少女はケツを乗せる1
朝から晩まで引きこもるのは、俺が無職だからではない。学生で不登校というわけでもなく、なにかの病気というわけでもない。
俺は小説家だ。とはいってもまだ売れてない、売るものすらない自称小説家だ。
空想ばかり一人前で、いつの間にか大人になり10年。もう30歳になる。
最初の頃は人気作家になる予定だった。誰よりも面白い話を書き、ドラマ化もされ、賞を取る。それを現実的な目標として掲げていた。
今ではなにも成したことのない人生に、せめて一輪だけでも花を咲かせようとペンを持っている。だけれどもなぜか机に向かうと面白い話がつまらなくなる。
寝ながらだと面白い話が考えられるんだよなと思いながら、また昼も夜もなく寝てしまう。
ゴミのように積まれたものに囲まれて布団をかぶり、目を閉じる
。
そうすると空想物語の始まりだ。
今日は冒険物、個性的なパーティーと魔王退治のために旅に出る。これはいけるぞと、面白いぞと話を進めるが、また途中で意識が薄れていき寝てしまった。毎日がそんな繰り返しだ。
もちろん社会から逃げたような人間の俺は、考えたくないことは考えない。周囲の熱烈な就職しなさいというアプローチは、ことごとく無視している。
俺はこの部屋で生き、この部屋で死ぬ覚悟だ。
しかしながらどうしてだろうか、息が苦しい。酸素が体に入ってこない。生きたくても息ができない。
命の危機を感じ、眠りに落ちた体を必死に蘇らす。
どうやら俺の顔の上になにかが置かれているようだ。
退けようと手を当てると、ぷにぷにと柔らかい感触がする。これはまさかと顔を動かす。やはりそうだ、この弾力はケツだ。
「汚ねぇもん乗っけんなー!!」
眠りから這い出る勢いで立ち上がると、目の前に倒れた少女がいた。
それは少女。小さな体と幼い顔、12歳くらいだろうか。飾り気のない少女は乗っていた俺の顔から落ちた勢いで、本棚におでこをぶつけたようで、痛そうに押さえていた。
「なにするんですか!いきなり!」
少女はこちらを振り返り、詰め寄る。
俺は考えていた。こいつは誰だ。ケツを乗せられた時点で、俺はおそらくそれが親父だろうと予測した。もちろんケツを乗せるような親父ではないが、他の家族では親父以上に想像できなかったからだ。
だがしかし見覚えがない。こんな少女とは知り合いではない。どう見ても妹の変装ではなさそうだし…。
「てめぇは誰なんだよ、人の安眠すやすや…じゃなくて大切な小説のネタを考えていたときにケツなんかを…」
と言いかけたときに思った。10年という引きこもられた人生の中で女の子のケツと出会えたことはあっただろうか。いや人生の全てでもない。
そんなケツをたっぷりと味わうこともなく、俺は振り退けてしまったのだ。
俺は膝から崩れ落ちる。
「うおぁああああ!!」
泣いた。泣きまくった。後悔した。燃え尽きた。
この少女が誰かなんていい。俺はロリコンではないが、もう一度味わえないだろうかと考えを巡らせる。なぜならこんなチャンスもうない可能性が高いからだ。
「え、あの、いきなりどうされたんですか?」
少女が俺の様子に戸惑う。
頼んだらいけるだろうか。いやいやいくらなんでもそれはダメだ。こんな少女に俺はなにを求めているんだ。正気を保て俺。
理性を勝たせようと息を整える。
そして、俺は寝転んだ。さぁ来い、俺は寝ている。
「………」
「………」
「それで君は誰なんだい?」
「なんか、きもい」
「きもいってなんだ!つか誰だよ。俺の顔にケっ…ケツなんか乗せやがって」
俺のキモくはない言葉に少女は、てへっと頭に手をやる。
「すいません。部屋が散らかりすぎていたので、そこに顔があることに気づきませんでした。」
ぺこりっと頭を下げる。
「妹の友達か?」
「まぁそんなようなものですが、これ」
と、少女は足元から本を拾う。
手に取ったその本に書かれていた著者は、片桐 敦士、つまり俺だった。