1話 夜の歌声
ミロクがスヤスヤと寝息を立てている。
寝る必要のない月の犬は、夜の町へ走り出した。
所々から洩れるアルコールの香りにノスタルジックな記憶を刺激される。
一人の老人が町をヨタヨタと歩き人々の進む道の端に腰を下ろした。
老人に興味を持った月の犬はかけよっていく。
「おじいちゃんは何をしているの?」
突然現れた白い狼に老人はギョっと驚いたが、
月の犬の無邪気な表情をみて頭を撫でる。
「この町はどこか不気味で面白いだろ?」
「誰も自分以外の事を気にしていないからな。」
ケタケタと老人は笑う
「だから誰にも気にされずにここで悪の歌を歌っているんだ。」
「へえー。聴いてもよい?」
「もちろんさ」
老人は楽器を取り出し静かなミドルテンポの曲を歌いだした。
悪の歌と老人は話していたが、美しい音色の曲だ。
「おじいさんの曲かっこいいね。好きだなー。」
月の犬がワクワクしながら尻尾をふる。
すると
遠くから若い人間のグループがどっと押し寄せて来る。
アルコールの臭いがツンとさせる。
若い人間達は老人の曲に気がつくと
「この町でダサい曲を流してんじゃねえよ老害~」
ケタケタと仲間たちも笑う
「古臭い音を止めろよ。」
月の犬は牙を剥き出しウーッとうなり声をだしたが
老人が笑顔で月の犬を止めた。
「そうだね。音楽も美しい日々も君達若者の物だよ。」
「老いた僕はこの辺でさよならをさせて頂くね。」
老人は笑顔で楽器の横にある赤いボックスを手に取った。
蓋をあけるとここからもアルコールに似た臭いがする。
アルコールよりも悪意の香りだ。
老人は悪の香りの水を頭からかぶると若者グループに微笑んだ。
「笑わないで。次は君だよ。」
マッチを擦ると老人は燃え出した。
その光景にも町の人間は興味ない。
ただ手元の光を見ながら歩いていた。夜の町は続いてる。




