束ノ間ノ衝突
説明回その二。以上終了←今日は寝かせんぞ(フルボッコ的な意味で)
-この戦いが貴方のせいで起きた?-
-笑わせないで下さい。たかが貴方一人のせいであれだけの人が死んだと本気で思っているんですか?-
-検討違いもいいところですね-
-貴方も私も盤上にある駒の一つにしかすぎない-
-貴方は駒の分際で随分と傲慢ですよ-
-この際なので言っておきます-
-私を殺すのも貴方自身を殺すのも筋違いです-
-貴方が殺す相手は他にいるでしょう?-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
蓮道の家は神社だった。そこの一角を借り俺達は話し合っていた。
グレイブとムルスの話しは俺の事を含めてもなお、驚くほど簡単に纏まった。
「確認しますが貴方達の目的は十三器の破壊もしくは封印ですね?」
「ああ、結名はともかく少なくとも俺はな。
それより、お前はどうするんだ?元一般人。なんならお前は俺たちの後ろでこそこそするだけでも構わないぞ。この状況で逃げても誰からも責められはしない。むしろそれが普通だ」
「ふざけんな。巻き込まれただけとは言え俺ももう当事者だ。それにトールを殺した以上は無関係じゃいられないだろ」
「確かに我が師を殺したのは仕方ないのかもしれませんが得策ではなかった。アレが無ければまだ貴方は逃げれた……」
やっぱりアレは不味かったか、そう呟こうとすると、
「と、思っていましたか?それは些か認識が甘いと言わざるおえませんね」
ムルスは俺を警告するように睨み付ける。その視線に真っ向から向き合いながらムルスの言葉に耳を傾ける。
「貴方は予言に選ばれた。予言、それが何を意味するのかを私は知りませんが遅かれ早かれ貴方はこの戦いの当事者になっていましたよ。トールの殺害はただの切欠でしかなかった」
「予言ねぇ……何だそりゃ?」
「さあな。少なくとも十三器とお前の体だけが目当てなのは分かるが……それ以外はさっぱりだ」
軽く悩むそぶりを一瞬だけ見せ、ムルスは「さて」と仕切り直すように俺とグレイブに語りかける。
「私は貴方達が魔本を破壊する前に数分だけでいいので貸して貰いたい。その為にステンベルグ、貴方や貴方の味方への協力は惜しみません。どうですか?」
「お前が仕様した後はすぐに破壊するが?」
「ええ、構いません。オリサキ、貴方から何かありますか。無ければ……」
「シュタット研究所。お前の出自は彼処に関係あるか?」
「シュタット?」
何処だ、その質問は聞けなかった。グレイブもムルスも眼光が一触即発の空気を放っていた。
「……まさか知っているとは」
「勘だよ。一番当たって欲しくない答えを聞いただけだ。
悪いことは言わない。諦めろムルス・クライソン。お前の望みは叶わんぞ。魔刻十三器が規格外の神秘の遺物だとしても、だ」
「それぐらい分かっています。ですが賭けられる可能性がもうこれしか残っていない。ならば私はこの戦いに私の全てを賭け、挑み私の本懐を遂げたい。
二度と魔術が使えなくても構わない。ただ、私は残った希望に私の全てを預けたいのですよ、ステンベルグ」
グレイブは少しの間を空けると、
「分かった。俺達はお前と手を組もうムルス・クライソン」
答えを出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「グレイさん、話しは終わりましたか?」
「おやおや、どうやら我々は可愛らしいレディを待たせてしまったようですね、ステンベルグ」
「俺に振るなよ」
蓮道とアイクがタイミングを見計らったように俺達の居る部屋にお茶を持ってやって来た。
「話の意味、分かりましたか?」
「いいや。全く分からん。グレイブもムルスも外国語喋っているようにしか思えないね」
「ふふ、私もです」
あの会話の意味が分からない人間がもう一人いた。
「一位なら色んな事を知っているんじゃないのか?」
「いえ、そんな事はありません。現に私はこの戦いについて殆ど何も知りませんよ」
小さく首を振りながら俺の質問を否定する。
「だから知るためにここにいるのですよ。私は知りたい。この戦いの未来を。その上で私が出来る限りの事をやり遂げたい。その為にグレイさんに協力しているんです」
「……へぇ」
純粋に立派だと思う。良くも悪くも自分の目的の為だけに動いている俺達とは大違いだ。
その清い視線と強い姿勢があの人に一瞬重なる。冗談じゃない。何でこんな胡散臭い奴とあの人が重なる?バカじゃないのか、俺は。
「結名さん。あなたは何故戦いに身を置いているのですか」
「俺は……」
