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19話 再会 7月28日

「じゃあ日程はおいおい考えるとして…予算はこれくらいってとこか」

「そうね。それだけあれば十分だと思うわ」

「金貯めないとなぁ…」


どうせ行くなら2人で行ってもいいんじゃね、という俺の見事な提案で無事(?)一緒に長野に向かうことになり、その計画を立てること数時間。

移動経路や旅費、どこに宿泊するかなど(部屋は別)、それなりに話はまとまった。

そして何より、思ったより旅費が掛かりそうだということに半ば愕然としている。


しかし…なんだな。

これだけ見ると、夏休みに初めて2人で旅行に行くカップルに見えなくもないんじゃないか…?

なんならカップル以外に見えないまである。

いやいや、違うぞ。

そんな邪な気持ちは一切ないのだ。

まるで、全然、これっぽっちもない。

あくまで愛未の事や、黛さんの叔父さんの事を解決するために行くのである。

ホントだぞ?

オニイサン、ウソツカナイ。


「どうしたの?」

「あぁ、いや。何でもない」

「そう?」

「オニイサン、ウソツカナイ…」

「え?なんて…?」

「いやほんとなんでもないっす」


何を言いやがるんだ俺の野郎。

心の声が漏れ出てくるとか、ちょっと自己主張が激しいんじゃないの真なる我。


「そういや、黛さんはバイトとかしてるのか?」

「えぇ。寮の近くの古書店で週に何回か」

「そっか。なんか似合うな」

「そうかしら…?初めて言われたわ」


古本屋じゃなく古書店と言うあたりなんか如何にもである。

薄暗い店内で売り物の古本を読みながらも、たまに入ってくる客には律儀に目を向け、しかしまたすぐ読書に戻ってしまう様子がぼんやりと目に浮かぶ。

それはもう存分にビブリアってそうである。

栞子さんの話は読んだことないんだけど。


「俺もバイトしなきゃならん。この間知り合った人が紹介してくれるらしいんだけど」

「大丈夫なの、それ」

「大丈夫…だと思う。悪い人じゃないし」

「あからさまに悪い人なんて、そうそう居ないと思うけれど」

「ま、まぁ、確かに…」

「でもあなたなら、何かあれば“やり直し”が効くわよね」

「…あぁ、そうだな」


タイムリープ。

過去に戻る事の出来る術。

この力を使ってテキトーに宝くじでも当ててしまえば簡単に大金が手に入る。

例のアプリの使い方を理解した今なら、それは容易なことだ。

現にその発想に至ったのは初めてではないし、きっと誰しも思いつくことであろう。

だがそれを実行に移す気にはどうしてもならなかった。

事の是非を問うてのことではない。

確かにかなり卑怯なやり方だと思うし、良心が咎めない訳でもない。

でもそれ以前に、なんというかこう、本能的な部分で手を出してはいけないと感じている…みたいな?

