れちゃう!」


だから、わざと慌てている風を装った。


ところで鞄はというと、実は学校に持ってくることは強制されていない。


夕菜の学校では、タブレット授業が導入されており、基本的に紙媒体はその場で配られる。


書くものとか、ポーチなどは学校のロッカーに置いてあるから、本当に家から持って行かないといけないものはゼロに近い。


「そっか。じゃあ、頑張って!」


何かそっけないな、そう思えるセリフだけれど、夕菜は嬉しかった。


「あっ!!忘れてた、これ、はい!!」


彼の手には、一万円札が2枚あった。


「昨日、僕の代わりに払ってくれたでしょ。」


そこで夕菜は、そのお金が何なのかに合点がいった。


でも、かかった金額の倍以上もある。


「これ、1枚多いわよ。」


もちろん、貰っても良かったのだろう。たぶん、彼は好意と感謝の意味でくれたのだろうと夕菜には見当が付いていた。


でも、夕菜には受け取ることが躊躇ためわれた。


「わかった。じゃあ、こうしよう。次にどこかに一緒に行く時に、そのお金が余ってたらその費用に充てたり、僕の分を驕ってくれたらいいから。」


それは、彼なりのアプローチなのだろう。夕菜はその周りから美人と思われる容貌だから、過去に数人の男の人と付き合ったことがある。


でも、こんな誘い方は初めてだった。


「わかった。受け取っとく。」


少し赤くなっている彼に対して、夕菜もちょっとぶっきらぼうに返事をした。照れ隠しだった。


それで、夕菜は彼とラインを交換した。


「すがわら ゆうき?」


ラインの名前を見た。


「うん、僕の名前は菅原 優希。よろしくね、夕菜ちゃん。」


ふと夕菜は、顔を上げた。すると、その爽快な優希の笑顔が夕菜にはとても可愛らしく見えた。


「どうかした?」


優希の声で、自分が優希の顔に見惚れていることに気付いた夕菜は、慌てて視線を移動させた。


「そういえば、学校急がないといけないよね?ごめんね、引き留めて。」


優希の言葉にどう返そうかと必死に考えていたけれど、優希が話題を変えてくれたのでその必要は無くなった。


「そうだった。また連絡して?」


そのまま、一度だけ振り返って優希の顔を脳内に焼き付けた夕菜は、部屋を出て学校に向かった。


学校に特に行く気のない夕菜は、珍しく登校することに決めていた。








この小説の投稿は、不定期です。

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