「俺は?」
「…………俺は死にたくない。俺の大切な奴らを死なせたくない。それだけだ。身に降りかかる火の粉を払うためだよ」
「分かりやすいですね。それにありふれている」
その言葉に苛立ちがなかったと言えば嘘になる。
「お前……ッ!」
「はいはーい。沸点が低いのはいいけど今は止めてね結名くん」
アイクが俺の軽く肩を押さえると、俺のお茶を勝手に飲みだした。おいこら、俺の茶だぞ。
「すみません、不愉快な気分にさせてしまって。ただ、あなたがどんな人間かを見たかったんです。謝ります」
「…………」
綺麗な姿勢で謝罪される。なんだか居心地が悪い。俺が悪いわけではないのに。
「アキ、私のお茶はないの?」
「用意しますね。グレイさんにムルスさん。お二人ともはお代わりはどうです?」
蓮道はグレイブとムルスに茶を注ぎに行った。あの二人、飲むの早すぎるだろ。
「何なんだ、アイツ」
「結名くんはアキのことが苦手みたいね」
「あんな言い方されたらだれでも嫌うっての」
ムカついた。無性に。そして、どうしようもなく。
「私個人としては結名くんとアキが仲良くしている所を見たいんだけどな~。どうかしら?」
「知らないな。それよりアイク、アイクは十三器を持っていないのか?」
疑問に思っていた事を聞くとアイクは言いづらそうに首を振る。
「私は持ってない。きっと縁がなかったのね」
「……アイク?」
最後の一言は少し気になったが聞けなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日は蓮道の家に泊まることになった。
「なぁ、ムルス。何で俺達と手を組むんだ?客観的に見たら俺がいるグレイブよりも神父の方がいいんじゃないのか?」
「ステンベルグを、十三位と七位を敵に回すのは得策ではないと判断したからです。あの二つは魔術師にとってみれば天敵そのものですからね。ついでに言うとエルネスト達とは顔見知りですからどういう方々なのかは分かりますが、ステンベルグは全くの不明だ。それが怖かった」
グレイブの事と魔術師の天敵。その言葉が引っ掛かった。
「十三器にはそれぞれ固有能力が有るのは知っていますね?」
「いや、知らん」
「…………オリサキ、貴方はステンベルグから何の説明も受けてないのですか?いや、ステンベルグが説明をしていないのか」
ムルスは呆れたように俺を見つめため息をつく。
「少なくとも魔剣の固有能力には心当たりがあるのでは?」
「……分からない、教えてくれ」
「『狂化補正』」
「へ?」
ムルスが口にする言葉の意味が分からなかった。
「狂化……つまり、理性を棄てる戦いを選べる能力です。こう言えば分かりますか」
「……あれか」
レオグルス達と戦った際のあの暴走はそういうことか。おぼろげにしか記憶にはないが、確かにアレは狂っていたに違いない。
「元々、一位以外の十三器には暴走する危険性が孕んでいます。しかし、魔剣はその比ではない。推測の域を出ませんが魔剣は暴走することが使用の前提にある」
「なら何でトールは魔剣を?」
「消去法ですよ。トールは在命の内に4つ十三器を見つけ、自分のものとした。
三位と同調率が高く暴走する危険があった。魔術師が七位を使うのは論外。十位は使い方が分からない。結果、四位。つまり、魔剣を使うことにした。と言っても彼からしてみれば護身用以外に魔剣の用途はなかったようですが」
自分の無知が嫌になってくる。蓮道もこんな気分でグレイブと共にいたのだろうか。
「なあ、他のはどういう能力何だ?レオグルスとか神父とか」
「そうですね。魔晶は『物質変性』。周囲の物質を魔晶へ変性させる、そんなイメージを持てば分かりますね。魔面は『使役統御』。魔面を装着させれば有機質、無機質問わず使役できる。エルネストは屍兵の制御の為にしか使っていませんがね」
「やっぱり接近戦じゃ厳しいか」
今分かる敵の特長を聞くと気が滅入った。あまり真正面から戦いたくない。トールの時みたいに不意討ちで倒せるに越したことはないが難しいだろうな。
「おっと話の前置きが長くなりましたね。どんな話でしたっけ」
「七位と十三位が魔術師の天敵だって言われる理由は?持っているのがグレイブだからなんて言うなよ」
「それもありますが、さすがにステンベルグ一人が理由ではありませんよ。七位は『魔力霧散』。十三位は『魔力収束』。二つの特性は名前で分かりますね?だから、魔術師の天敵なんですよ。魔術がうまく発動しない、させてくれない。
ステンベルグは魔術師を敵に回さないためにあの二つを己の得物として選んだのでしょうね。リスクを犯してまで七位を奪ったのは戦う敵を十三器のみに絞りたかったから」