ぶっちゃけ自分でもよく分からん。


まぁ、SFとかだと私利私欲の為に過去を改変した結果、いつの間にか取り返しのつかない事になっている…とかド定番だしな。

……それに、ちょっとした事で今が大きく変わる、なんて身に覚えがないわけじゃない。

極端な話、既に何か取り返しのつかない事になっていたとしても不思議ではないのである。

もっともそんなことはごめんなのだが。


そんなこんなで、この力は無闇矢鱈と使うべきものではないと俺でもわかる。

だからここは真っ当な方法で金を稼ぎ、その上で愛未に会いに行くのが無難なのである。

と、そんなことを考えていると。


「ん?」

「あら、どうしたの?」

「いや、電話みたいだ」


ポケットに入れておいたスマホがブーブーと振動し続けている。

誰かからの着信を示しているのだ。

画面に表示される発信者は東さんであった。

バイトの話かな。


「悪い、ちょっと」

「えぇ」


席を立ち、黛さんから少し離れた位置へ。


「悪い、待たせた」

『やっほ、今いいかい?』

「大丈夫だ。バイトの話か?」

『いや〜その通りなんだけどね』

「おう」

『今日出れないかな?』

「は?」


いやいやいや、いきなりにも程があるんじゃなかろうか。登録とかあるんじゃないの、こういうバイト。


『急なのは分かってるんだけどね。欠員出たらしくてさ』

「あぁ」

『登録とかは後回しでも構わないから人手が欲しいんだって』

「いや、今日いきなりは勘弁って…」

『夕方からの現場で、いっつも早く終わる所だからどうかなぁと』

「そんなこと言われてもな…」

『いきなりだから給料にもちょっと色がつくっていうし、ちょうどいいと思って!』

「そ、そうなのか…」


確かに今の俺にとって悪い話ではない。

予想より大分稼がねばならないという現状では寧ろありがたい話である。

それに黛さんとの話も一段落ついた所だし、ここで解散になっても特に問題は無い筈。

…よし。


「まぁ、用事もちょうどキリがいいところだし、行ってもいいかな」

『よっしゃ!18時までに新宿だからよろしく!詳しくは後でメールするねん』

「お、おう」


疾風迅雷の如く駆け抜けて行く電話であった。


「悪い黛さん、この後予定が入った。今日はこの辺でいいかな」

「構わないわ。粗方の方向性は決まったし、後はメールなり後日なりで問題はないでしょう」

「あぁ。じゃあまた。気を付けて」

「えぇ。あなたも」


黛さんに背を向け、エレベーターへと向かう。

18時までなら少し余裕はあるが、なるべく早目に行動したい俺である。準備とかもいるだろうしな。

飲み物とかタオルとか。軍手とかも必要だろう。

さくっと調達していくか。


なんて考え事をしながら歩いていたせいか突如として目の前に人が現れ、ぶつかりそうになってしまった。


「あ、すみません」

「……」


大柄なその男は、じろりとこちらを睨みつけたかと思うと、ほんの一瞬だけ何故か俺の後方に視線を向けた。

そしてそのまま少し横のエスカレーターで降りていってしまう。


「なんだあいつ…」


男が視線を向けた先にはさっきまで俺と黛さんが話をしていた席があり、今は黛さんが1人で読書をしている。

そういや前に喫茶店で別れた後も、ああやって読書してたみたいだな。

少し古ぼけた小難しそうな本だった。


あれも古書店とやらで買ったのかな。

話の種にでも今度聞いてみようか。

そんなことを考えていたら、誰も乗っていない下りのエレベーターが俺を招き入れてくれた。



- - -




「あぁ、東さん。俺だ」

『ほいほい、どったのよ』

「いや新宿着いたんだけど、どこ向えばいいんだ?」

『あれ?さっき地図送ったべさ』

「なんか開けなくてさ」


時刻は17時半過ぎ。

早目に駅に着いたはいいが詳細な集合場所が分からず、こうして東さんに助けを求めている。


『あれま。う〜ん、今どこ?』

「南口を出た所」

『西口の方なんだけど分かる?』

「西口なら分かるぞ」

『西口からね、えーっと』

「おう」

『めんどくさいから迎えにいくね☆』

「お、おう…」


きゃるる〜ん☆という感じで言われてこれほど心踊らないことはそうそうなかろうな…。



- - -




「よっす!お待たせ〜」

「悪いな、わざわざ」

「いいってことよ。どうせ近くに居たし」


待つことしばし。

やっほ〜とばかりに東さんが迎えに来てくれた。

こうして直接顔を合わせるのは2度目のはずなのだが、実に東さんらしい登場の仕方だと思ってしまうのは奇妙な感覚だ。

メールや電話で何度かやり取りをしたが、お互いのことはよく知らない。

出会ったのは昨日が初めてなのだから至極当然のこと。

それでもこうして親しげに接してくれるのは、東さんのコミュ力のなせるわざなのだろうか。


「いや〜急でごめんねぇ」

「構わんよ。ちょうど用事も終わったところだったしな」

「ならよかった。サクッと仕事して稼げるなら、涼くん的にもいいかなと思ってさ」

「助かる」

「んじゃあ、のんびり向かうとしますか。こっちだよん」

「あぁ」


とことこと突き進む東さんに従い、歩を進める。

大都会新宿を迷いなく進むその様は、見た目に似合わずどこか大人びて見える気がして。

可愛らしい顔立ちとのギャップに思わず見蕩れてしまいそうになる。

そんなことを知ってか知らずか、東さんはにこやか笑顔でしきりに話しかけてくれる。

同じクラスにこんな子が居たら惚れてしまう男子は多いのではないだろうか。

ある意味魔性の女なのかも知れぬ……。


「そう言えば涼くんはさ」

「うん?」


駅から少し進み、歌舞伎町方面へ向かうガード下辺りを歩きながら、東さんが話を仕切り直した。


「勉強は得意かい?」

「勉強…?全然かな。夏休みの課題もまだ手をつけてないし」

「そっか〜。でも得意科目位はあるでしょ?」

「得意科目か。なんだろ」


突然自分の得意科目はと問われても返答に悩む。

自信を持って言える物があればいいが、そうではない人間も多いだろう。

かく言う俺もその1人であるからだ。


「ふふ~ん。当ててあげよっか〜?」

「当ててみ」

「物理学とか!」

「物理学?」


妙に得意げな東さんはいの一番に物理学を上げてきた。

しかし普通の高校生はあまり物理学の勉強はしないんじゃなかろうか。

そう言おうとした時、立て続けに次の言葉を畳み掛けてきた。


「そうそう、例えば“タイムトラベル”とか」

「タ、タイムトラベル…?」


なんだ?

急に何を言い出す?

たまたまか?

東さんがそういうジャンルが好きで、たまたまその話を振ってきただけとかなのか?


「タイムマシンとか〜」


先程までの他愛ない話と何も変わらないかのように言葉を続ける東さん。

そうだ、これはただの世間話。

タイムマシンだのなんだのと、SF好きならその手の話をしたくなるのは何ら不思議ではない。

だからここは下手に取り乱したり、言葉を濁したりせず、今まで通り無難に返答をすればいい。

そう思った矢先。


「タイムリープとか」


そう発した彼女の眼鏡の奥の瞳は、今までのそれとはまるで別人かのように冷たくて。

心の奥を見透かすかのように鋭く、そして真っ直ぐに俺の瞳を射抜いてきた気がした。

お久しぶりです。

パソコンが壊れて絶望していました。

スマホで書いてみたのですが、見づらかったらすみません。

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