厄介な事ですよ_そう締めくくる。俺はムルスに他の十三器の話を聞こうとした。が、
「クライソン。あまり口が軽いのは誉められたことではないと思うのだが?この先お前を信用出来ない」
蓮道を連れていたグレイブがムルスに警戒を多分に含んだ声で警告をする。
「聞かれた事を答えたまでですよ。それに我々の間に信頼はあっても信用なんてものがあるのですか?」
一触即発そんな空気だ。
(これ不味いな……)
グレイブにもムルスにもこんなつまらない所と理由で傷ついてもらっては困る。なら、話を逸らす。
「蓮道、お前は何でグレイブを変な呼び方しているんだ」
「?変ですかね?グレイブさんと呼び辛かったのでグレイさんと呼んでいたのですが」
いや、変じゃないけどさ。普通に普通だけどさ。少しは察してくれないかな、この鈍感女。
「確かにグレイブ呼び辛いし、墓なんて名前は縁起が悪いよな。俺もグレイって呼んでいいか?」
「…………知るか。勝手にしろ」
「はーい、勝手にしまーす」
そう呟くとグレイブは、いやグレイはムルスにもう一度釘を刺し自分に宛がわれた部屋へ戻ていった。
「……ふぅ、あの殺気には慣れませんね。取り敢えず礼は言っておきますよ、オリサキ」
「慣れないならやめてくれ。勘弁しろよ。お前らが戦えば俺の方が持たない。グレイブをどうやって止める気だったんだよ。まともに戦えばお前はアイツの勝てないだろ?」
「勝てないなら勝てないなりの策を練るだけですよ。それより貴女は何のようです?」
ムルスはそう言いながら天井を見上げる。すると、
「あ、バレてた?」
やっぱりと言うべきか、アイクが出てきた。天井から降りてくると彼女の手には近くにある遊園地のチケットが四枚握ってあった。
「それは何だよアイク。すげぇヤな予感がするんだけど」
「何ってデートですよ結名さん」
「………はい?」
何だか途轍もない事をさらりと蓮道に言われた。
「アイクさんに頼んだんですよ。明日、貴方と私とグレイさんと貴方の幼馴染みの莉桜さん。その四人でダブルデートをしませんか?あ、拒否権は認めませんよ。莉桜さんも承諾してくださいましたし。ムルスさんとアイクさんも護衛としてつくみたいですから。だから、ね!」
「…………………はあぁぁぁぁッッーーー!!?」
俺は夜だと言うのに周囲の迷惑をも気に留めずに大声で叫んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ここは?」
覚醒すると褐色の女は自分が全裸であることに気付き、赤面と同時に服を探す。
「衣服ならこちらで用意していますよ。シャイル」
「エルネスト……貴様!」
女は今の自分の姿を忘れエルネストを殺すつもりで殴りかかる。 だが、
「■■■」
「クソッ……化け物め」
アッティスにいとも容易く防がれる。全力の攻撃を防がれた。なら、もうどうしようもない。
「シャイル、貴女に一つ仕事を頼みたいのですが。よろしいですか?」
「どうせ、拒否権は無いのだろう。早く用件を言え」
エルネストは小さく頷き微笑むとシャイルに仕事を命令した。
「織崎結名……その少年に関わって下さい。最悪、我々を裏切って構わない。彼と共に私達を滅ぼす事も自由です」
「……意味が分からない。何の心算だ?そもそも、その織崎っていうのは誰だ?」
「織崎結名は貴女の完成形です。しかも天然ときている」
「…………何?」
シャイルと呼ばれた女の顔が凍りつく。
「では、頼みましたよ」
エルネストはそれ以上は何も言わずに出ていった。
「……織崎結名……ッ!」
シャイルは血が出るまで自分の拳を握りしめていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔刻十三器
第一位「魔天」蓮道亜輝
第二位「??」
第三位「魔槍」アリア・フェリス 『第四の代替』
第四位「魔剣・狂化補正」織崎結名 『無二の器』
第五位「??」
第六位「??」
第七位「??・魔力霧散」グレイブ・ステンベルグ (推定)
第八位「??」
第九位「魔晶・物質変性」レオグルス・ゴーラル 『第二の為の戦士』
第十位「??」
第十一位「魔本」不明
第十二位「魔面・使役統御」エルネスト・ブローリュク 『第七の狂信者』
第十三位「魔銃・魔力収束」グレイブ・ステンベルグ
今回パラメータはグレイブ(パラメータの見方は前回を参照されたし)
魔銃・グレイブ
攻3~測定不能 防5 速10 魔9 魔防5 維4 同10
この尖りっぷりである。魔銃の魔弾は威力調整がかなり自由が効く感じです。